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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
195/446

第六十ニ章 根本的に光る世界に夢を見た④

「我は綾花ちゃんに会いたいのだ! そして、今すぐ我の魔術書を返すべきだ!」


元樹が、今後の大会に向けての終着点を定めようとしていた頃ーー。

昂はいまだに、大会会場内で地団駄を踏んでわめき散らしていた。


「あのな……。おまえ、少しは状況を考えてくれないか……」

「黒峯蓮馬と黒峯陽向を目の前にして、そのようなことを考えている暇などなかろう」

「……黒峯蓮馬さんと陽向くんにいるからこそ、何かしらの対策を考える必要があるんだろう」


暴走気味の昂の発言を前にして、対応に困った元樹が辟易する。

そこで昂は腕を組むと、不愉快そうに訴えてきた。


「むっ、我とてそれなりに考えている。偉大なる我の魔術で、いかに黒峯蓮馬と黒峯陽向を出し抜くかをな」

「……何だか、当てになりそうもなさそうだな」


昂の驕り高ぶりに、元樹は内心のため息とともに突き放すように言った。


「そんなことよりも、我はこの戦いで、黒峯陽向に借りを返さなくてはならぬ。そのための方法を、我はついにーーついに思い付いたのだ!」

「……方法?」


昂が己を奮い立たせるように自分自身に対してそう叫ぶのを見て 、元樹は探りを入れるように尋ねる。


「うむ。前に、我の分身体ーー影武者達が、黒峯陽向の魔術によって突如、反乱を起こしたことがあったであろう。それを逆に利用してやるのだ」


元樹から問われて、昂は意を決したように息を吐くと、必死としか言えない眼差しを陽向に向ける。

その言葉が、その表情が、昂の焦燥を明らかに表現していた。


「利用……? わざと分身体を操らせるのか?」

「黒峯陽向の魔術を、逆に利用してやるべきだ」


訝しげな元樹の問いかけにも、昂は憤懣やる方ないといった様子で同じ内容を訴え続ける。

そこで、先程の昂の言動に隠された示唆に、元樹は思い当たる。


「もしかして、それが陽向くんに対処する方法なのか?」

「うむ、その通りなのだ」


奇妙に停滞した心の中で、元樹は昂の意図を把握した。


「綾花ちゃんの分身体も、我の影武者達も、黒峯蓮馬と黒峯陽向に操られてしまうからな。謀反を起こすというのなら、謀反返しをしてやるまでだ」

「……なるほどな。つまり、陽向くんの意識をそちらに向けさせるんだな」


拳を突き出し、昂が至極真面目な表情でそう言ってのけると、元樹は思わず呆気に取られてしまう。


陽向の意識を、昂の分身体を操らせることに集中させる。

それに乗じて、元樹達はこの場から離脱し、難を逃れるという戦略。


あまりにも突拍子のない、昂の型破りな作戦。

だが、この状況に置いて、有効な手段の一つのようにも思えた。

それを成し得るために、元樹は前持って抱いていた疑問を口にする。


「黒峯蓮馬さん。どうして、この状況で時間を止めたんですか? 綾と上岡の心を弱くする魔術を用いるためですか?」


静かに尋ねる元樹のニュアンスは、既に玄の父親達が綾花と進の心を弱める魔術を把握していることを確定事項としていた。

その揺らぎない自信に呆気に取られつつも、玄の父親は確信に満ちた顔で笑みを深める。


「瀬生綾花さんには、この大会の後からは麻白として生きてほしい。前は、上岡進くんの心の影響で成功に至らなかったからな。なら、瀬生綾花さんと上岡進くん、どちらの心も弱めてしまえばいい。時を止めたのは、それを行うための一環に過ぎない」

「なるほどな。時が止まれば、綾と上岡の意思に邪魔されずに心を弱めることができるからか」


周囲に視線を巡らせる玄の父親を前にして、元樹は推測を確信に変える。


「ああ。彼女達の意思さえなければ、何の障害もなく、心を弱めることができるからな」

「おのれ~、黒峯蓮馬! 綾花ちゃんと進の心は絶対に弱めさせないのだ!」


玄の父親の静かな決意を込めた声。

付け加えられた言葉に込められた感情に、昂は拳をぎりぎりと握りしめ、不愉快そうに顔を歪めながら言う。

その玄の父親の言葉が合図だったように、元樹は意を決したように玄の父親の方を振り向くと、神妙な面持ちで話し始めた。


「黒峯蓮馬さん。俺達の役目は、綾に魔術を使わせないようにすることだ。俺達を振り払って、綾達を追わないんですか?」

「追う必要はない。この会場からは出ることはできないからな」


核心を突く元樹の言葉に、玄の父親はどうしようもなく期待に満ちた表情で、ただ事実だけを口にした。


「会場から出られない?」

「この大会会場周辺には、魔術による結界を張り巡らせている。外に出ようとしても再び、この会場内に戻って来てしまうという無限ループの魔術を施しているからな」


元樹の疑問に、玄の父親は目を伏せる。


「大会会場内だと隠れられる場所も限られてくるだろう。すぐに捕らえることができるはずだ」

「綾達をこの会場から出さないようにした上で、警備を張り巡らせて逃げ場を封じる。シンプルですが、辛辣な作戦ですね」


元樹の嫌悪の眼差しに、玄の父親は大仰に肩をすくめてみせる。

少し間を置いた後、元樹は幾分、真剣な表情で続けた。


「綾達がここに戻ってきたら、どうするんですか?」

「麻白達がここに戻ってくるなど、あり得ないことだ」


その吐き捨てるような元樹の言葉に、玄の父親は淡々と返す。


「それなら何故、玄と大輝の時まで止めたんですか?」

「私自身が怖かったからでもある。私達のやることを、玄と大輝くんは否定していたからな」


元樹の言葉に、玄の父親は一呼吸おいて、異様に強い眼光を玄と大輝に向ける。

その眼差しは、執拗に麻白にこだわり、自身の家族

の行く末を憂いていた。


「正直、玄と大輝くんには、私達の方に付いてほしかった。麻白が完全に麻白になれば、玄と大輝くんも私達が成そうとしていたことを認めるしかないだろう」

「黒峯蓮馬さん……」


玄の父親の嘆き悲しむ姿に、元樹はショッピングモール内で玄達に綾花達に纏わる真実を語った時のことを思い出す。


「俺も拓也も、最初は不安でした。綾に、上岡が憑依したという事実が信じられませんでした」


元樹は寂しげにそう告げた後、何かを訴えかけるように自分の胸に手を当てる。


「同じように、玄と大輝も不安だったと思うんです。それでも、綾と上岡を認めた上で、今の麻白を受け入れようとしてくれています。その気持ちまで踏み滲むーー」

「麻白は麻白だ!」


元樹の言葉を打ち消すように、玄の父親はきっぱりとそう言い放った。


「たとえ、玄と大輝くんの気持ちを踏み滲むことになろうとも、私はーー私達はただ、麻白に帰ってきてほしい。帰ってきてほしいんだ……」


拳を握りしめ、苦悩の表情を晒す玄の父親は、明らかに戸惑っていた。

元樹達がーーそして、玄と大輝が綾花達を守りたいと願っているように、玄の父親達もまた、麻白に戻ってきてほしいと焦がれている。

すれ違う想いは、元樹達と玄の父親達の間に確かな亀裂を生じさせていた。

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