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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術深淵編
222/446

第七章 根本的に明日の君がきっと泣くから⑦

綾花達、『ラグナロック』があかり達、『ラ・ピュセル』に敗北した頃ーー。


「陽向!」

「陽向、大丈夫?」

「父さん、母さん」


陽向の両親の声に反応して、点滴を施されていた陽向はベッドから起き上がった。

真っ白で、でも無機質ではない、残酷なほどに穏やかな空気が流れる病室には、陽向と陽向の両親、そして玄の父親しかいない。


「叔父さん。あの後、僕、叔父さん達を運んだ後、倒れてーー」

「陽向くん、すまない。君に負担をかけてしまったようだ」


陽向の疑問に応える玄の父親の瞳には、複雑な感情が渦巻いている。

陽向は玄の父親達を病室へと運んだ後、そのまま力尽きて倒れてしまったのだ。

玄の父親は目を伏せると、静かにこう告げる。


「陽向くん。今日は麻白のために、時間を止めるという極大魔術を使わせてしまってすまない」

「無理はしていないよ。本来の僕の身体は、ちゃんと病室で眠っているから」


陽向にそう不敵に笑いかけられ、玄の父親は困ったように目を細めた。

だが、肝心の陽向は答えを求めるようにつぶやいた。


「叔父さん。今回、協力してくれた『あの人』は阿南家の人なんだよね」

「ああ」

「あの人は、輝明くんの力を開花させるために動いていたんだよね。僕達に協力していたんだよね」

「そうだ」


陽向の打てば響くような返答に、玄の父親は確信に満ちた顔で笑みを深める。


「……そうなんだ。やっぱり、輝明くんの力は、阿南家の人達にも未知数の力なんだね」


陽向は迷いを振り払うように、玄の父親を見上げた。


「叔父さんに頼まれなくても、麻白は僕の数少ない友達の一人なんだから絶対に連れ戻すよ」


陽向は前を見据えると、昔を懐かしむように明るい笑顔で語る。


「そして、昔みたいに、みんなで一緒に遊ぶんだ。それにーー」


大会会場で目にした輝明の力の淵源。

綾花は輝明の激励により、あかりに憑依しており、なおかつ、時間が止まっているはずの進を呼び起こすという奇跡を発現させた。

あの未知の力は、玄の父親が使う魔術の知識とは根源から異なる力かもしれない。


「輝明くんだったよね? 次に会った時は、昂くんの力だけではなく、輝明くんの力を見てみたいな」


陽向は未知数である、輝明の魔術を垣間見ることを望んでいる。

だからこそ、好敵手である昂だけではなく、輝明に興味を示す事も当然の帰結だった。


「陽向くん、ありがとう」


どこまでも楽しそうな陽向を見て、玄の父親は穏やかに微笑んだ。


「陽向くん。私はーー私達はただ、麻白に帰ってきてほしい。帰ってきてほしいだけなんだ……」

「叔父さん……」


拳を握りしめ、苦悩の表情を晒す玄の父親は、明らかに戸惑っていた。

元樹達が綾花を守りたいと願っているように、玄の父親達もまた、麻白に戻ってきてほしいと焦がれている。

すれ違う想いは、元樹達と玄の父親達の間に確かな亀裂を生じさせていた。


「社長」


遠慮がちな声をかけられて、玄の父親は、陽向から病室に入ってきた美里へと視線を向ける。


「そろそろ、病院の面会時間が終わります。先生方が戻ってくる頃合いかと」

「……分かった。今回はさすがに、陽向くんの疲弊が大きい。作戦を立て直すためにも一度、会社に戻ろう」

「かしこまりました」


玄の父親の指示に、美里は丁重に一礼する。

そして、玄の父親は美里を伴って、陽向の病室を後にしたのだった。






「麻白、大輝、すまない」


玄はそこまで告げると、視線を床に落としながら謝罪した。


「俺達こそ、負けてごめんな」

「玄。あたし、勝てなくてごめんね」


玄に相次いで、大輝と綾花も粛々と頭を下げる。


「そろそろ、俺達もチームメンバーを増やした方がいいかもな」


大輝はそう言って空笑いを響かせると、ほんの一瞬、複雑そうな表情を浮かべた。

その言葉を聞きつけて、綾花は先程、思いついた名案を披露する。


「ねえ、大輝。だったら、あたしのサポート役のたっくん達はどうかな?」

「そ、それだけは、絶対にだめだからな!」


綾花の提案に、大輝は不服そうに目を細めてから両拳をぎゅっと握りしめた。


「大輝らしいな」


笑ったような、驚いたような。

あらゆる感情の混ざった声が、玄の口からこぼれ落ちる。

二人のやり取りを前にして、玄は高ぶっていた心を落ち着かせた。

少し間を置いた後、玄は大輝と会話を交わしながらもずっと思考していた疑問をストレートに言葉に乗せる。


「麻白、大会が終わった後、寄りたいところがあるんだが大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ」


あくまでも彼らしい玄の反応に、綾花はほっと安堵の息を吐くと、花咲くようにほんわかと笑ってみせる。


「陽向の病室だが、大丈夫か?」

「……うん。少し不安だけど、でも、陽向くんの容態が心配だから」


玄の再度の確認に、綾花は躊躇いながらも頷いた。

そんな彼らの様子を、輝明はチームメイトとともに複雑な心境で見つめていた。


「魔術か……」


先程まで激しい魔術戦が繰り広げられていた大会会場。

その異質な光景を、輝明は当初、成す術もなく見守るしかなかった。

しかし、綾花達と協力し合い、玄の父親の魔術の知識の防壁を打ち破ることに成功した。


僕はこれからどうすればいい?

どうすれば、この胸に渦巻く疑問を解決へと導くことができる……。


輝明は先程の昂と陽向の戦いを見ている内に自問していた。

自分が先程まで居た場所は非日常。

異常な場。

そして、今居る場所は普段どおりの日常。

『ラグナロック』と『ラ・ピュセル』の戦いを見て、輝明はそれを改めて実感する。


「僕が生まれ持っている魔力の流れは、あの魔術の使い手達と同質の力か」


輝明はあの日、業腹ながらも、彼女のーー母親の言い分を認めていた。

だからこそ、先程までの戦いを得た今も、こうして落ち着いていられる。

輝明は様々なしがらみが今後、自分にのしかかってくることも、とりあえず思考の俎上からどかした。

今は、目の前の対戦のことを考えるだけだ。


「今回の大会では優勝して、プロゲーマー達に前回の『エキシビションマッチ戦』の借りを返すからな」


輝明はチームメイト達にそう言い放つと、これから始まる準決勝Bブロックに意識を向ける。


「さあ、お待たせしました!ただいまから、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦準決勝、Bブロックを開始します!」


実況を甲高い声を背景に、ステージへとたどり着いた輝明達、『クライン・ラビリンス』はまっすぐに前を見据えた。


オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦。

その先にあるプロゲーマー達とのバトル、『エキシビションマッチ戦』に目を向けながらも、輝明は敢えて思考を重ねる。


「僕達は、僕達の役目を果たす。それだけのことだ」


輝明は新たな未来の道を見据える決意を固める。

相手の隙を見出した訳でもなく、仲間と呼吸を図るのでもない。

どう戦えばいいのかという思考ではなく、戦わなければならないという感情によって、輝明は前へと進んでいく。


「だよな」


チームリーダーの気概に、チームメイトの一人、高野当夜が嬉しそうに応える。

当夜達の目の前にいるのは、ただのゲームのプレイヤーではない。

『魔術に関わる家系の人間』の一人としてでもない。

どんな状況からでも決して負けない最強のチームのリーダー。

当夜達が羨望の眼差しで見た『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で二位のプレイヤー、阿南輝明の姿だった。

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