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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第六十五章 根本的に光る世界に夢を見た⑦

「……ふむふむ、黒峯蓮馬と黒峯陽向め。意気込んでいられるのも今のうちなのだ。早速、我の影武者達を操るとは狙いどおりだ」

「昂くん、やっぱり何か企んでいそうだね」


昂と陽向による、何度目かの交錯。

戦況は陽向へと有利に傾いていた。

陽向の背後には、昂の分身体達が付き従っている。

それでも腕を組んでほくそ笑んでいる昂を見て、陽向は警戒するようにつぶやいた。


「「「麻白ちゃんを、黒峯蓮馬のもとに連れていくべきだ!!」」」


昂の分身体達は同じ挙動で、一斉に唱和する。

しかし、自身の分身体があっさりと操られてしまったというのに、昂はあくまでも余裕を漂わせていた。

昂の自信に満ちた態度に、陽向は違和感を感じ、警戒を強める。


「もしかして、こうなることを狙っていたのかな?」

「貴様に話す必要はない」


疑惑の視線を送る陽向に、昂は腰に手を当てると得意げに言う。


「何度聞かれようと、我がこうなることを狙っていたことは口を裂けても言わないのだ!」

「……そうなんだね」


これ見よがしに昂が憮然とした態度で言うのを聞いて、陽向は苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。


「黒峯陽向。貴様は今日、ここで我が引導を渡してやるのだ! 綾花ちゃんと我の魔術書は必ず、守ってみせるのだ! 悔い改めて諦めるのなら、今のうちだと考えるべきだ!」

「うーん。僕は諦めるつもりはないよ」


昂の挑発めいた発言に、陽向はきっぱりと応える。


「うむ。ならば、我は逃げる! 我を追って来れるものなら、追ってくるのだ! 最も、我の逃げ足には付いてはこれまい!」

「……昂くんに何だか、わざとらしく罵られているような気がする」


昂は囮になるように踵を返すと、陽向の目から逃れるために『姿を消す魔術』を使ってその場から姿を消した。


「それじゃ、行こうか」


陽向は疲れたようにため息を吐くと、背後に控えている昂の分身体達に指示を出す。

陽向が一歩踏み出すと、昂の分身体達は追従したのだった。






「先程までの話を踏まえて考えてみると、やっぱり時間を動かすためには黒峯蓮馬さん達を突き崩し、情報を得るしかなさそうだ。魔術と魔術の知識によって、ここから外に出ようとしても再び、この会場内に戻ってきてしまうみたいだからな」


静かに告げる元樹は、既に魔術と魔術の知識によって大会会場から出られないことを確定事項としていた。

その揺らぎない自信に呆気に取られつつも、拓也は今までの考察を確信に変える。


「だけど、あの様子だと、黒峯蓮馬さんと陽向くん達を突き崩し、ここから逃れたとしても、時間を止める魔術を解いてはくれなさそうだな」

「恐らくな」


探りを入れるような元樹の言葉に、拓也の顔が強張った。


「阿南輝明さんの協力を得たとはいえ、先行きは厳しいな」

「ああ」


そのとらえどころのない玄の父親と陽向の行動の不可解さに、元樹は思考を走らせる。


「ひいっ! 綾花ちゃん、助けてほしいのだーー!!」


このままでは、また、玄の父親達に出し抜かれてしまうのではないか、と思案に暮れる拓也と元樹の耳に勘の障る声が遠くから聞こえてきた。

突如、聞こえてきたその声に苦虫を噛み潰したような顔をして、拓也と元樹は声がした方向を振り向く。

案の定、綾花を探して大会会場内を走ってくる昂の姿があった。

躊躇なく思いきり綾花に抱きつこうとしていた昂に、拓也と元樹は綾花を守るようにして昂の前に立ち塞がった。

綾花に抱きつくのを阻止されて、昂は一瞬、顔を歪ませる。

だがすぐに、昂はそれらのことを全く気にせずに話をひたすら捲し立てまくった。


「貴様ら、大変なのだ! 我の影武者達がついに反乱を起こしたのだ! 謀反返しをしようとしたが、我では手に負えぬ。貴様らが何とかするべきだ!」

「謀反返しって確か、舞波が考え出した作戦だよな?」

「おまえ、謀反返しする自信があったんじゃないのか?」


訝しげな拓也と元樹の問いかけにも、昂は憤懣やる方ないといった様子で同じ内容を訴え続ける。

拓也と元樹は互いに、これまでの情報を伝え合っていた。


今度は、何が起こったんだ?


そんな拓也の疑心を尻目に、綾花は大会会場内に視線を向けると、心底困惑したように言った。


「た、たっくん、元樹くん。たくさんの舞波くん達が一斉にこちらに迫ってくるよ!」

「なっ!」

「これは!」


綾花の視線を追った先には、まるで悪夢のような光景が広がっていた。


「「「麻白ちゃんを、黒峯蓮馬のもとに連れていくべきだ!!」」」


昂の分身体達が総出で突撃してくるという怪奇な現象。

全ての昂の分身体達が、綾花達めがけて一糸不乱に押しかけてきていた。

そこで、はたと一番気にしなくてはいけないはずの重大事に、拓也と元樹は思い当たる。


「こ、これって、まさか」

「……ああ。麻白の分身体が操られてしまった時と同じ方法だろうな」


鬼気迫る昂の集団を前にして、事態を把握した拓也と元樹は呆気に取られてしまう。


「おのれ~! いつの間にか、我の影武者達が一致団結しているではないか!」

「……おい。分身体をわざと操らせて、陽向くんの意識を向けさせるんじゃなかったのか」

「はあ……。舞波の魔術の効果を解かないといけないな」


不愉快そうに顔を歪めて高らかに訴える昂に、拓也と元樹はうんざりとした顔で冷めた視線を向ける。


「今すぐ、舞波の分身体を全て消してくれないか!」


元樹は咄嗟に魔術道具をかざすと、決意を込めた声でそう告げた。

魔術道具の放った光が消えると、昂の集団は跡形もなく、消え去っていった。


「助かったのだ……」

「本当に、先行きが不安だな」


拓也は安堵の表情を浮かべた昂を見据えると、忌々しさを隠さずにつぶやいた。

元樹が不満そうな拓也を横目に見ながら、ため息をついて言う。


「舞波の分身体達は全て消えたことだし、とにかくここから巻き返そう」


言うが早いが、元樹は煮え切らない様子の昂へと視線を向ける。


「むっ、仕方ない。我の作戦が裏目に出たことは腹ただしいが、綾花ちゃんのためだ」


元樹の声に応えるように、昂は魔術を使うために片手を掲げる。


「むっ!」


魔力を強める昂に呼応し、陽向もまた、魔力を髙めた。

魔術を放つ前から、二人の魔力の競り合いは始まっている。


「綾花ちゃんも、我の魔術書も渡さないのだーー!!」

「続けようか、昂くん。麻白をーーそして、残りの魔術書を賭けた戦いを!!」


視線を交錯させた直後、昂と陽向の魔術が激突した。

大会会場を揺るがす轟音。

その強烈な威力が、二人の意志の強さを伝え合う。

大会会場全体に及ぼす揺れが、波打って高まる戦いの激しさを物語っていた。


「ねえ、昂くん。僕がこの勝負に勝ったら、君の持っている魔術書、今度こそ全部、貰い受けるよ!」

「絶対に渡さないのだ!」


陽向と昂は空中に浮かび、突貫してくる魔術の渦を激突し合わせる。

拮抗し、ぶつかり合う二人の意志。

彼らの放つ魔力の光は重なり合い、時に離れ、会場内に螺旋を描いていった。


「……っ。すげえ威力だな……。少しは手加減しろよな」

「黒峯陽向相手に、手加減など出来るはずもなかろう」


元樹が魔術道具を掲げて会場内を元に戻すと、昂は臨戦態勢を解くこともなく、陽向との戦闘を踏襲する。


「昂くんも、さすがに陽向くん相手では手を抜けないようだな」

「おのれ~! いつの間にか、黒峯蓮馬まで迫ってきているではないか!」


昂が癪に障るように声を振り絞る。

そこにはーー昂達の驚愕に応えるように、魔術の知識の防壁を展開させた玄の父親が嗜虐的な笑みを浮かべて立っていた。


「これが魔術か」


昂と陽向による激しい魔術の攻防戦を目の当たりにするに連れて、輝明は奇妙な既視感を覚えていた。

その理由はまだ分からない。

だが、この現象を、自分は何処かで見たことがあるような気がするーーそんな予感がしていた。

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