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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術深淵編
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第ニ十章 根本的に君と空の終わり④

「社長、例の件についてですが、後日、会合を行えることになりました」


玄の父親の秘書である、その美里の知らせが、社長室にいた玄の父親のもとに届いたのは、 綾花達が待合室で1年C組の担任と汐に合流した頃だった。


「他の黒峯家の者はどうしている?」

「はい。魔術を使いこなす舞波昂という人物に興味を示しております。魔術の家系ではない者が、魔術を使う事実を確かめたいと。会合の際に、詳しい話をお伺いしたいそうです」


美里からの報告に、玄の父親は思案を重ねる。


「昂くんの魔術の力を確かめてからか。やはり、他の黒峯家の者は一筋縄ではいかないな」


玄の父親は顎に手を当てて、美里の言葉を反芻する。

あえて意味を図りかねて、近くで様子を伺っていた執事が玄の父親を見る。

その視線に気づいた玄の父親は、なし崩し的に言葉を続けた。


「阿南焔くんは、これからは輝明くんのーー阿南家の方針で動くのだったな」

「はい。そのようになるものと思われます」


問いにもならないような玄の父親の言葉に、執事はそう答えると丁重に一礼する。

社長室で執務をこなしていた玄の父親は、いまだに拓也達によって奪われたままの愛しい娘に想いを馳せた。


例の件が整えば、麻白自ら、私達のもとに戻ってくるはずだーー。

彼らから麻白を取り戻せば、また前のように、家族四人で幸せに過ごせる日々が訪れるはずだーー。

そのためには、彼らから麻白を引き離さなければならない。


玄の父親は意を決したように美里の方を振り向くと、神妙な面持ちで話し始めた。


「私はこれからマンションに戻って、玄と大輝くんに、今回の件のことについて話してくる。渡辺は、湖潤高校への働きかけを頼む。このまま、高校卒業後、瀬生綾花さんが我が社に入社するように話を進めてほしい」

「かしこまりました」


玄の父親の指示に、美里は丁重に一礼すると、速やかに社長室を後にしたのだった。






1年C組の担任と汐との合流を果たしたのも束の間、

綾花達を追尾していた者の行方は掴めなかった。


「拓也、このまま、ここにいたら、病院の先生や患者の人達から不審がられてしまうと思う。駐車場に行こう」

「あ、ああ、そうだな……」


元樹の催促に、拓也は僅かな違和感を抱きながらも病院を後にする。

元樹は改めて、魔術道具を用いて、病院の外にいる昂にも指示を出す。

陽向の病室で暴走してしまった昂は成す術もないまま、陽向の担当医師によって病院の外に追いやられてしまっていた。


「元樹。今回、俺達を尾行していたのは阿南焔さんなんだろうか?」

「恐らくな。阿南焔さんの存在には、魔術を使える舞波も尾行に気づいていた先生達さえも存在を特定することが出来なかった。陽向くんの強固な意思といい、今回、尾行していたのは阿南焔さんで間違いないと思う」


拓也の素朴な疑問に、元樹は状況を照らし合わせながら応える。


「舞波だけではなく、先生達まで存在に気づけない魔術の使い手……」

「阿南輝明さんの未知の力といい、阿南家の人達にも用心した方がいいかもしれないな」


拓也の躊躇いに応えるように、元樹は今までの謎を紐解いて推論を口にした。


「一段落ついたら、改めて阿南輝明さんに会う必要があるな。それに、黒峯蓮馬さん達にも対処していかないといけない」


元樹は思考を加速させる。


「黒峯蓮馬さんが使っている魔術の知識について、もう少し情報が欲しいところだな」

「そうだな……」


思案を重ねる元樹に対して、拓也は警戒するように周囲を見渡す。

その時、背後に突き刺さるような視線を感じた。


「あれは……?」

「阿南焔さん?」


拓也が目線を向けた総合病院の入り口。

思考を中断した元樹は拓也の視線を追う。

そこに立っていたのは、先に病院を後にしたはずの焔だった。


「井上拓也と布施元樹だったか。……ったく、今度は二人同時に気づかれるとは阿南家の面汚しだぜ」


前に大会会場で遭遇した拓也の姿を掘り起こして、焔は不満を暴露する。


「ど、どういうことなんだ……?」


拓也の声音に、不穏な気配を感じたのだろう。

大輝と話していた玄が疑問を呈してくる。


「拓也、どうした?」

「阿南焔さんが病院の入り口に……」


立っていたんだ。

そう応えようとしていた拓也は息を呑む。

先程までそこに立っていたはずの焔の姿が、いつの間にか喪失していたからだ。


「なっ!」

「もしかして、魔術を使って姿をくらましたのか?」


拓也と元樹は不可解な出来事を前にして、明確な違和感が生じた。

少なくとも、拓也達以外に焔を目撃した者はいない。


杞憂であってほしい。

思い過ごしであってほしい。


しかし、拓也達は先程、確かに焔と遭遇していた。

大輝はいまいち状況が呑み込めず、拓也達に先を促す。


「なあ、どういうことだよ?」

「実はーー」


不明瞭な説明になりながらも、拓也は包み隠さず、先程の出来事を説明する。

その瞬間、玄と大輝の心に焦りが走った。


「……阿南焔が、ここにいたのか?」

「あいつ、帰ったんじゃなかったのかよ」


先程からの緊張感が別の意味を持つ。

玄と大輝の脳裏に、あらゆる不測の事態が駆け巡る。

その時、先にワゴン車に戻っていた綾花が拓也達に声を掛けてきた。


「たっくん、元樹くん、玄、大輝!」

「綾花、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ」


綾花の無事を確かめたことで、拓也が安堵の吐息を漏らす。


「汐、相手は魔術を使ってくるはずだ」

「うん、ダーリン」


状況を把握した1年C組の担任と汐は拳を構え、周囲を警戒した。

失態を犯した昂は、先にワゴン車へと戻っている。

現在、魔術に関する阻害は、魔術道具を持っている元樹しか対処する手立てがない。

それは言い換えてみれば、綾花を捕らえる絶好の機会だといえた。


黒峯蓮馬さんは、陽向くんの病室にはいなかった。

だけど、もし黒峯蓮馬さん達がこの場に留まっているのなら、この好機に綾花を狙ってくるかもしれない。


陽向と焔が示した意味深な言動は、少なくとも拓也達を震撼させるものだった。


「とりあえず、ワゴン車に戻ろう。ここで奇襲を受けるのは分が悪いしな」

「うん」

「そうだな」


元樹の懸念に促される形で、綾花達は足早にワゴン車へと向かったのだった。

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