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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術深淵編
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第三十八章 根本的に焔の灯し⑥

綾花達は湖潤高校を出ると、昨日の昂の足取りを捜索する。

黒峯家の者と思われる電話の主は、美里の態度から察すると玄の父親も一目置く存在かもしれない。

何らかの離れ業を行い、拓也達を欺いてくる可能性がある。

その一つ一つの行動が、魔術の本家の一つである黒峯家の者達の魔力の強さを際立たせた。

多くの人々が行き交う駅の構内は、いつもと変わらぬ光景があった。


「ううっ……」


麻白の心を強くする魔術によって生じた騒動を思い返し、綾花は表情を曇らせる。


麻白の心を強くしたように、逆に綾と上岡の心を弱くしてくるかもしれない。


綾花の脳裏に、いつかの元樹の言葉が蘇った。

いつ何時、魔術による強襲が起こってもおかしくはない。

それほど、綾花達にとって不可解な出来事が立て続けに起こっていた。


「大丈夫だからな、綾花。前に言っただろう。綾花が、綾花と上岡と雅山と麻白の四人分生きると決めたのなら、俺達は綾花の負担を少しでもなくしてみせる」

「ああ。黒峯蓮馬さん達が、麻白に生き返ってほしいと願っているように、俺達も、綾がーー綾の心に宿る麻白が生き返ってよかったって思えるように、これからも目の前のことに向き合っていくだけだ。綾達には幸せになってほしいんだよな」

「うむ。綾花ちゃんとあかりちゃん、琴音ちゃん、そして麻白ちゃんは我の婚約者だ。何の問題もなかろう」

「……ありがとう、みんな」


拓也達の姿を視界に捉えると、追いつめられた表情を浮かべていたはずの綾花の表情は急速に萎えていく。


「おのれ~、黒峯家の者め! 我を翻弄するとは許せないのだ!」

「……はあ。昨日の電話の相手……動きや働きかけは、黒峯蓮馬さん達と同じように強引みたいだな」


元樹が呆れたように嘆息すると、昂は不愉快そうに顔を歪めた。


「もはや、我は手段を選ばぬ! 今すぐ、黒峯家の会合が行われる場所に乗り込んで、綾花ちゃんと魔術書を賭けた天下分け目の戦いに挑むべきだ!!」」

「……それをしたら、おまえはまた、警察に捕まるんじゃないのか?」

「そんなことはどうでもよい。我のテリトリーの中で、我を翻弄し、綾花ちゃんに不安を抱かせたというだけでも万死に値する。我は、黒峯蓮馬と黒峯陽向、そして魔術に関わる者達から綾花ちゃんと魔術書を護らねばならぬのだ!」


元樹が毅然とした態度で告げると、憤懣やる方ないといった様子で昂がそう吐き捨てる。

そして、目の色を変えて綾花のもとに近づこうとした。


「まずは、我に不当な取り引きを持ち掛けてきたあの者に一泡吹かしてやるのだ! この携帯というものは今すぐ破壊するべきだ!」

「あのな……。そもそも、黒峯家の会合が何処で行われるのか、分からないだろう。携帯を破壊したら、そこに繋がる手掛かりがなくなる可能性があるしな」


居丈高な態度で取り返しのつかない過ちを行おうとする昂に対して、元樹は呆れたように眉根を寄せる。


「そ、そうだったのだ!」


本来なら警告など歯牙にもかけぬ昂だが、その衝動的な行為で黒峯家の会合の手掛かりがなくなると分かると話は変わってくる。

元樹の指摘に、昂は明らかな狼狽を見せた。


「ならば、まずは黒峯陽向に、黒峯家の会合について聞き出すまでだ! 阿南焔といい、我の挑戦を散々、無視した罪は重いのだ!」

「ふわわっ! ーーって、あのな、昂。陽向は安静にしないといけないだろう」


勇み立つ昂の奮起を垣間見て、途中で進として振る舞った綾花は躊躇いとともに陽向の容態を案じる。


「こうなったら、病院の先生の隙を突いて、黒峯陽向の病室に乗り込んで魔術書を賭けた天下分け目の戦いに挑むべきだ!!」

「おまえは警察に捕まりたいのか?」


いつの間にか、昂の意識は黒峯家の会合から陽向との決着へと変わっている。

昂の向こう見ずな戦意に、1年C組の担任は不愉快そうに言葉を返した。


「むっ……」


打てば響くような返答に、魔術を使おうとしていた昂は思わず、たじろく。


「陽向くんが入院している総合病院には、厳戒態勢が張られている可能性がある。陽向くんに黒峯家の会合について聞くのは厳しいと思うな。それにもしかしたら、また誰かが舞波を妨害してくるかもしれない」

「……ふむ、確かにな。黒峯蓮馬を始めとし、偉大なる我を警戒する者達は山ほどいるからな」


先を見据えた元樹の言葉に、気を取り直した昂は苛立しげに答える。


「舞波の分身体達が暴走した日から今までの足取りを辿ることで、舞波の魔術の暴走の原因が判明出来ればいいんだけどな」

「舞波が分身体を消せなかったこと。舞波の黒峯家の会合への招待。そして、黒峯家の人だと思われる電話の相手。これから何かが起こる前触れかもしれない。警戒は怠らないようにした方がいいと思う。今回の件については、どれも有力な情報がない八方塞がりの状況だからな」


拓也の進退窮まったようなつぶやきに、元樹は記憶の糸を辿るように目を閉じた。


「黒峯蓮馬さんの魔術の知識と陽向くんの魔術。そして、阿南焔さん達を始めとした魔術の関係者達。それらを舞波の魔術か、俺の持っている魔術道具で対処しなくてはならない」


機会を窺う元樹の思考は、さらに加速化する。


「だが、まだ、他の魔術関係者達の情報が足りない。その不利な状況の中で、俺達は綾を護り抜かないといけないな」


僅かに焦燥感を抱えたまま、元樹は遠い目をする。

現在、魔術に関する阻害は、昂の魔術か、魔術道具を持っている元樹しか対処する手立てがない。

それは言い換えてみれば、魔術道具を使える条件であり、様々な魔術を扱う昂を封じれば、綾花を捕らえることは容易いともいえた。

もし、昂の魔術を封じられた場合、魔術で生じる阻害を防ぐ手立てがない。

玄の父親達によって、容易に事が成されてしまうだろう。


「我は納得いかぬ!」


昂は自身の内に渦巻く不満をあらわにした。

陽向が自身との再戦を承諾しなかったことは、いまだに昂の胸のうちに拭いきれない澱が残る。

焔が魔術を使える自身を見過ごしたまま、去っていったという事実には言い難い屈辱感があった。

そして、黒峯家の者が自身を翻弄したことは雪辱を期すような事柄だった。


だからこそ、1年C組の担任から叱責を受けた後も、昂は不満を言葉に乗せる。


「先生、すまぬ。だが、我はどうしても、黒峯陽向と阿南焔、そして黒峯家の者が我を翻弄したことに不服を申し立てたかったのだ……!」

「……舞波」


開き直ったその強きな態度に、1年C組の担任もまた、苦言を呈そうとした。


「ひいっ! せ、先生、話を聞いてほしいのだ! 我はただ、黒峯家の会合に奇襲を仕掛けなくてはいけないと思ったまでだ! 我は、その、魔術書を取り戻し、そして我の存在を知らしめる必要があると衝動的に感じたから仕方なくーー」


昂は恐怖のあまり、総毛立った。ふるふると恐ろしげに首を振る。


「警察の事情聴取が加速する可能性があるからな。しばらく、言動を慎むようにな!」

「先生、あんまりではないか~! 我はいつも慎んでいるのだ!」


1年C組の担任が確定事項として告げると、昂が悲愴な表情で訴えかけたのだった。


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