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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術深淵編
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第ニ十三章 根本的に君と空の終わり⑦

「その様子では、何も分からなかったようだな。当然だ。我が解らぬ事を、貴様らが分かるはずがなかろう」

「くっ……」

「ーーっ」


その最もなーーだが、明らかに不満が残る昂の指摘に、拓也と元樹は苦虫を噛み潰したような顔で辟易する。


「そういうおまえは何か分かったのか?」

「もちろんだ」


拓也の不服そうな切り返しに、昂は人差し指を突き出して不敵な笑みを浮かべる。

拓也は額に手を当てて呆れたように肩をすくめると、弱りきった表情で口を開いた。


「……ろくでもないことのような気がするな」

「我が考えに考え抜いたことが、ろくでもないことのはずがなかろう!」


その切り捨てるような鋭い昂の発言を無視して、拓也は警戒するように周囲に視線を巡らせる。

公園で魔術の話をするのもどうかと考えたが、幸い、周辺は静閑しており、人気はなかった。

拓也はそれでも人影がないか確認してから、昂に視線を戻す。


「どんなことが分かったんだ?」

「貴様らに答える必要はない」


訝しげな拓也の問いかけにも、昂はなんでもないことのようにさらりと答えてみせた。

拓也はさらに怪訝そうに眉を寄せると、立て続けに言葉を連ねてみせる。


「なら、その判明したことが、間違っていた場合はどうするつもりなんだ?」


再び質問を浴びせてきた拓也に対して、何を言われるのかある程度は予測できたのか、昂は素知らぬ顔と声で応じた。


「そのようなことは一ミリたりともあり得ぬ。黒峯蓮馬が我に魔術書を渡したのは、我の才能を見抜いたという事実に誤りなどないからな」

「……なんていうか、すごい自信だな」

「うむ」


苦虫を噛み潰したような拓也の声に、不遜な態度で昂は不適に笑う。


「ーーむっ?」


そこでようやく、昂は自ら自白していたことに気づく。

混乱しきっていた思考がどうにか収まり、昂は素っ頓狂な声を上げた。


「おのれ~! 井上拓也! 貴様、我に自白させるのが目的だったのだな!」

「おまえが勝手に話しただけだろう!」


昂が罵るように声を張り上げると、拓也は不愉快そうにそう訴える。


「魔術の才能か。どうして、舞波に魔術の才能があるんだろうな」


だが、元樹は敢えて、昂の意見を重く受け止めた。

玄の父親の思惑といい、気がかりが残る。


「さあ、綾花ちゃん、刮目してほしいのだ! これが、改良に改良を重ねて、我が産み出した偉大なる魔術ーー」


疑惑を消化できずに顔をしかめる拓也と元樹をよそに、昂はビシッと綾花を指差して言い放った。


「『対象の相手を大きくする』、つまり『対象の相手を小さくする』魔術の逆バージョンだ! その名のとおり、対象の相手を際限なく、大きくすることができるのだ!」

「……おい」

「……その魔術は禁止されたはずだろう」


あまりにも突拍子のない昂の物言いに、拓也と元樹は呆然としてうまく言葉が返せなかった。

しかし、昂は何食わぬ顔で、立て続けにこう言ってのけた。


「さあ、綾花ちゃん。この魔術の力を立証するためにも、今から我が大きくなってみせるのだ!!」

「……ふわわっ、舞波くん、落ち着いて!」


得意げにぐっと拳を握り、天に突き出して高らかにそう言い放つ昂に、綾花は口元に手を当てて困ったようにおろおろと呟く。


「綾花ちゃん、見るのだ! これが大きくなった我ーー」

「おい!」

「あのな……。こんな街中で巨大化しようとするなよな!!」


居丈高な態度で今、まさに実行に移そうとしていた昂を、拓也と元樹が必死に引き留めた。


「貴様ら、離すべきだ! 我は意地でも巨大化を成し遂げてみせる! なにしろ、せっかくこの魔術を産み出したのに、大会会場でも、黒峯陽向の病室でも使うことを止められたのだからな」


それでもなお、昂は魔術を実行しようとする。


「舞波。おまえはまた、警察に捕まりたいのか?」


1年C組の担任から発せられた鶴の一言。

魔術を使うために、片手を掲げた昂の動きがぴたりと止まる。


「ひいっ! あ、綾花ちゃん、今すぐ我を助けてほしいのだ!」

「ふわっ、ちょ、ちょっと、舞波くん」


それだけを言い終えると、昂が戦慄したように綾花を抱きついてきた。

こうして、昂の型破りな奇襲作戦は実行される前に水泡に帰していく。


「魔術を産み出す……?」


騒ぎの原因になった昂を、玄は油断なく見つめる。


玄の父親が使える『魔術の知識』。

それは、陽向達が使っている魔術とは根本的に異なる。

陽向達が使っている魔術は、陽向達の魔力、または陽向達が産み出した魔術道具を使うことによって事象を変革するものだ。

だが、魔術の知識は、世界の記憶の概念の一部を書き換えて、事象そのものを上書きしたりすることができる。


『魔術が事象を変革する力なら、私が使う魔術の知識は事象そのものを上書きする力だ』


それはかって、玄の父親が麻白に語った魔術の知識に纏わるもの。

黒峯家には、魔術の伝承がある。

そして、他の魔術の家系にも様々な言い伝えが残されている。

それなのに、魔術の家系とは無縁のはずの昂が魔術の素質を持っている。

そして、玄の父親は何故、魔術書という貴重なものを昂に渡したのかーー。


玄のその問いは論理を促進し、思考を加速させる。

そうして、導き出された結論は、玄が今の今まで考えもしない形をとった。


「産み出した魔術。もしかしたら、父さんは新たな魔術を産み出せる存在だったから、魔術書を渡したのかもしれないな」

「……さすが魔王。すごい素質の持ち主だな」


核心を突く玄の理念に、大輝はそれだけで納得したように表情を強張らせる。


魔術の家系でもない。

魔術に携わる家系の血筋でもない。

それでも昂が魔術を行使できているのは、彼の執念が生んだ努力の賜物なのだろう。

しかし、その努力の蓄積が、魔術以外の別の方面で生かされることはなかった。

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