表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術深淵編
221/446

第六章 根本的に明日の君がきっと泣くから⑥

あの綾花がーー雅山に憑依した上岡が、初めて対戦した時は手も足も出なかった『クライン・ラビリンス』というチーム。

そして、『ラグナロック』と同様に、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式内で、最強チームだという呼び声もあるチームか。


拓也は再び、『クライン・ラビリンス』へと思いを連ねる。


「黒峯蓮馬さんと陽向くん達に協力していた魔術の関係者の存在。それがプロゲーマーなのか、輝明さんの関係者なのか、はたまた別の人物なのかは分からないけれどさ」


元樹は警戒するように、周囲へと注意を向けた。


「少なくとも、綾を護る俺達にとっては脅威になる存在かもしれないな」

「ああ、そうだな」


玄の父親達に協力した魔術の関係者に対して、言質を取るような言い回し。

元樹の主張に、拓也は準決勝のステージに視線を注ぐ。

拓也の視界の先では既に綾花達、『ラグナロック』とあかり達、『ラ・ピュセル』の対戦が始まっていた。

綾花達とあかり達が互いに奮闘し、苛烈なバトルを繰り広げている。


「なっーー」


『ラ・ピュセル』の想定外の攻撃を前に、大輝のキャラが体力を散らしていた。


「大輝、すぐに回復させるから!」


綾花はそう告げると、自身の固有スキルを発動させる。


『リィンカーネーション!』


ロッドを掲げた綾花のキャラから、大輝のキャラに対してまばゆい光が降り注がれた。


麻白の固有スキル、リィンカーネーション。

それは、一度だけ自身、またはチームメイトのキャラを蘇生させることができる固有スキルだった。


「あかり、今だ!」


その時、動揺を残らず吹き飛ばして、あかりの兄は叫ぶ。


「ああ!」


その声に応えるように、あかりはすかさず、自身の固有スキルを発動させる。


あかりの固有スキル、『オーバー・チャージ』。

自身、または仲間キャラの状態異常を解除する固有スキルだ。

あかりが固有スキルを使ったことにより、流れは再び、あかり達『ラ・ピュセル』へと傾いていた。


「雅山の固有スキルは使い勝手が良さそうだな」

「そうだな。まあ、麻白の固有スキルも、反則的なスキルだけどな」


拓也の率直な意見に、元樹は同意する。


「今は雅山達、『ラ・ピュセル』との対戦だ。『クライン・ラビリンス』と魔術の関係者について考えるのは、対戦の後にした方が良さそうだな」

「ああ。でも、元樹、綾花達は想像以上に苦戦させられているな……」


元樹の方針に、拓也は先程から抱いていた不安を口にした。

綾花達、『ラグナロック』とあかり達、『ラ・ピュセル』は互角に渡り合っている。

しかし、拓也の目線では、綾花達が押されているようにも感じられた。


「それだけ、『ラ・ピュセル』が手強くなったんだろうな」


元樹の視界の先では、『麻白に姿を変えた綾花』と『進が憑依しているあかり』が奮闘している。

綾花と進によるバトル。

だが、実際は麻白とあかりの対戦だ。


「何だか、変な感じだよな……」


まるで綾花達、四人が勢揃いしているような状況。

元樹はそれを見て、どこか不思議な気分になった。


オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦の準決勝。


さらに、戦いは苛酷さを増していく。

あかりのキャラが地面を蹴って、綾花のキャラとの距離を詰める。

迷いなく突っ込んできたあかりのキャラに合わせ、綾花のキャラはあえて下がらず、自身の武器であるロッドを振る舞った。


「ーーっ!」


ロッドから放たれた一撃を、上体をそらすことでかわしたあかりのキャラは、視界を遮る風圧に剣による反撃の手を止めた。


「やるな、麻白」

「あかりもすごく強いよ」


あかりが態度で褒めてくると、綾花は当然というばかりにきっぱりと告げた。

彼女らしい反応に、あかりはふっと息を抜くような笑みを浮かべるとさらに言葉を続ける。


「でも、勝つのは俺達だからな!」

「ううん、勝つのはあたし達だよ!」


綾花とあかりは互いに向かい合うと、不敵な表情を浮かべながら、しばし睨み合った。

綾花達、『ラグナロック』とあかり達、『ラ・ピュセル』の戦い。

それは観客の予想を越えて、激しい攻防戦となっていた。






オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦の準決勝。

戦前の予想では、前回、前々回の大会の優勝チームである綾花達、『ラグナロック』の方が有利に思われた。

しかし、実際は『ラグナロック』と『ラ・ピュセル』は互角に渡り合っている。

『ラグナロック』に残ったのは玄、ただ一人。

対する『ラ・ピュセル』は二人残っている。

まさかの二対一の戦いに、観戦していた観客達は驚愕した。


「二対一ってまさか、あの『ラグナロック』が追い込まれているのか!!」

「すげえー!! まじで『ラ・ピュセル』、すげえな!!」


爆発する観客のリアクションに、玄は苦々しく心の中だけで同意する。

今回、『ラ・ピュセル』が立ててきた作戦は、玄達の想像を越えて高度だった。

対戦開始早々に綾花ではなく、大輝を集中攻撃することで、玄達の判断を鈍らせ、麻白の固有スキルを使わせられる状況に陥ってしまった。

しかも、綾花を引き分けに持ち込んだだけではなく、不意を突いた攻撃だったとはいえ、大輝を倒すほどの実力。

前回、前々回の優勝チームである『ラグナロック』相手に正攻法で戦おうと考えるチームは、あまりいないだろう。

裏をかこうとする『ラ・ピュセル』の動きに合わせて、玄達は裏の裏をかいた行動を取っていけばいい。

だが、『ラ・ピュセル』の作戦によって、それは機能しないまま、二対一の戦いへと持ち込まれてしまった。


「玄、後は頼むな」

「玄。あたし、あかりと引き分けになってごめんね」


玄の思考を遮ったのは、チームメイトである大輝と綾花の言葉。


「大輝、麻白、心配するな」


かけられた二人の声援に応えると、玄のキャラは静かな闘志をまとって大剣を手に地を蹴った。


「ここまで、『ラ・ピュセル』が綾花達、『ラグナロック』を追い詰めるなんてな」


想定外の出来事を前にして、拓也は戦いに意識を向ける。


「綾花と上岡。お互いがお互いのことを知り尽くしている。だけど、それは雅山と麻白も同じだ。互いが互いの固有スキルのことを認知している」


だからこそ、最適解といえる行動が瞬時に取れる。

しかし、今回は作戦を上手く組み立ててきた『ラ・ピュセル』の方が分があるように感じられた。


「そうだな」


元樹の見解に、拓也は改めて、思案を重ねる。


進が度々、憑依している雅山あかりの兄、春斗がチームリーダーを務める『ラ・ピュセル』。

そして、魔術の家系の一人である阿南輝明がチームリーダーを務める『クライン・ラビリンス』。


それぞれ、個性も指標も考え方も違っていたが、その剽悍さは他のチームの及ぶところではないように拓也には思えた。

やがて、戦いの情勢が大きく動いた。

拓也の想像を越えた決着の時が訪れる。


『YOU DRAW』


システム音声がそう告げるとともに、引き分けによる判定結果待ちが表示される。


「ーーっ」


想定外の展開に、観客達は残らず静まりかえる。

次いでリザルト画面に移行し、りこと玄のキャラ、双方の体力ゲージのどちらが早く削り取られたのかをシステムが調べ始めた。

そして、判定の結果、あかり達、『ラ・ピュセル』の勝利が宣告させる。


「つ、ついに決着だ! 勝ったのは、『ラ・ピュセル』!!」


興奮さめやらない実況がそう告げると、一瞬の静寂の後、認識に追いついた観客達の歓声が一気に爆発した。


『ラグナロック』と『ラ・ピュセル』。

激戦による激戦。

その戦いに勝利したのは、あかり達、『ラ・ピュセル』だった。


「嘘だろう!! ここで『ラグナロック』が敗退するなんて……!!」

「すげえー!! 『ラ・ピュセル』、すげえー!!」


一拍遅れて爆発する観客のリアクションを尻目に、拓也は呆気に取られていた。


「あの玄達が負けたのか……?」


まさに、熱くなった身体に冷や水をかけられた気分だった。

拓也は目の前の光景に終始言葉を失っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ