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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第七十五章 根本的に願いを掴むためのその代償①

拓也は戦いの意志を示すように、想いという名の覚悟を込める。


「黒峯蓮馬さん。麻白の心が宿っているとはいえ、綾花は綾花であり、上岡なんです」

「麻白は麻白だ!」


予測できていた返答には気を払わず、拓也は本命の想いを口にした。


「俺も、綾花は綾花だと思っていました。いえ、今も綾花は綾花だと思っています」

「拓也くんの言葉、矛盾しているね」


つぶやいた言葉とは裏腹に、魔術を放っていた陽向は妙に嬉しそうに言う。

これから拓也が何を成すのか、そこに興味を注いでいた。


「麻白は、自分自身でもある綾花と上岡の心を消してしまうことを快く思っていないんです。だから麻白は、今の状態のままで、これからも生きていきたいと願っています」


拓也の決意に、玄の父親は心底困惑したように叫んだ。


「私達はそれでも、麻白に戻ってきてほしい……! 戻ってきてほしいんだ……!」

「……俺達も、同じ想いなんです。綾花に側にいてほしい。ずっと側にいてほしい。そう願っています!」


玄の父親の嘆き悲しむ姿に、拓也は初めて綾花の両親と進の両親が顔合わせした時のことを思い出す。

すれ違いから始まった二家族旅行は、やがて二つの家庭の綻びを解す形へと繋がっていった。

あの日のように軋轢が深まった関係を改善へと導くために、拓也は確かな想いを口にする。


「……だから、もう一度、言います」


断言の形を取った問いの矛先は、元樹に向かっていた。

元樹は拓也の意図を察したように玄の父親の方を振り向くと、神妙な面持ちでそれを再度、口にする。


「麻白に帰ってきてほしい……と望むのなら、まずは今の麻白と向き合って下さい。もし、それが叶わないというのでしたら、俺達の挑戦を受けて下さい。綾をーー麻白を賭けた勝負を」

「お願いします! 逃げずに、今の麻白と向き合って下さい! 麻白の想いに応えるために!」


元樹の意思に繋げる形で、拓也は縋るように告げる。

その力強さが、拓也の綾花達への想いの強さを物語っていた。


「私が麻白の想いから逃げている……?」


その瞬間、玄の父親は凍りついたように動きを止める。

拓也の指摘は、なおも玄の父親の心を掴み宥めようとする。

元樹と拓也が放った衝撃的な言葉は再度、緊迫したその場の空気ごと全てをさらっていった。


麻白についての再度の交渉ーー。


唐突な提案。

この場の誰もが考えつかなかったことを切り出した元樹と拓也は、ただまっすぐに玄の父親を見つめて言った。


彼らなりに考えた瀬生綾花さん達をーー麻白を護るための交渉というわけか。


その意図を察した瞬間、玄の父親の纏う空気が一変した。


「君達から麻白の想いから逃げていると批判されても、私達の願いは変わらない。私達は麻白に戻ってきてほしい。帰ってきてほしいんだ……」


元樹と拓也の提案を、玄の父親は冷たく切り捨てる。


「それに君達とは今更、交渉の余地はないと思うが」


明らかに好戦的な意味を宿すその語尾。

しかし、元樹は頓着した様子もなく、さらに続けた。


「いえ、交渉の余地は残っています。あなたは、麻白の父親ですから」


一笑に付すべき言葉。

強がりにすぎない台詞。

その通りに笑みを綻ばせた玄の父親は、次の瞬間、表情を凍りつかせる。


「ーーところがびっくり」


不意に、全く予想だにしないーーだけど、誰よりも待ち望んでいた声が聞こえてきて、玄の父親は思わず、目を見開いてしまう。


「父さん、本当に交渉の余地は残っているんだよ」


いつからいたのか、玄の父親の目の前には、赤みがかかった髪の少女ーー麻白が後ろ手を組んだまま、興味津々の様子で玄の父親を見つめている。

玄の父親は目の前で立っている麻白を確認してから、拓也の隣に居る綾花へと視線を向けた。


「父さん……」


そこには確かに、幼い少女の姿をした綾花が立っていた。


私の目の前にいる麻白。

井上拓也くんの隣にいる麻白。

また、瀬生綾花さんーー麻白が分身体を呼び出したのか……。


玄の父親はさして気に止めた様子もなく、陽向へと視線を注ぐ。


「なら、本物の麻白を取り戻せばいい」


陽向に綾花の分身体を操ってもらい、その間に本物の麻白を取り戻す。

ニ人の麻白を目にして、玄の父親はすぐにその決断を下した。


「陽向くん、そろそろ幕引きとしよう」


玄の父親は陽向を一瞥し、表情の端々に自信に満ちた笑みを迸らせて告げる。

話を振られた陽向は一拍置くと了承を示した。


「うん。終わりにしようか」

「……はあはあ。まだ、終わりではないのだ」


何度も強力な魔術を放った影響で、昂は息を切らしてバテていた。

魔術は、陽向にだけ攻撃が及ぶように射程を絞っている。

そして、強力な魔術を放てるようにと、威力を一点に集めていた。

昂は、前回までのやり方を踏襲する。

だが、そこまでしても、陽向の魔術の豊富さには悪戦苦闘していた。


「今度こそ、我の魔術の偉大さが分かったであろう」

「うん。すごい威力だね」


矜持を貫いた昂に答えたのは、泰然自若と立っていた陽向だった。


「むっ?」


目を見張る昂の前で、陽向は平然とした表情で服についた埃を払っている。


「お、おのれ~! 何故、いつも倒れないのだ!」

「昂くんの魔術って、やっぱりすごいね」


何度目かの魔術の打ち合いの後、昂は荒い息を吐きながらも陽向と距離を取った。

同時に陽向も浮遊して、万全の攻撃態勢を整える。

次の瞬間、昂と陽向は同時に叫んだ。


「次こそ終わりなのだ!!」

「うん。終わりにしようか、昂くん!!」


互いの魔術は正面から激突し、そして大爆発が発生した。

大会会場が崩壊するのも構わず、破壊の限りを尽くす魔術の嵐。


「おい、舞波、やり過ぎだ……」


介錯のない魔術の威力に、会場の修復を行っていた元樹は辟易する。

またしても後始末を押し付けられた元樹は、玄の父親との戦いを繰り広げながらも会場内を元に戻していく。

幸い、負傷者は出なかったものの、爆風によって吹き飛ばされている者達がいた。


「会場と会場内の人々の位置を元に戻してくれないか!」

「元樹くんに、僕達の魔術の後始末を任せてしまっているね。……敵である僕が言うのも変だけど、ごめん」


決意するように魔術道具をかざした元樹を見て、浮遊していた陽向は同情するように囁く。

余裕の表情で荒れた瓦礫に降り立つ陽向を前にして、体力を大幅に消耗した昂は辛そうに膝をついた。


「僕の魔術を何度も相殺するなんて、昂くんの魔術はやっぱり、すごいよね」

「はあはあ……。苦しいのだ」


感嘆する陽向とは裏腹に、息も絶え絶えの昂は必死としか言えない眼差しを陽向に向ける。

その言葉が、その表情が、昂の焦燥を明らかに表現していた。

昂の魔術は向上している。

だが、次第に体力を消耗していく昂に対して、陽向はまるで疲れを知らないように平然と立っていた。


「でも、僕には勝てないよ」

「おのれ……我の真価が発揮されるのは、今この時なのだ!」


陽向はどうしようもなく期待に満ちた表情で、ただ事実だけを口にする。

愕然とする昂はそれでも諦めなかった。

1年C組の担任が、颯爽と昂のもとに迫っていたからだ。

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