第四十章 根本的に焔の灯し⑧
「なるほどな。つまり、あの者は我の正装に目をつけたというわけだな」
昂は腑に落ちたように、ご満悦な様子で頷いた。
「あのな……」
「そんなはずないだろう」
昂の解釈に、拓也と元樹は呆気に取られたように辟易する。
もっとも、この時の昂の弁は何も間違っていなかった。
だが、ペンギンの着ぐるみに何の力も宿っていなかったことが更なる火種へと繋がる。
綾花をーー麻白に帰ってきてもらいたいと切に願う玄の父親達と陽向。
昂の魔力の本質を見極めるために、それぞれの思惑とともに動き出していく魔術の関係者達。
そして、焔を始めとした魔術の関係者達の襲来。
この大きな流れは、何も綾花達の周りだけではない。
これは魔術の本家と分家、そして魔術に関わる者達に深く関わってくる事柄だろう。
時間を止めるという極大魔術、魔術の関係者達との遭遇が齎した不安感と焦燥感は拭えない。
「昂の今までの足取りか」
先の見えない魔術による争乱と駆け引き。
進として振る舞っている綾花は湧き上がる不安に押さえるように、自らの腕を掴んだ。
「俺も、みんなの力になりたい」
綾花のーー進の縋るような想いに、綾花と麻白は確かな意思を持って応える。
「これからも、俺がーー私がーーあたしがみんなと共に居るために。あたし達のーー俺達のできることをしてみせる!」
綾花は口振りを順々に変えながら、意を決したように声高に叫ぶ。
「じゃあ、俺、ここでみんなのサポートをするな」
「……綾花」
先を見据えた綾花の意見に、拓也が想いを形にするように言った。
「みんなで一緒に手掛かりを見つけような」
「……ああ、ありがとうな」
綾花は不意を突かれたような顔をした後、すぐに楽しそうに小さな笑い声を漏らした。
「心配するなよ、綾。今回、先生が側にいるから、すぐに舞波の足取りは掴めるだろうしな」
「ひいっ! 何を恐ろしいことを言っているのだ!」
元樹の即座の切り返しに反応して、昂は恐怖のあまり、総毛立った。ふるふると恐ろしげに首を振る。
しかし、自身の置かれた立ち位置を思い出して、昂はその恐怖にかき消されてしまいそうな意識を懸命に繋ぎ留める。
「我は我のやり方で、この騒動を解決に導いてみせるのだ!」
泡沫の安寧の果て、昂は今回のことを目論んできた魔術の関係者達に歯牙を向けた。
それは彼にとっての揺るぎない決意の表れであった。
八方塞がりの状況であっても、諦めない不屈の精神を示す。
それが己の覚悟であると示すが如く、昂は魔術の関係者達に対して憤慨した。




