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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術深淵編
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第ニ十五章 根本的に灰の街に青が降る①

「それにしても、黒峯家とそれ以外の魔術に関わる家系か。阿南輝明さんの家系といい、まだ、魔術には俺達の知らないことが隠されているみたいだな」

「ああ。阿南焔さんが口にした意味深な台詞といい、綾を狙ってくる相手は黒峯蓮馬さん達だけではないかもしれない」


拓也の懸念材料に、元樹は憔悴しきった面持ちで言う。

そんな綾花達の心情に拍車をかけるように、今回の焔との遭遇は新たな魔術の関係者達を匂わせるものだった。


オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦。

時間を止める魔術という神業を起こしてきた玄の父親達。

焔の協力により今回、何故か、時間制限のなかった陽向。


玄の父親達、そして焔との出逢いは、一瞬にして綾花達の空気を硬化させた。

それは玄の父親達が立ち去った後もなお、続いている。


その境界線となったのは、魔術という存在ーー。


昂は魔術を使って、綾花に進を憑依させただけでは留まらず、『分魂の儀式』を用いてあかりに度々、進の心の一部を憑依させて生き返させるという離れ業をやってのけた。

そして、玄の父親達が行った麻白の心と記憶を綾花に宿らせるという神変。

最早、綾花達にとって、魔術とは身近なものになっていた。

魔術は存在しない。

そう一笑に付せないだけの経験を、拓也達は現在進行形でしている。


「とにかく一度、阿南輝明さんと会う必要がありそうだな」

「……そうだな」


元樹の先を見据えた言葉に、拓也は躊躇いながらも同意する。

綾花達に万が一の事が起こらないように、拓也達は拓也達なりの行動を遂行していくしかない。


オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦ーー。


激しい魔術戦の山場を乗り越えても、綾花達をーー麻白を守るという拓也達の戦いは続いている。


ずっと、彼女の傍にいるために。

大切の相手に希う、決して変わらない思い。


拓也達の見上げた空は、どこまでも遠く夕闇に染まっている。

一つの戦いの幕引きを報せるようにーー。


それでも黄昏は終わらない。

望む人がいる限り、きっとーー永遠に紡がれていく。

同様に、彼らのこの胸を叩く想いは、彼女を守り抜くという意思はいつまでも繰り返される。

魔術に纏わる止めどない疑問のスパイラルは、終わることはなかった。






「魔術か……」


輝明は先程、大会会場で垣間見た光景を呼び起こし、鋭く目を細めた。


魔術の使い手と魔術の知識の使い手に、これから何を成せばいいのかーー。

その答えは未だ、見出だせてはいない。


だが、輝明は答えなど不要とばかりに、その思考を心中で唾棄する。

身体を打つ魔力の流れが熱を引かせ、周囲を包む夜の(さえず)りの音は彼の心を鎮めていく。

隠されていた真相を聞かされた時、輝明の心に迷いが生じた。

綾花達と同様の不安と戸惑いもある。

それでも輝明の胸には、戦意がゆっくりと沁み出してくる。

激しい魔術戦が繰り広げられていた大会会場。

その異質な光景を、輝明は成す術もなく見守るしかなかった。

しかし、綾花達と協力し合い、玄の父親の魔術の知識の防壁を打ち破ることに成功した。


僕はーー僕達はこれからどうすればいい?

どうすれば、この胸に渦巻く疑問を解決へと導くことができる……。


輝明は先程の魔術により生じた戦いを思い出し、自問した。

自分が先程まで居た場所は非日常。

異常な場。

そして、今居る場所は普段どおりの日常。

正確には、日常と見せかけた非日常。

阿南家は、魔術の家系の一つ。

室内を見渡して、輝明はそれを改めて実感する。


「僕が生まれ持っている魔力の流れは、あの魔術の使い手達と同質の力か」


輝明はあの日、業腹ながらも、輝明の母親の言い分を認めていた。

だからこそ、先程までの戦いを得た今も、こうして落ち着いていられる。

輝明はそこで様々なしがらみが今後、自分にのしかかってくることも、とりあえず思考の俎上からどかした。

今は、これからのことを考えるだけだ。


「プロゲーマー達に、前回の『エキシビションマッチ戦』の借りを返すからな」


輝明はそう言い放つと、これから始まる『エキシビションマッチ戦』に意識を向ける。


『エキシビションマッチ戦』。

それは、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式トーナメント大会の個人戦の優勝者、準優勝者、チーム戦の優勝チーム、準優勝チームが挑戦できる大会だ。

『エキシビションマッチ戦』のルールは、公式トーナメント大会の時とさほど変わらない。

個人戦、チーム戦と分かれており、個人戦の優勝者、準優勝者は『エキシビションマッチ戦』の個人戦への挑戦、チーム戦の優勝チーム、準優勝チームは『エキシビションマッチ戦』のチーム戦へと挑戦することになる。

そして、明示されているレギュレーションも一本先取で、最後まで残っていた者が勝利することも同じだった。

だが、『エキシビションマッチ戦』は、通常の公式トーナメント大会とは違う決定的な対戦方式がある。

それはチーム戦でも、一対一で戦う団体戦の方式を取り入れていることだ。

プロゲーマー達全員を倒せば、そのチームが勝利し、『エキシビションマッチ戦』を制覇することができる。

だが、負ければ、『エキシビションマッチ戦』への挑戦はそこで終わってしまう。

輝明達は今回のオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦でダブル優勝となった。

つまり、『エキシビションマッチ戦』のチーム戦へと挑戦することになる。


「……焔は出かけているのか?」


そこまで思考を飛躍させた輝明は、いつの間にか焔が屋敷内にいないことに気づいた。




昏い夜天に、月光が降り注ぐ。

魔術による戦いの山場を乗り越え、綾花達は帰路に着いていた。

綾花は綾花の両親と進の両親の喜びを一身に受け、一時の安息が訪れる。

しかし、綾花達に待ち構える困難は終わりの見えないほどに険しく、複雑怪奇なものだった。


「我の偉大な魔術書は、もはや誰にも渡さぬ!! そして、綾花ちゃんを絶対に護ってみせるのだ!!」


そんな状況の中、昂は絶対防壁を展開すると言わんばかりに両手を目一杯に広げる。


「しかし、今回、誰が我の魔術書を持っていたのだ? 母上や先生達ではないとすると、貴様らが我の魔術書を持っているということになるではないか?」


昂は再度、疑心の眼差しを拓也達に向ける。


「そういえば、舞波に魔術書を返していなかったな」

「井上拓也。貴様が我の魔術書を持っていたのだなーー!!」


拓也は前もって預かっていた、魔術書が入ったリュックサックを昂に手渡した。

リュックサックは、元樹が持っている魔術道具によって、小さくされている。

しかし、昂は即座に元の大きさに戻し、魔術書を取り出した。


「ついに、ついに我の魔術書が戻ってきたのだーー!!」


念願の魔術書が戻ってきたことで、昂は喜びのあまり、勢いよくリュックサックを抱きしめる。

その反動により、そのうちの一冊が地に落ちた。


ーー古びた魔術書が軋んで開く。

哀れな魔術の禍根に関わった者達を嗤うかのように。

魔に響き渡る産声に、魔術の関係者達は歓喜した。


秀逸なる血潮を重ねて得るであろう力を羅針とし、どうか我らを導きたまえと。


底の見えぬ魔の力が、夜霧の中で揺らめいていた。

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