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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第六十六章 根本的に光る世界に夢を見た⑧

「あの頃は、昂くんとこうして魔術をぶつけ合う形になるなんて思わなかったな」


昂の意気がる様子を眺めながら、陽向は深く大きなため息をつくと、自身がこうなった出来事をふと頭の片隅に思い浮かべていた。

陽向は、幼い頃から魔術に憧れていた。

玄の父親の魔術の知識や魔術書に触れることで、陽向はある種の幻想を抱かされていたのかもしれない。


自分もいつか魔術を使える日が来ることをーー。


だが、陽向には魔術書を読むことは出来ても、玄の父親のように魔術の知識を使ったり、魔術そのものを行使することはできなかった。


『父さん、母さん、そして叔父さん、お願いします。どんな手段でもいい。僕が魔術を使えるようにしてほしいんだ』


自身の願いを口にしたその瞬間、陽向は魔術を使えるようになった。

玄の父親の魔術の知識によって、自身の魂を魔術書に媒介することで一時的に顕在化することができた陽向は、自らが魔術を使えるようになったことをすぐに理解した。

本来の肉体はそのままに、自身の魂が宿った魔術書によって顕在する存在。

そして、魔術書に記載された魔術を行使することができる存在。


魔導書、『アルバテル』ーー。


その不可解な存在になった自身をそう名付けると、陽向はすぐに利用することにした。

陽向は当初の予定どおり、果てなき探求心の赴くまま、今まで叶うことができなかった願いを一通り、やってみる。

家族と過ごしたり、学校で友達と戯れたりする日常。

それは心の底から充足した日々だった。

そんな彼の前に現れたのは、同じ魔術の使い手である昂だった。

彼は麻白をーーそして、残りの魔術書を奪われる阻止するために、麻白達とともに反旗を翻そうとしている。

その事実を目の当たりにした時、陽向の胸の奥で不可解な鼓動が脈打った。


時間制限に縛られず、もっと自由に生きていたい。

そして、僕も、昂くんのような魔術の使い手になりたいーー。


魔術の家系ではない者が、魔術を行使している。

不遜な態度の昂と相対したことで、陽向はその思考に至った。

今まで思い描いていた夢の数々が叶ったことで、陽向は遥かな高みを目指した。


魔導書、アルバテル。

それは一度手にして読めば叡知が授かり、神の言葉を聴くことができる希少な魔導書。


だからこそ、回そう。

麻白の運命の歯車を。

僕達の世界を改変するためにーー。

そして、新たな魔術書を用いて、麻白の死という不完全な世界を変革するためにーー。






ステージの中央から開かれた魔術の使い手同士の戦端は、いつの間にか観戦席側まで移動していた。


「……はあはあ。黒峯陽向、我の勝ちのようだな」


腕を組んだ昂が心なしか、勝ち誇る笑みを浮かべる。

強敵を前にした高揚感と満足感。

大々的に喜びを全面に出した昂とは対照的に、陽向は沈黙を貫いた。

その態度の違いから、綾花達も戦局の変化に気づいた。


「……どこがだ」

「ああ。明らかに、陽向くんが舞波を押しているな」


頭を抱えた拓也の懸念に、元樹は同意を示す。


昂の魔術が、陽向の魔術に押し負けているーー。


その厳然たる事実は、徐々に魔術の打ち合いにも現れていった。


「……こ、これならどうなのだ」


烈火を貫く二人の魔術の応酬。

強力な魔術を放った影響で、昂は息を切らしてバテていた。

さすがの昂も、会場内を崩壊させてしまうような強力な魔術は、肉体、精神をかなり疲労させてしまうのだろう。

崩壊しそうになった大会会場は、元樹が咄嗟の機転で魔術道具を掲げたことで修復している。


「我が本気を出せば、貴様などに負けるはずがなかろう」

「うん。すごい威力だね」


昂が発した自信に満ち溢れた言葉に答えたのは、泰然自若と立っていた陽向だった。


「むっ?」


目を見張る昂の前で、陽向は平然とした表情で服についた瓦礫の屑を払っている。

無類の強さを発揮する陽向に、昂は焦燥感を抱く。


「き、貴様、何故、我の魔術をあれほど喰らって倒れておらぬのだ!?」


昂が焦ったように驚きを口にすると、陽向は嬉しそうに笑みを綻ばせた。


「もちろん、僕の願いが叶ったからだよ」


昂の瞳を見る陽向の口元には、自然と笑みが浮かぶ。

劣勢に立たされたことで、途方もない悔しさを滲ませた昂の表情。

二人の戦いに目を向けた綾花は悲壮感を漂わせる。


「たっくん、元樹くん。舞波くん、大丈夫かな」

「心配するなよ、綾」

「えっ?」


元樹の言葉に、綾花は目をぱちくりと瞬いた。

視線をうろつかせる綾花に、元樹は意図的に笑顔を浮かべて続ける。


「舞波のことだから、劣勢に立たされてもうまいこと立ち回ってくると思うな」

「……うん、そうだよね。こういう時、舞波くんはいつも無類の力を発揮するもの」

「……だから、困るんだ」


ほんわかな笑みを浮かべて思い出したように言う綾花をよそに、拓也は苦々しい顔で吐き捨てるように言った。

だが、すぐに状況を思い出して、拓也は表情を引きしめる。


「綾花。とにかく舞波の援護は先生達に任せて、まずは黒峯蓮馬さんの魔術の知識の防壁を崩そう」

「……うん」


憂いの帯びた綾花の声に、傍観していた元樹もわずかに真剣さを含んだ調子で穏やかに言葉を紡ぐ。


「心配するなよ、綾。舞波はこれから阿吽の呼吸で先生達とともに、この状況を切り抜けてくれるからな」

「ひいっ!何を恐ろしいことを言っているのだ!」


昂は恐怖のあまり、総毛立った。ふるふると恐ろしげに首を振る。


「すまないが、私は今から汐と舞波とともに、彼の魔術と周囲の者達の対処をすることになる。申し訳ないが、時間を動かす方法を突き止めることは瀬生達に頼みたい」

「先生、あんまりではないか~!」


1年C組の担任があくまでも確定事項として淡々と告げると、昂が悲愴な表情で訴えかけるように1年C組の担任を見る。

だが、昂の悲痛な訴えも虚しく、1年C組の担任と汐は拳を構えて戦闘態勢に入った。

それを見遣った昂は、両拳を突き上げながら自棄に走ったように絶叫する。


「ここから、我の魔術を駆使して、黒峯陽向を退ける筋書きのはずだ。それなのに何故、我は今、先生達とともに共闘などをさせられているのだ。我は早々に、綾花ちゃんと一緒に勝利の一服を満喫したかったというのに」


そこで、昂ははたと自身の目的に気づく。


「とにかく、我は黒峯陽向に総合病院での戦いの借りを返さなくてならぬ!」

「うん、待っていた。僕は昂くんと戦えることを、ずっと待っていたんだよ!!」


闘志を滾らせる昂に応えるように、陽向は自身の意思を貫いた。


「戦えるのを待っていた……か」


事象を変革させる魔術という現象。

この不可思議な現象を、輝明は何処かで見たことがあるような気がしていた。

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