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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術深淵編
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第五十六章 根本的に花に込めた願い⑧

黒峯家の屋敷へと通じる魔術の施錠が施された扉を突破し、屋敷への侵入を試みる。

それは限られた戦力の綾花達が取れる最善の策。

魔術の本家の者達が綾花達の総戦力を把握出来ていない事を想定した作戦。

先に囮役を買って出た昂が、屋敷への奇襲作戦の総力であると思わせる。

黒峯家の者達は会合に出席しているため、侵入者への対処は外に居る者達に任せるしかない。

ここに裂ける戦力は限られている。

だからこそ、輝明は戦略で勝機を掴もうとする。


「魔術の施錠が施された扉なんて関係ない。全てを覆すだけだ!」

「ああ、任せろよ!」


輝明の合図に、焔は魔術を行使するために扉へと照準をつけた。


「こんな飾り気のない扉、余裕で解除させてもううぜ!」


焔は魔力を励起すると、発動する魔術に力を込めていく。

それは『扉を開けるための魔術』というよりも、『扉をこじ開けるための魔術』というべき代物だった。

会合が行われる予定の部屋では、賓客として招いた昂が引き起こした思わぬ騒動の対処に追われている。

しかし、文哉は誰かが魔術の施錠が施された扉を開けようとしている事に気づいていた。


屋敷の扉の前に誰かいる。

扉を開けようとしている者は魔術の分家の者達か、それともーー。

そこまで思い至って、彼は再び、自身が昂を意識している事に気づく。


舞波昂。

魔術の家系ではないのに魔術を行使する存在。


嫌悪感を覚える相手に、興味を示している。

一見すると脈絡が見えない。

誰かにそれを問われたら、男が返答に窮する存在ーーそれが昂だ。

だが、それでも男は昂の魔力の源を知りたかった。

だからこそ、余計に思い知る。

この感情は紛い物で、黒峯家の重鎮が抱くものではないものだと。


「無理矢理、扉をこじ開けるつもりですね~」


文月は意識を研ぎ澄まし、扉の前にいる者の魔力を察知する。

焔の掲げた魔力が、魔術の施錠が施された扉の力を凌ぐ輝きを纏う。

それはまるで意思を伴った焔。

遥かに待ち望んだ歓喜は、揺るぎない意思として暴虐の嵐へと変わる。


「この魔力は舞波昂くんのものではないな。別の侵入者か、それとも彼の協力者によるものなのか。どちらにせよ、対処せねばならない」


それは文哉にとっての決意であった。

扉を開けようとしている者が、昂と無関係の輩ーー無意味の可能性を宿す泡沫であろうとも。

昂に繋がる芽の可能性があるならば対処してみせる。

それが己の覚悟であると示すが如く。


ここは黒峯家の会合が行われる屋敷。

無辜なる現実世界に目を瞑り、魔術という慣れ親しんだ光景を忘れられない者達の揺り籠の一つ。


無辜なる世界から隔離され、秘匿された魔術ーー。


そんな『いつも通り』を求めた彼らにとっての『日常』に亀裂が入ったのは昂の存在を知った瞬間だった。


魔術の家系ではないのに魔術を行使する存在、舞波昂。

破天荒な彼は世間から秘匿されていた魔術を使って、様々な問題を生じさせていた。


いずれ、世間に魔術という存在が知れ渡るかもしれない。


言い知れない不安は、段々と大きくなりつつあるが……その真実は昂がこの場に現れば、自ずと分かることだろう。


「舞波昂くんがこのまま、魔術を行使すれば、いずれ世間に魔術という存在が知れ渡るのも時間の問題かもしれない。だが、その前に彼の魔力の源を突き止めて、彼の暴走を食い止めれば、魔術の存在はこのまま秘匿されるはずだ」


文哉は事実を噛みしめるように、確固たる決意を示した。


「舞波昂くんは何故、魔術を使える者として存在している。その答えを私達、魔術の家系の者達は知る必要がある」


文哉はその答えを求めるように意識を高める。


「だからこそ、舞波昂くんに繋がる芽は、全てその根本を見極めなくてはならない」


文月と目を合わせた文哉は言を紡ぎ、魔術を展開する。

それは『魔術』というよりも一種の『芸術』だった。


「どちらの魔術が勝機を掴むのか、気になりますね~」


その魔術を目の当たりにした文月は声を華やかせた。


黒峯文哉。

芸術を媒介とする魔術の使い手。

己が青春を犠牲にして、その知と才を受けた者である。

そして、魔術の本家の一つである黒峯家の重鎮の一人。

抗う事は到底、叶わず。

魔術の本家の重鎮の力によって、砂上の楼閣のように崩れ落ちる。

文哉が魔術を行使した瞬間、焔の魔術によって開きかけていた扉は音を立てて閉じた。


「僕達がここに居る事を、黒峯家の者達に気づかれた可能性があるな」

「……へえー、面白いじゃねぇか」


核心を突く輝明の理念に、焔はそれだけで納得したように表情に笑みを刻む。


「黒峯家の屋敷には、魔術の本家の人達が集っている。輝明さんだけで、この扉を開けるのは厳しいんじゃないのか……」

「確かに四人で力を合わせないと、この扉は開ける事が出来ないかもしれないな。舞波と合流すれば、俺が持っている魔術道具も使えるようになるはずだ」


拓也が発した問題証明に解を示すように、元樹も同意した。


魔術で扉の施錠を施した相手は、それ相応の相手かもしれない。

舞波だけではなく、俺達の居場所も既に突き止められていたかもしれないな。


拓也の心中に、その懸念が沼底から泡立つように浮かぶ。


「ううっ……。舞波くんと先生達、大丈夫かな……」


静けさだけが満たされる。

綾花は成す術もなく、静寂に包まれようとしてーーしかし、その声は静かに場を支配した。


「心配なら、仲間の強さを信じればいい」

「えっ……?」


凛とした声が、混乱の極致に陥っていた綾花を制する。

顔を上げれば、そこにあったのは輝明の揺るぎない眸だった。

阿南家の家主の息子が発した気概ーーそれは綾花達を取り巻く周囲の空気が変えるほどの強い矜持。


「言ったはずだ。全てを覆すと。諦めるな、今度は僕と焔で扉の前に立つ」

「うん……」


綾花の悲痛な想いに応えるように、輝明はこの上なく、不敵な笑みを浮かべた。

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