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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術深淵編
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第四十ニ章 根本的に魔術の本家②

『車に跳ねられそうになった兄をかばった少女の事故死』。


娘を目の前で失った息子は、苦しそうに顔を歪める。


「麻白! 麻白!」


玄は麻白の頬に手を触れると、もう二度と目覚めることのない彼女の意識に何度も呼びかけた。


「……ま、麻白」


一転として混沌と化す現実に、彼らとともに歩道を歩いていた玄の父親が呆然と立ち尽くす。

娘が帰らぬ人になったのは、つい先程のことだった。


「あああああああああああああああっ!! 誰か、誰か、麻白を助けてくれ!!」


それを息子とともに、見届けることになってしまった黒峯蓮馬が発した叫びにーー嘆きに、応えてくれる者は誰もいないはずだった。


魔術を使える少年と、『対象の相手の姿を変えられる』という魔術を使うことができる少女と、彼らの付き添いの少年達を除いてはーー。


だけど、昂達は綾花達の存在を肯定し、綾花達が麻白になることを許さなかった。


『あなたが娘をーー麻白を生き返そうとしていることは、独りよがいの片思いと一緒よ』


旧知の仲で、彼と同じ魔術に関わる家系の人間だった輝明の母親。

しかし、彼女は玄の父親とは相容れず、途中で袂を断った。


「それでも、私は麻白に戻ってきてほしいんだ……」


玄の父親は悔悛の表情を浮かべながら、綾花達に訴える。


「君達が否定しても、私は麻白が望む未来をーー私達が望む未来を必ず、手にしてみせる」


仮眠室のベットから起き上がると、玄の父親は乱れた心を落ち着かせるようにそっと胸を押さえる。

そして、社長室に入ると、机に飾っている家族の写真立てを見ながら、彼らから愛しい娘をーー麻白を取り戻すことを誓った。

その確固たる想いは、室内に癒やしの音色を伴う。

優しい黄昏色の花弁が、玄の父親の凍りついていた心を溶かすように一面に広がっていった。






「やはり、分からない。舞波昂くんは何故、魔術を使える者として存在している」


黒峯家の者達が集めてきた情報を収集し、昂の身辺調査を終えた男は苦悩する。

昂の身の回りを探った事で、さらに謎が深まってきた。

駅員に扮した黒峯家の者を使って、昂に接触を試みてみたのだが、曖昧な情報しか収集することができなかったのだ。

唯一の収穫は、『ペンギンの着ぐるみ』のみ。

しかし、この物的証拠も何の手がかりすらもなかった。


「魔術に関わる家系ではない者が何故、魔術を使える?」


集めた情報の解析をしつつ、本腰を入れて調査に乗り出したいところだが、もうじき黒峯家の会合が近づいている。

魔術の家系が紡いだ、延々と続く危うい安寧を取るべきか。

もしくは綱渡りの如き、刹那の決意を取るべきか。

決められる強さは男にも他の魔術の家系の者達にもなく、胡乱な恐怖の中で今日という日は流れ続ける。


「黒峯麻白。黒峯蓮馬の娘の存在も興味深い」


男が呟くその声音は、誰にも聞こえぬように魔術を伴う歌声となった。

それは彼にとって、一つの決意の表れであった。


魔術によって、黒峯麻白の心が宿っている瀬生綾花。

そして、彼女と心を融合させている上岡進、心を分け与えている宮迫あかり。


この事象が本来、起こり得なかった可能性を宿す泡沫であろうとも、それは事実として存在している。

娘を救える可能性があるのならば救ってみせるという玄の父親の意思は実を結び、想いの形として現出していた。

それが己の覚悟であると示すが如く、昂の根本の性質と玄の父親の強い願い、そして輝明の母親の協力を得たことで、魔術と魔術の知識を用いて成し遂げられた確固たる証明だった。


「興味深い存在だ」

「えへへ……、本当ですね~。でも、私は阿南家の家主の息子である輝明くんの方が興味深いですね~」


魔術の深淵を覗くような男の言葉に、向かいの席に座る女性が上機嫌にはにかんだ。

絹のような髪には透明感があり、楽しそうな表情にはあどけなさが残っている。


「それにしても、黒峯家の人達は真面目ですね~。魔術の本家の者達同士で、舞波昂くんの情報を共有したいなんて~」


黒峯家の男と対面しているのは、魔術の本家の一つ、由良家の者ーープロゲーマーの中で最強と名高い由良文月だった。


綾花達、そして黒峯家の者達。


それぞれの昂の足取り調査が終った後も、昂の本質が変わることはなかった。

そして、魔術の本家、分家に関わりのある魔術関係者達の動きも頻発している。

黒峯家の者達の中には、元から内に魔術の知識という特別な力を持つ玄の父親に対して憧憬と怨嗟を孕む存在がいた。

着目している相手が改めて、昂達に害意を向けたとあれば、彼らが自らの行動理念に躊躇うことはないのは明白だった。






「我は納得いかぬ!」


自分の家の様子を見た昂は、地団駄を踏んでわめき散らしていた。

何故なら、物々しい数の警察官らしき人物達が、昂の家を家宅捜索をするために昂達の帰りを待ち構えていたからだ。

裁判所の令状に基づき、自宅の捜索が行われることを警察から説明された昂の母親が戸惑いの表情を浮かべる。


「これは……」


昂の身辺調査を終えた後、通信制の高校に転校する際の説明を改めてするつもりだった1年C組の担任は想定外の出来事を前に辟易した。


「黒峯家の人達はいつも強引だな」


昂の母親が警察の応対に追われているのを見て、元樹は決まり悪そうに視線を落とした。


「無断で、我の家を調べ上げようとするのは納得いかぬのだ!」


昂は憤慨し、己の心をさらけ出す。


「 昨日の件の謎を解くのに忙しい身だというのに、何故、この我がまた、家宅捜索などを受けねばならんのだ! 先生、我に真相を教えてほしいのだ!」

「それほど、舞波に興味と警戒を示しているということだ」


昂の投げやりな懸念事項に、1年C組の担任は的確な言葉を返した。


「ふむ、なるほどな」


昂はその答えに肯定すると、揺るぎない信念を示す。


「確かに黒峯陽向を始めとし、偉大なる我を警戒する者達は山ほどいるからな。なにしろ、我は偉大なる未来の支配者なのだからな!」

「……まあ、舞波は存在自体が謎だからな」


昂の我田引水な結論付けに、元樹はもはや理論というより、直感でそう告げるしかなかった。

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