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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第七十七章 根本的に願いを掴むためのその代償③

輝明達は玄の父親達の隙を見て、綾花が分身体を操ることができる位置ーー観客席の後方という持ち場につく。

分身体を複数、増やす魔術を使った後なら、進から綾花に戻っても問題はない。


「ううっ……。たっくん、元樹くん、舞波くん、大丈夫かな……」

「心配なら、ここからサポートすればいい」


凛とした声が、混乱の極致に陥っていた綾花を制する。


「言ったはずだ。全てを覆すと。諦めるな。僕も一緒に手伝ってやる」

「うん……」


綾花の悲痛な想いに応えるように、輝明はこの上なく、不敵な笑みを浮かべる。


「何かあるはずだ。魔術の知識の防壁とやらを打ち破る手段がな」


輝明は大会会場を垣間見ながら、鋭く目を細めた。


魔術の使い手と魔術の知識の使い手に、何を成せばいいのかーー。

その答えは未だ、見出だせてはいない。


だが、輝明は答えなど不要とばかりに、その思考を心中で唾棄する。

身体を打つ魔力の流れが熱を引かせ、周囲を包む乱戦の音は彼の心を鎮めていく。

隠されていた真相を聞かされた時、輝明の心に迷いが生じた。

綾花と同様の不安と戸惑いもある。

それでも輝明の胸には、戦意がゆっくりと沁み出してくる。


「僕達、『クライン・ラビリンス』が、最強のチームだと言われている所以はなんだ?」

「……えっ?」

「絶対的な強さと、それを補えるだけの個々の役目」


綾花が答えを発する前に、断定する形で結んだ輝明の意味深な決意。


「それが僕達、『クライン・ラビリンス』の信念だ。その信念を今、この場で成し遂げればいい」

「絶対的な強さと、それを補えるだけの個々の役目……」


輝明が導いた未来への指標に対する綾花の迷い。

そこを突くように、輝明の真剣な表情が、一瞬で(みなぎ)る闘志に変わった。


「おまえはおまえの役目を果たせ。僕達は僕達の役目を果たす。それだけのことだ」

「輝明くん、ありがとう」


綾花は輝明達と共に、新たな未来の道を見据える決意を固める。


「黒峯玄の父親、魔術の知識の使い手。おまえ達によって止められた時間、僕がーー僕達が動かしてみせる」

「うん、絶対に動かしてみせる」


輝明の強い気概に、綾花は笑みを綻ばせる。

相手の隙を見出した訳でもなく、仲間と呼吸を図るのでもない。

どう戦えばいいのかという思考ではなく、戦わなければならないという感情によって、輝明は前へと進んでいく。

綾花の目の前にいるのは、ただのゲームのプレイヤーではない。

『魔術に関わる家系の人間』の一人としてでもない。

どんな状況からでも決して負けない最強のチームのリーダー。

綾花達が羨望の眼差しで見た『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で二位のプレイヤー、阿南輝明の姿だった。






「おのれ~、これならどうなのだ!」

「昂くんの魔術を相殺しながら、昂くんの先生達の相手までするのは大変だな」


昂と陽向の魔術バトルは、熾烈を極める。

1年C組の担任と汐のおかげで体力を回復させた昂。

魔術書に媒介して顕在化しているため、体力が尽きない陽向。

昂と陽向は視線を再度、交錯させた直後、互いの魔術が激突した。

大会会場を揺るがす轟音。

その強烈な威力が、二人の意志の強さを伝え合う。

大会会場全体に及ぼす揺れが、波打って高まる戦いの激しさを物語っていた。


「ねえ、昂くん。僕がこの勝負に勝ったら、君の持っている魔術書、今度こそ全部、貰い受けるよ! もしかして、先生達が持っているのかな?」

「我に、そのようなことは分からぬ! だが、絶対に我の魔術書は渡さないのだ!」


陽向と昂は空中に浮かび、突貫してくる魔術の渦を激突し合わせる。

拮抗し、ぶつかり合う二人の意志。

彼らの放つ魔力の光は重なり合い、時に離れ、会場内に螺旋を描いていった。

陽向は視線を巡らせて、奮闘する昂に忠告する。


「うーん。ねえ、昂くん。こうも魔術の打ち合いばかりだとまた、会場が崩壊ーー」

「するだろうな」


語尾を奪い取ったのは、いつの間にか急接近していた1年C組の担任だった。


「うわっ……!」


1年C組の担任による拳打。

攻撃手段が魔術でないため、跳ね返すことが出来ない陽向は次第に翻弄されてしまう。


「舞波、ここは任せろ!」

「ダーリン、こちらは任せて!」


意気がる昂が足元をすくわれないように、1年C組の担任と汐はサポートに回る。

互いの虚を突くような一撃はないものの、1年C組の担任と汐が前衛に立つことで、昂は魔術の直撃という危険を回避していた。


「汐、舞波の魔術が放たれたと同時に動こう」

「ええ」


1年C組の担任の提案に、汐は勇ましく点頭する。


「……昂くんの先生達は、やっぱり手強いね。何だか戦いにくくなってきた」

「黒峯陽向! 今から思う存分、我の魔術の凄さを知らしめてやるのだ!」


魔術の攻撃準備に入る陽向に対して、昂の魔術が一直線に放たれた。

その瞬間、1年C組の担任と汐が警備員達を振り切り、同時に突貫する。

1年C組の担任は陽向の間合いに跳び込むと、即座に鋭い蹴りを叩き込む。


「……っ。この攻撃、まともに受けたら、すごく痛そうだね」

「効いていないのか……!」


怒涛の連打。

その最後の蹴りを間一髪で難を逃れた陽向は、多彩な1年C組と汐の攻撃方法に称賛の吐息を漏らす。


「先生達の助力があるとはいえ、陽向くんの魔力は底が見えないな」

「ああ」


玄の父親は魔術の知識を用いて、陽向の魂を魔術書に媒介して顕在化させている。

しかも今回は顕在する際の時間制限がなく、体力も魔力も尽きる気配がないーー。

今の陽向は少なくとも、元樹と拓也が畏怖に値する敵ではあった。

躊躇していては危険だと即断させる魔力を秘めている。


「やっぱり手っ取り早いのは、みんなの時間を動かすことだ。みんなの時間が動き始めれば、黒峯蓮馬さん達も周囲への対処に追われることになる。黒峯蓮馬さん達の動きを阻害することができるはずだ」

「……そうか」


真剣な眼差しでそう告げた元樹を見据えて、拓也は複雑な心境を抱いた。

元樹は綾花達とともにある絆を支えに、玄の父親の魔術の知識の防壁を突き崩す戦いへと挑む。


「俺達が今、成すべきことは黒峯蓮馬さんの魔術の知識の防壁を打ち破ることだ。そうすれば、おのずとみんなの時間を動かす方法が分かるかもしれない」

「ああ、そうだな」


元樹は長丁場になるのを覚悟した上で、隙を突かれないように動き回り、拓也と連携する。


「それにしても、舞波も陽向くんも容赦なく、会場を破壊するな……」


玄の父親達との戦いの折、元樹は援護を拓也に任せて大会会場の修復に回る。

魔術道具を掲げた元樹は、その被害の対処に立ち回っていった。

しかし、元樹の苦労も露知らず、昂は憮然とした態度で陽向に向けて強力な魔術を放つ。


「黒峯陽向、この一撃を喰らうべきだ!!」


昂と陽向による、綾花と魔術書を賭けた魔術による争奪戦。

積極的な攻勢を仕掛けているのは、昂だった。

しかし、昂から放たれた全ての魔術を相殺すると、今度は陽向が攻めに転じる。


「喰らうのは、昂くんの方だよ!」

「むっ、そのような魔術、我が喰らうはずなかろう!」


陽向の強力な魔術に、昂も即座に振り向いて応戦した。

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