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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術深淵編
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第四十七章 根本的に魔術の本家⑦

翌日、高校の下校時間が過ぎた頃ーー。

昨日、行われた昂の部屋の家宅捜索の痕跡の対処に追われながらも、綾花達はようやく安息を得ていた。

綾花達が改めて、輝明と連絡を取ろうとしていた頃、阿南家では看過し難い情報が届けられていた。


「昨日、黒峯家の屋敷で話し合われた議題。魔術に関わる家系の者ではないのに、魔術を行使する舞波昂という存在。黒峯家にとって、そして魔術の家系の者達にとって、彼はよほど興味深い存在なのかもしれない」


霧雨も止み、屋敷の向こうでは雲の綻びから青空の一線が覗いていた。

幽かな空色は未だ明るくも、彼女のーー輝明の母親の周囲の空気は湿り、重たく敷居に被さっている。

何故なら、屋敷には、異質とも呼べる阿南家の魔術の家系の者達が集っていたからだ。


「……あなたの孫も、ここに来るようにお呼びしたはずですが、何故、私の許しもなく、輝明のもとに行ったのですか?」

「お嬢様、孫の身勝手な行動、お許し下さい。ですが、焔は輝明様に忠誠を誓っております。最近、多発している魔術に関わる者達が(もたら)したとされる過激な動き。輝明様のお側で、警護に当たっておくことに越したことはございません」


頭を下げていた焔の祖父は、そこで意図的に笑みを浮かべる。


「魔術の本家の一つ、黒峯家の屋敷で行われる会合。そこで、他の魔術の家系の者達の動向も明らかになっていくのは間違いないでしょう」

「輝明の警護は別の者達が行っているはずですが、阿南焔は独自で警護に当たっているのですか?」


顔を上げた焔の祖父は、輝明の母親の追及を受け止める。

彼女が見せる真摯な瞳。

その中に隠された不安と戸惑いを、焔の祖父は甘んじて受け止めた。


「お嬢様、申し訳ございません。ですが、黒峯蓮馬の目的は、あくまでも黒峯麻白の心を宿している瀬生綾花。彼女と心を融合させている上岡進、心を分け与えている宮迫あかりになります。そして、黒峯家の者達の目的は、魔術に関わる家系の者ではないのに、魔術を行使する舞波昂になります」


淡々とした口調の中に、輝明の母親は焔の祖父の抱えたものの根深さを垣間見る。

焔の祖父は、阿南家を守護する役目を携わっている。

それは言ってみれば、たとえ同じ魔術の家系の者でも、阿南家に災禍を振り撒く者は容赦しないという信念の表れでもあった。

たとえ、それが黒峯家に災いを及ぼす者だとしても、阿南家の子息、輝明の関係者なら必ず守り抜かねばならない。


「たとえ、黒峯家の者達と遭遇したとしても、強固な警護が付いております輝明様に対して危害を加えることは厳しいでしょう」


少なくとも、玄の父親達は輝明達に手を出してくることはないはずだ。

時を止めるという極大魔術。

それは、少なくとも焔の協力なしでは成し遂げられなかったことだ。

なおかつ、黒峯家の者達の動きが活発化し、黒峯家の会合が迫っている状況である。

今回の焔の協力により、当面は問題を順繰りに片付けていけば良い、という地盤はどうにか確保出来たはずだ。


今、阿南家と敵対すること。


それは、魔術の知識を使う玄の父親も、他の黒峯家の者達も望むところではないに違いない。

下手を打てば、自身も危うい状況に追い込まれるからだ。


瀬生綾花と上岡進。


昂が用いた憑依の儀式によって、二人は心を融合させる結果になった。

後に、玄の父親の魔術の知識を用いることによって、死を迎えた麻白は綾花の心に宿り、人格を結合させるに至る。

しかし、実質、それは生き返ったともいえなくともないが、不完全な形ともいえた。

だからこそ、玄の父親は自身の望みを通そうと、躍起になった。

綾花に麻白の心を宿らせただけではなく、麻白の記憶を施し、本来の麻白の人格を形成させる。

さらには、綾花に麻白としての自覚を持たせようとしていた。


愛する娘の瞳の色は、玄の父親の心の中にだけ、ひときわ強く焼き付いた。

ずっとずっと、娘の傍に。

大切な娘に希う、切実な想い。

それは距離や、関係の話だけではなく、互いの想いのすれ違いも含めて。


それは、綾花に麻白としての自覚を持たせることによって成し遂げられる。

玄の父親は頑なにそう信じていた。


「儂は、お嬢様にーー輝明様に、阿南家に忠誠を誓っております」


感情の篭った焔の祖父の声が、屋敷に響き渡る。


「私はいつまでも、あなたにとってはお嬢様ですね」

「お嬢様、申し訳ございません。ですが、儂にとって、お嬢様は大切な娘のような存在なのです」


輝明の母親と焔の祖父との関係。

それは彼女が阿南家の家主になっても、変わることはなかった。


「阿南家を守ることが、儂の義務であり、信義であります。それは孫の焔とて同様です」


焔の祖父は断腸の思いで座する。

魔術の深遠の果てで、焔の祖父は何を見据えるのだろうか。

玄の父親の旧知の仲で、彼と同じ魔術に関わる家系の人間である輝明の母親は今宵、何を感じるのだろうか。

阿南家に仕える者達はただ、その光景を黙して見守っていた。

この場で何が起ころうとしているのか。

誰しもが、這い寄る魔術の気配に耳をそばだてていた。

その時、緊迫した静謐を壊すような鋭い声が響き渡る。


「相変わらず、辛気臭い話をしてやがるな」

「焔……!」


孫のーー焔の突飛な発言に、頭を下げていた焔の祖父は虚を突かれる。

そして、焔とともに訪れた存在に、阿南家に仕える者達はみんな、戦々恐々と見守った。

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