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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第六十一章 根本的に光る世界に夢を見た③

綾花達が地下駐車場から大会会場に戻る決心をしていた頃、昂は息巻いていた。


「うむ。今度こそ、我の魔術で、黒峯蓮馬と黒峯陽向を返り討ちにしてくれよう。そして、綾花ちゃんを護ってみせるのだ!」


昂は得意げにぐっと拳を握り、天に突き出して高らかに言い放った。

それは警告でもあり、昂なりの勝利宣言でもあった。


「昂くん。陽向くんの時間制限が無いことを聞いた割には、やけに余裕があるみたいだな」

「貴様に答える必要はない」


訝しげな玄の父親の問いかけにも、昂は何でもないことのようにさらりと答えてみせる。


「だけど、陽向くんの時間制限が無いというのは、どういうことなんだろうな。舞波、陽向くんから何か感じないか?」


警戒するように質問を浴びせてきた元樹に対して、何を言われるのかある程度は予測できていたのか、昂は素知らぬ顔と声で応じた。


「否、我にそんなこと、分かるはずがなかろう」

「だったら、何でそんなに自信があるんだ……」


そのもっともな昂の言い分に、元樹は不満そうに肩をすくめて言う。


「決まっている。我はもう二度と魔術書を奪われたくない。奪われたくないのだ。我の偉大な魔術書は、もはや誰にも渡さぬ!! 我のその決意がーーその覚悟が、我を数段、否、格段、強くしているのだ!!」


苦虫を噛み潰したような元樹の声に、不遜な態度で昂は不適に笑った。


「だけど、おまえは今回、魔術書を持っていないだろう」

「うむ。しかし、気付かれてしまうかもしれないではないか……」


そのもっともな元樹の意見にも、昂は気まずそうにむっ、と唸る。


「……というか、そもそも、おまえは誰が魔術書を持っているのか、知らないだろう」

「たとえ、知らぬとも、我は魔術書を自由自在に読み明かし、なおかつ魔術書を守りたいのだ。その上で、黒峯蓮馬達と黒峯陽向を返り討ちにしてくれよう。そして、綾花ちゃんを護ってみせるのだ!!」

「……あのな」


無謀無策、向こう見ずなことを次々と挙げていく率直極まりない昂の形振りに、元樹は抗議の視線を送る。

昂が絶対的な勝利を確信し、意気込むーーその姿を視界に収めた陽向は身も蓋も無く切り出した。


「でも、昂くん。僕達から魔術書を取り戻すのは無理じゃないかな。僕、今回はいつもと違って、時間制限がないから」

「そんなことはどうでもいい! 今すぐ我の魔術書を返すのだーー!!」


臨戦態勢を取る陽向を前にして、昂は絶対防壁を展開すると言わんばかりに両手を広げて目を見開いた。


「我の魔術書を取り戻した暁には、一目散に綾花ちゃんのところに行かなくてはならぬのだ! このような問答を繰り返している場合ではないのだ! 我は今すぐ、綾花ちゃんに会いに行かねばならぬ!」

「なら、今はチャンスを待つしかないな」


不服そうに機嫌を損ねる昂の意見を受け、元樹はこれまでの経緯を省みる。


「黒峯蓮馬さんの魔術の知識の防壁は破れない。陽向くんも、今回は時間制限がない。時が止まった現象も、一向に元に戻る気配はない。全てに置いて、八方塞がりの状況だ」


元樹の脳裏に、あらゆる、不測の事態が駆け巡った。


「黒峯蓮馬さんの魔術の知識と陽向くんの魔術の対処。そして、先生達と合流した後、俺の持っている魔術道具か、舞波の魔術でこの場から離脱しなくてはならない」


機を窺う元樹の思考は、さらに加速化する。


「だが、大会はまだ、続いている。この場を離脱しても、俺達は再び、ここに戻ってきて、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦の間、綾を護り抜かないといけないな」


僅かに焦燥感を抱えたまま、元樹は遠い目をする。


「先生に、綾達を救出した後も、守ってもらえるように頼んでいるが、恐らく考えられる限り、最悪に近い状況だな」


本選開始前に、元樹がオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式サイト上でやり取りされた第四回公式トーナメント大会、チーム戦の観戦者達の情報などを収集して、大会会場内に張られた玄の父親の警備員達の包囲網をある程度、把握した結論だ。


元樹達は、綾花をーー麻白を連れて、大会会場から抜け出すことは正常な手段では出来ず、かつ正面から出ようとすれば、ほぼ確実に玄の父親達によって囚われてしまう。

捕まれば、綾花は麻白としての記憶の改竄を受け、元樹達とは引き離されてしまうことになるだろう。

まさに、最悪の状況と言っても、過言ではなかった。


「先程の発言といい、俺達がこの場を切り抜けても、黒峯蓮馬さんと陽向くんは、この本選で何かしらの策略を仕掛けてくるだろうな」

「我は納得いかぬ! それでは、いつまで経っても綾花ちゃんと我の魔術書が狙われたままではないか!」


忌々しさを隠さずにつぶやいた元樹の言葉に、半ばヤケを起こしたように、昂が地団駄を踏んでわめき散らす。

元樹は一度目を閉じて、頭の中に溢れるこれからおこなわないといけない情報を整理する。


黒峯蓮馬さんの魔術の知識と陽向くんの魔術の対処。

そして、先生と無事に合流した後、俺の持っている魔術道具か、舞波の魔術でこの場から離脱しなくてはならない。

その後、大会会場に戻って、玄達とともに本選ニ回戦のバトルを行わないといけないな。


目をゆっくりと開いた元樹は、本選ニ回戦のバトルへ挑もうとしている玄達を見つめて言う。


「今回は予想以上に、長丁場になりそうだな」


あくまでも現実を見据えた元樹は、陽向達に対処するために新たな作戦を模索する。


「だけど、舞波が編み出した分身体の魔術は使えない。また、陽向くんに操られてしまう可能性があるからな」


元樹は警戒するように、視線を周囲へと走らせた。


「そして、上岡は今、雅山に憑依している。綾の心を弱くされたら、前のように魔術で押さえても、押さえきれない状態になるかもしれない」


綾花を完全に麻白にすることができる魔術書。

その魔術の効果を、元樹は前に起きた現象で否応なしに目の当たりした。

前回、麻白の心が強くなった際に対処できたのは、綾花が進に変わることが出来たためだ。

しかし、今回は観戦席でバトルを見ていた進ーーあかり達は石のように固まっている。


今、綾の心を弱くされれば、打つ手はなくなるかもしれない。

なら、何とかして、陽向くんと黒峯蓮馬さんを止めないとな。


元樹は携帯を手に、決意を固めたのだった。

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