第四十四章 根本的に魔術の本家④
魔術の本家と呼ばれている魔術の家系は、魔術書を管理していた黒峯家のみではない。
由良家と神無月家もまた、魔術の本家の一つとして名高い家系だった。
魔術の分家の一つである阿南家。
昂の家の家宅捜索が行われていた頃、輝明達はまもなく開催される『エキシビションマッチ戦』に出場してくるプロゲーマー達について論議していた。
「『エキシビションマッチ戦』で対戦することになる八人のプロゲーマー達は、どのプロゲーマーも侮れない実力の持ち主だ」
輝明は『エキシビションマッチ戦』で戦うことになる八人のプロゲーマー達の情報を垣間見ながら、鋭く目を細める。
「由良文月と神無月夕薙。この二人はプロゲーマーであり、魔術の本家の者だ。神無月夕薙は、プロゲーマーになってから間もないが、由良文月に次ぐ実力者と言われている」
「あの由良文月に次ぐ実力者か。……ったく、最高に気分がいいぜ!」
静かな言葉に込められた有無を言わせぬ強い意思。
輝明の凛とした声に、焔は魔術の本家の者である文月と夕薙、二人と邂逅する瞬間を想起して歓喜した。
以前の『エキシビションマッチ戦』で、玄と輝明に勝ったプロゲーマーの中で最強と名高い由良文月。
そして、彼女に次ぐ実力者である神無月夕薙。
輝明は事実を噛みしめるように、確固たる決意を示す。
「僕達が『エキシビションマッチ戦』を制覇するためには、由良文月を含めて、プロゲーマー達に勝つ必要がある」
吹っ切れたような言葉とともに、輝明はまっすぐに焔を見つめる。
「由良文月、そしてプロゲーマー達。僕達のチームに勝ったことを後悔させてやる」
『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で、二位のプレイヤーであり、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームのリーダーでもある輝明。
かって最強の名をほしいままにしていた輝明は、『エキシビションマッチ戦』で垣間見たプロゲーマー達のその凄まじい速度と機敏さを前にしても、特段気にも止めなかった。
しかし、その後の『エキシビションマッチ戦』の大将戦での敗退、そして、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第ニ回、第三回公式トーナメント大会のチーム戦で玄達、『ラグナロック』に二度も敗北したことで、輝明は本格的にチーム戦への移行を決めた。
『輝明くん、まだまだですね~。でもでも、かなり強いです。良かったら、私達の所属するゲーム会社でプロゲーマーになりませんか?』
屈辱的な言葉とともに告げられた勧誘の誘い。
『クライン・ラビリンス』に勝った由良文月達、プロゲーマーを全力で叩き潰すことだけを考える。
オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーは、大会などに出場できない代わりに大会の進行役や模擬戦などをおこなったり、初心者にゲームを教えたりして収入を得ている。
また、公式トーナメント大会の個人戦の優勝者、準優勝者、チーム戦の優勝チーム、準優勝チームが挑戦できる『エキシビションマッチ戦』の対戦相手としても活躍していた。
魔術の本家の者達が、プロゲーマーとして『エキシビションマッチ戦』の対戦相手として立ちはだかる。
まるで長き、永き封印から解き放たれたように、焔は両手を広げて空を仰いだ。
「輝明、絶対に勝てよ。輝明は俺が唯一、認めた仕えるべき主君なんだからよ。あいつらより、弱かったら話にならないぜ!」
青年は心中で主君である輝明に忠誠を誓いながらも、その表情は凶悪に笑っていた。
玄の父親が使える魔術の知識。
それは、昂達が使っている魔術とは根本的に異なる。
昂達が使っている魔術は、昂達の魔力、または昂達が産み出した魔術道具を使うことによって事象を変革するものだ。
だが、魔術の知識は、世界の記憶の概念の一部を書き換えて、事象そのものを上書きしたりすることができる。
陽向が掲げる魔導書、『アルバテル』。
玄の父親に自身の願いを口にしたその瞬間、陽向は魔術を使えるようになった。
玄の父親の魔術の知識によって、自身の魂を魔術書に媒介することで一時的に顕在化することができた陽向は、自らが魔術を使えるようになったことをすぐに理解した。
本来の肉体はそのままに、自身の魂が宿った魔術書によって顕在する存在。
そして、魔術書に記載された魔術を行使することができる存在。
魔導書、『アルバテル』ーー。
陽向は、その不可解な存在になった自身をそう名付けていた。
その膨大な魔力は本来、魔術を使える者ーー昂にも引けを取らない強力なものだった。
そして、焔が仕える輝明は、さらにその上を行く存在になるはずだ――。
青年は、主君である輝明がチームリーダーを務める『クライン・ラビリンス』が挑む『エキシビションマッチ戦』へと意識を戻す。
「全てを覆すんだろう? なら、輝明、俺にーー世界にその全てを見せてみろよ。てめえはなんせ、俺が唯一、認めた主君、『アポカリウスの王』なんだからよ」
焔は不敵に笑う。
自身が掲げた理想を成すその日を夢見てーー。
主従関係を結んでいる二人が交わした誓い。
輝明がいずれ、使役することになる桜色の髪の少女は二人の決意を祝福していた。




