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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第六十三章 根本的に光る世界に夢を見た⑤

「……ふむふむ、黒峯蓮馬め。意気込んでいられるのも今のうちなのだ」

「昂くん、何か企んでいそうだね」


ほくそ笑んでいる昂を見て、陽向は警戒するようにつぶやいた。


「貴様に話す必要はない」


疑惑の視線を送る陽向に、昂は腰に手を当てると得意げに言う。


「我が何かを狙っていることは口を裂けても言わないのだ!」

「……そうなんだね」


これ見よがしに昂が憮然とした態度で言うのを聞いて、陽向は苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。


「黒峯陽向。貴様は今日、ここで我が引導を渡してやるのだ! 綾花ちゃんと我の魔術書は必ず、守ってみせるのだ! 諦めるのなら、今のうちだと考え改めるべきだ!」

「うーん。僕は諦めるつもりはないよ」


昂の挑発めいた発言に、陽向は悠々とその場で浮遊する。


「むっ! 我は納得いかぬ!」


曖昧に言葉を濁した陽向を見据えて、昂は両拳を振り上げて憤慨した。


「貴様、何ゆえ、諦めるを選らばぬ!」

「僕は、昂くんの魔術書を諦めるつもりは毛頭ないし、麻白に戻ってきてほしいからだよ」


昂の抗議に、楽しげに飛行していた陽向は地面に降り立った。


「さあ、始めようか。麻白をーーそして、魔術書を賭けた勝負を!!」


昂なりの最大級の譲歩を否定した上で、陽向は魔力を高めて向かい合う。


「むむむむむっ……!! 減らず口を叩いていられるのも、今のうちなのだ!!」


昂もまた、陽向に対抗するだけではなく、圧倒するための力を放とうとした。


「昂くん、本気になってきたみたいだね」


昂の魔力を見計らって、さすがの陽向も感服する。


「綾花ちゃんも、我の魔術書も渡さないのだーー!!」

「麻白が戻ってくるのを待っていた。僕達はずっと、麻白が戻ってくるのを待っていたんだよ。昂くん!!」


昂の魔術と陽向の魔術。

それらは一つだけ放たれていれば、辺りを滅ぼすものだっただろう。

だが、二つの流れは衝突し、相殺し合った。

しかし、直後に起きた現象を正確に認識できた者はいなかった。

ただ、二人が振るった最大限に放たれた魔力がーーその場に斬撃の嵐を起こしたとしか、元樹達には理解できない。


「……っ。すげえ威力だな……。少しは手加減しろよな」

「黒峯陽向相手に、手加減など出来るはずもなかろう」


元樹が魔術道具を掲げて会場内を元に戻すと、昂は臨戦態勢を解くこともなく、陽向との戦闘を踏襲する。

昂が新たな魔術を放とうとしたその時、大会会場へと訪れる綾花達の姿が目に止まった。


「ーーおおっ、綾花ちゃん!」

「えっ……? 麻白、どうしてここに? ーーって、うわっ!」


昂の感極まった歓喜が、陽向に綾花達の到来を伝える。

それと同時に、昂の不意を突くような魔術が会場内へと放たれた。






大会会場での戦いは今、どうなっているのか。

そして、玄の父親達の虚を突き、止まってしまった時間を動かすための方法を見極めるにはどうしたらいいのか。

元樹達と合流すれば、何か思いつくかもしれない。


輝明に、大会会場へと戻ることを示唆された後ーー。

拓也が、綾花達に提案したのは、あくまでもなりふり構わない直接的な手段だった。

しかし、それは想像していた以上に難解で厄介極まりない状況に追い込まれただけだということを、拓也は痛感させられていた。

綾花達とともに大会会場を訪れた拓也は、それを嫌というほど実感することになった。


「「「我らは、綾花ちゃんと我の魔術書を守るのだ!」」」

「昂くんの分身体って、どうして声を揃えて話すのかな」


陽向の指摘を受けている複数の昂達は何故か、声を合わせて一致団結している。


「別に問題あるまい。我らは、ただの影武者なのだからな!」


その中の昂の一人が代表して、ステージがある方向に向かって、無造作に片手を伸ばすとそう叫んだ。

状況を把握した拓也は、綾花の手を引いて元樹のもとへと駆け寄る。


「元樹、これって……」

「ああ。恐らく、綾がいつも使っている『対象の相手の姿を変えられる』魔術のパワーアップバージョンを元にした魔術だろうな」


拓也と元樹が困り果てたようにため息をつこうとしたところで、大会会場の入口から誰かの声がした。


「いたぞ、あの少年達だ!」


警備員のかけ声に合わせて、数名の警備員達が大会会場内に駆け込んでくる。


「「「ひいっ、黒峯蓮馬の刺客が来たのだ!! 我らは逃げる!!」」」


警備員達の追っ手に対して、複数の昂達は一斉に悲鳴を上げる。


「た、たっくん、どうしよう?」


予想外の光景を目撃した綾花は躊躇うようにつぶやいた。

あまりにも想定外なことが起こると人は唖然としてしまうものだが、綾花達はまさに自分の目を疑った。

玄の父親の警備員達によって追いかけられている、多くの昂達。

そこには、綾花達にとって、あまりにも想定を超えた現象が広がっていた。


「目立ちすぎだ」

「……ああ」


予想の斜め上を行く昂の作戦戦略を前にして、拓也と元樹が呆れたように眉根を寄せる。


「何だ、あの怪しい格好をした奴らは……?」


その一連の行動を大会会場に入るなり、思わぬかたちで目の当たりにしてしまった輝明は、呆気に取られたようにぽつりとつぶやく。

昂は、分身体も含め、頭にはちまきを巻き、『麻白ちゃん、ラブ』と書かれたタスキを掲げて、麻白の熱狂的なファンに扮していた。

しかも、何処から調達してきたのか、応援用のペンライトまで持っている。

あまりにも怪しすぎて、近くにいた陽向や警備員達から思いっきり冷めた眼差しを向けられていたのにも関わらず、昂は当然のようにふんぞり返っていた。


「あれが、時を止めたという魔術と魔術の知識の使い手なのか?」

「……すまない。彼らは味方だ」


輝明の疑問に、1年C組の担任は困ったように苦笑する。


「畢竟するに、敵ではないんだな」


輝明は何とも言いがたい眼差しで、逃げ回る昂を見つめていた。

しかし、1年C組の担任から、味方の魔術の使い手の魔術で生じた出来事だという説明を受け、ようやく腑に落ちる。


「なら、あの二人が、時を止めた魔術と魔術の知識の使い手なんだな」

「ああ」


刺すような輝明の指摘に、1年C組の担任は思わず唖然とした。


「味方らしい魔術の使い手。とりあえず、その気迫だけは認める」

「「「むっ、何者なのだ! この偉そうな者は!」」」


輝明の率直な意見に、逃げ回っていた昂達が不本意とばかりに一斉に足を止める。


「なっ、阿南輝明さん……! 拓也、まだ、時間が止まっているはずだよな?」

「元樹、実はーー」


時が止まっているはずなのに、魔術の使い手、魔術道具の使い手の近くにいた者ではない者が動いているーー。

動揺の色が隠せない元樹の発言に、拓也はこれまでの出来事を打ち明けたのだった。

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