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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術深淵編
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第ニ章 根本的に明日の君がきっと泣くから②

本選二回戦を終えた綾花達は、玄達に先程、起きた事象を説明した後、観客席へと移動していた。


時間を止める魔術という神業を起こしてきた玄の父親達。

今回、何故か、時間制限のなかった陽向の謎。

拓也が感じた不可解な視線。

まるで玄の父親達に新たな協力者がいることを示すように、綾花がステージに戻ってきた途端に動き始めた時間。


玄の父親達の来訪は、一瞬にして綾花達の空気を硬化させた。

それは時間が動き始め、玄の父親達が立ち去った後もなお、続いている。


その境界線となったのは、魔術という存在ーー。


昂は魔術を使って、綾花に進を憑依させただけでは留まらず、『分魂の儀式』を用いてあかりに度々、進の心の一部を憑依させて生き返させるという離れ業をやってのけた。

そして、玄の父親達が行った麻白の心と記憶を綾花に宿らせるという神変。

最早、綾花達にとって、魔術とは身近なものになっていた。

魔術は存在しない。

そう一笑に付せないだけの経験を、拓也達は現在進行形でしている。


「とにかく、これからも俺達が出来ることをしていくしかないか」

「……そうだな」


元樹の先を見据えた言葉に、拓也は躊躇いながらも同意する。

綾花達に万が一の事が起こらないように、拓也達は拓也達なりの行動を遂行していくしかない。


オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦ーー。


激しい魔術戦の山場を乗り越えても、綾花達をーー麻白を守るという拓也達の戦いは続いている。

そんな拓也の視線の先では、玄達『ラグナロック』以外で一際、華々しい活躍を見せているチームがいた。


進が度々、憑依している雅山あかりの兄、春斗がチームリーダーを務める『ラ・ピュセル』。

そして、魔術の家系の一人である阿南輝明がチームリーダーを務める『クライン・ラビリンス』。


それぞれ、個性も指標も考え方も違っていたが、その剽悍さは他のチームの及ぶところではないように拓也には思えた。


「輝明さんがチームリーダーを務める『クライン・ラビリンス』って、玄達『ラグナロック』に匹敵するチームだったよな。前回の大会でも、あの玄達を翻弄していた……」

「ああ。オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームであり、また、第ニ回、第三回公式トーナメント大会のチーム戦の準優勝チームだ。輝明さんのことは、玄達や兄貴も一目置いているしな」


拓也の示唆に、元樹は記憶の糸を辿るように目を閉じる。


「兄貴も、輝明さんは油断できない相手だと言っていたからな」

「そういえば、布施先輩は、玄達のことは何か言っていたのか?」


感慨に耽る元樹の発言を聞いて、拓也には率直な疑問が浮上してきた。


「兄貴は、玄や大輝のことも警戒している。だが、輝明さんのことは特に注目しているみたいだな」


『クライン・ラビリンス』の苛烈な戦いっぷりを観戦していた元樹は思考を加速させる。


「輝明さんは、オールラウンドの強さを誇っている。一対一の戦いにも、複数のチームと同時に戦う乱戦状態の中でも、遺憾なくその強さを発揮している。だけどーー」

「俺は少なくとも、チーム戦より一対一での戦いの方が厄介だと感じた」

「一対一はまさに、あいつの独擅場(どくせんじょう)だからな」


元樹の言葉を補足するように、他のチームの対戦を観戦していた玄と大輝が会話に入ってきた。


「正直言って、一対一であいつに勝てるのは、あの地形効果を変動させる固有スキルの使い手で、個人戦の覇者である布施尚之ーーおまえの兄貴しかいないんじゃないのか」


腕を頭の後ろに組んで観客席の背もたれにもたれかかった大輝は一度、目を閉じてから、ゆっくりと開いて言う。


「後は、プロゲーマー達だろうな」


大輝の躊躇いにも、玄には動じた様子はない。

泰然自若の構えで、ただ事実だけを述べている。


「プロゲーマーか。どんな人達がいるんだろうな」


未知の対戦相手への興味と関心。

拓也は純粋な好奇心でつぶやいた。


「前に『エキシビションマッチ戦』に挑戦したことがあるが、どのプロゲーマー達も油断できない相手だったな」


玄は以前、挑んだ『エキシビションマッチ戦』の出来事を思い返しながら淡々と語る。


『エキシビションマッチ戦』。

それは、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式トーナメント大会の個人戦の優勝者、準優勝者、チーム戦の優勝チーム、準優勝チームが挑戦できる大会だ。

だが、『エキシビションマッチ戦』は、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式サイトで公開されず、観戦チケットの競争率も高い。

『エキシビションマッチ戦』に参加したことがある玄達とは違い、拓也達はどんなプロゲーマーの人達がその大会に参加しているのかは知らなかった。


「麻白、大輝、あの時、勝てなくてすまない」


玄はそこまで告げると、視線を床に落としながら謝罪した。


「俺達こそ、苦戦してごめんな」

「玄。あたし、勝てなくてごめんね」


玄に相次いで、大輝と麻白に姿を変えている綾花も粛々と頭を下げる。

そんな中、大輝はそっぽを向くと、軽く息を吐いて続ける。


「はあ~。せっかく、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第二回公式トーナメント大会、チーム戦で優勝したのに、プロゲーマー達にあっさりと完敗するなんてな」

「大輝は思慮なさすぎ。大輝は勝ったけれど、あたしと玄は負けたんだよ……」

「おまえらが、思慮ありすぎなんだよ」


そう言い捨てると、大輝は足を踏み出し、手を伸ばし、不満そうに頬を膨らませてみせた綾花をがむしゃらに抱き寄せていた。


「「おい、大輝!」」


その様子を見た拓也と元樹が即座に反応する。

声を揃えた二人の言動もお構い無しに、大輝は愉快活発に言った。


「とにかく、玄、麻白、次は絶対に勝とうな!」


綾花を抱きしめると、大輝は有無を言わさず、にんまりとした笑みを浮かべる。


「大輝。今度はあたし、プロゲーマーの人達に勝つからね」

「俺も勝つからな」


綾花の嬉しそうな表情を受けて、大輝は少し不服そうに目を細めてから、小さな背中に回した手にそっと力を込めた。


「麻白と大輝らしいな」


玄は、どこまでも楽しそうな、いつもどおりの妹と幼なじみの姿を見て、ほっとしたように微かに笑ってみせる。

そして、いまだに大輝と楽しげに話している綾花の頭を、玄は穏やかな表情で優しく撫でてやった。


「麻白、今度は勝とうな」

「うん」


綾花はほんの少しくすぐったそうな顔をしてから、嬉しそうにはにかんだ。

春のように火照った顔で自分に笑いかけてくる、誰よりも愛しくて大切な妹と過ごす時間は。

夢の中でも、現実の中でも、永遠に輝く光であるようにーー玄には思えた。

だからこそ、いつまでもこの笑顔を守っていきたいと願っていた。

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