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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術深淵編
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第ニ十四章 根本的に君と空の終わり⑧

昂の騒動が終息した後ーー。

綾花達は新幹線に乗るために、ワゴン車へと足を運んだ。

やがて、目的の場所である駅へとたどり着く。


「玄、大輝。今回、黒峯蓮馬さん達の動きがなかったことが気になるんだ。何かあったら、知らせてくれよな」

「ああ。分かっている」

「そっちこそ、何かあったらすぐに知らせろよな」


元樹の緊迫した声に応えるように、玄と大輝は頷いた。

玄達と別れた後、綾花達は帰宅するために新幹線乗り場へと向かう。

新幹線を降りた後、綾花の両親、進の両親と落ち合うことになっている。

そこで、拓也はあることに気づく。


「舞波は、輝明さんが前にオンライン対戦で完敗した相手だということは気づいていないみたいだな」

「気づいたら、いろいろと大変そうだな」


拓也の懸念材料に、元樹もまた、苦悩の表情を晒す。

それはオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦前日の出来事。

綾花達は新幹線と列車を乗り継いだ後、今回も準備をかねて、近くにある1年C組の担任の実家に泊まることにした。

朝食を終えた後、綾花と昂の母親の準備が終わるまでの間、拓也と元樹は、1年C組の担任と今回の大会の対策についての会話を交わしていた。

昂は二階で一人、ゲームを堪能しながら、綾花と魔術書を守るための方法を模索している。

これからオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会だというのにゲームを堪能するという昂の有り様。

相も変わらずの昂のマイペースぶりに、拓也は呆れたようにため息をついていた。


そんな状況で巻き起こった異常事態。


先程まで浮かれ気分で、ゲームに熱狂していたはずの昂の声が、いつの間にか聞こえなくなっている。

昂に騒がれたり、絶叫されると、非常に困るのだが、声が全く聞こえないということは、尋常ではない事態が起きていることを意味していた。


実際のところ、昂は輝明に負けて呆然自失となっていた。

輝明の挑戦に焚き付けられて、昂はオンライン対戦を受けたのだが、見事に完敗してしまったのだ。


舞波のことだ。

前にオンライン対戦で敗北した相手が輝明さんだということに気づいたら、怒涛の勢いで再戦を申し込みに行くだろう。

そうなれば、綾花に上岡を憑依させたり、綾花の分身体を産み出した時のように、また、ろくでもないことを考え出すかもしれない。


悶々と苦悩していると、そんな不安さえ拓也の頭をもたげてくる。


その証左に、昂は先程、自身を無視した罪として、陽向が入院している病院に乗り込もうとしていたのだからーー。


先程の騒動を想起させるような事実に、拓也は苦々しい顔で眉をひそめる。


「舞波には、輝明さんが以前、敗北した相手だということは気づかれないようにした方が良さそうだな」

「そうだな」


切羽詰まったような拓也の声に、元樹はあくまでも真剣な表情で頷いた。


「輝明さんは、これからどうするんだろうか?」


拓也はおもむろに、昂が以前、オンライン対戦したーー『クライン・ラビリンス』のチームリーダーについてのことをネット上で検索してみる。

そして、表示された評価の高さを見ながら、こっそりとため息をつく。


「何度見ても、輝明さん達の評価はすごいな」

「ああ。兄貴も、輝明さんは油断できない相手だと言っていたからな」


拓也は似たような言い回しに眉をひそめ、先程見たネット上の『クライン・ラビリンス』の内容を再考する。


「布施先輩も、輝明さんのあの固有スキルの対処は苦労しそうだな」

「ああ。通常、連携技は複数使えるが、必殺の連携技は一つしか使えない。だが、輝明さんは固有スキルを使用することで一度だけ、別の必殺の連携技を使うことができる」


『クライン・ラビリンス』が、『最強のチーム』だと言われている。

その理由を慎重に見定めて、拓也はあえて軽く言う。


「確かに、すごい必殺の連携技だったな」

「ああ。輝明さんが、固有スキルを使うことによって使用できる必殺の連携技は反則的な威力だ。例え、兄貴でも、単純に正面から相対したら、とても防ぎきれるものじゃない」

「……そうか。それでも雅山達『ラ・ピュセル』は、輝明さん達『クライン・ラビリンス』に勝ったんだよな」


真剣さを含んだ元樹の声音に、拓也は第四回公式トーナメント大会のチーム戦の決勝戦で起きた予想外な結末を呼び起こす。

綾花達は改札口を通り抜け、新幹線のホームにたどり着く。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会の決勝戦で起きた奇跡のような決着。

その話題に花を咲かせる拓也達を傍らに、綾花は複雑な心境を抱いていた。


「ううっ……」


構内を見渡した綾花の胸に言い知れない不安が蘇った。

陽向が入院している病院で、玄の父親達が何も仕掛けて来なかったのが余計に不安を掻き立てる。


「これから、阿南家の人達も関わってくるんだよね 。大丈夫かな」


それを何度か繰り返した後、綾花がぽつりとそう言った。


「心配するな、綾花」

「えっ?」


ため息とともにそう切り出した拓也に、綾花は目をぱちくりと瞬いた。


「俺達の方で、ちゃんとフォローする。だから、大丈夫だ」

「……うん」


こともなげに告げる拓也のその言葉を聞いて、綾花は嬉しそうに柔らかな笑みをこぼす。


「ありがとう、たっくん」

「……あ、ああ」


この上なく嬉しそうに笑う綾花に、視線を逸らした拓也は照れくさそうに答える。

そんな綾花の様子を見かねた元樹は、気遣うように綾花の顔を覗き込んだ。


「……綾、大丈夫だ。これからも、俺達が綾のことを支えていくからな」

「……うん。元樹くん、ありがとう」


元樹の言葉に、綾花は身体を縮ませてながらも嬉しそうに頷いた。

夕闇の祝福を受けた麻白の姿をした綾花の微笑み。

その笑顔は、拓也達の心の中にだけひときわ強く焼き付いた。


「俺達は、俺達の出来ることをしていくしかないな」

「ああ、そうだな」


元樹の強い気概に、拓也は笑みを綻ばせる。

警戒するように辺りを見渡した後、拓也は先程から気になっていた事柄を元樹に訊ねた。


「そういえば、舞波がいないけれど、どうしたんだ?」

「ああ。舞波は、先生達とともに帰宅してもらうことにしたんだ。陽向くんが入院している病院への奇襲作戦が、不完全燃焼で終わったことを根に持って暴れていたからな」

「……それで、舞波の姿が見当たらなかったんだな」


相変わらずの昂の行動理念に、拓也は額に手を当てて呆れたように肩をすくめる。

あのまま巨大化して、陽向が入院している病院に向かっていたら大変な騒ぎになっていただろう。

パトカーが出動するだけではなく、もっと大事になっていたはずだ。

想像するに難くない事実に、拓也と元樹は困ったように顔を見合わせた。

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