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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第五十七章 根本的に昨日の君は僕だけの君だった③

「なっ?」


予想外の助っ人を目の当たりにして、玄の父親は驚愕する。


「汐、任せろ!」

「ダーリン、こちらは任せて!」


再び、取り囲もうとしてきた警備員達を、汐は駆けつけてきた1年C組の担任とともに振り払っていく。


「その少女が、麻白お嬢様ですね。なら、彼女を渡してもらいます!」


綾花と拓也を追いかけて、警備員達とともにいた美里が1年C組の担任達のもとへと駆け込んでくる。

美里達の追手に対して、1年C組の担任がとった行動は早かった。


「汐、後は頼む!」

「うん、ダーリン」


綾花達の護衛を汐に任せると、1年C組の担任は大会会場の床を蹴った。

そして、警備員達の前まで移動する。

その見え透いた挙動に、警備員達の反応が完全に遅れたーーその時だった。

1年C組の担任は警備員達に素早く接敵すると、多彩な技を駆使して次々と警備員達を倒していく。

次の瞬間、美里の目に映ったのは床に倒れ伏す警備員達の姿と、冷然と立つ1年C組の担任の背中だった。


「汐、瀬生と井上を連れて、ここから一度、離脱しよう」

「ダーリンの頼みなら、仕方ないっていうか」


きっぱりと告げられた言葉に、汐は恥じらうように頬を赤く染める。


「待ちなさい……っ!」


美里が倒れている警備員達を避けて怯んでいるその隙に、1年C組の担任と汐は、綾花と拓也に連れ添って大会会場を抜け出した。






「……はあはあ。これならどうなのだ」


強力な魔術を放った影響で、昂は息を切らしてバテていた。

魔術は、陽向にだけ攻撃が及ぶように射程を絞っている。

そして、強力な魔術を放てるようにと、威力を一点に集めていた。

昂は、前回までのやり方を踏襲する。

だが、そこまでしても、陽向の魔術の豊富さには悪戦苦闘していた。


「今度こそ、我の魔術の偉大さが分かったであろう」

「うん。すごい威力だね」


矜持を貫いた昂に答えたのは、泰然自若と立っていた陽向だった。


「むっ?」


目を見張る昂の前で、陽向は平然とした表情で服についた埃を払っている。


「お、おのれ~! 何故、倒れないのだ!」

「昂くんの魔術って、やっぱりすごいね」


何度目かの魔術の打ち合いの後、昂は荒い息を吐きながらも陽向と距離を取った。

同時に陽向も浮遊して、万全の攻撃態勢を整える。

次の瞬間、昂と陽向は同時に叫んだ。


「これで終わりなのだ!!」

「うん。終わりにしようか、昂くん!!」


互いの魔術は正面から激突し、そして大爆発が発生した。

大会会場が崩壊するのも構わず、破壊の限りを尽くす魔術の嵐。


「おい、舞波、やり過ぎだ……」


介錯のない魔術の威力に、会場の修復を行っていた元樹は辟易する。

またしても後始末を押し付けられた元樹は、玄の父親との戦いを繰り広げながらも会場内を元に戻していく。

幸い、負傷者は出なかったものの、爆風によって吹き飛ばされている者達がいた。


「会場と会場内の人々の位置を元に戻してくれないか!」

「いつも元樹くんが、昂くんの対処に追われているんだね」


決意するように魔術道具をかざした元樹を見て、浮遊していた陽向は同情するように囁く。

余裕の表情で荒れた瓦礫に降り立つ陽向を前にして、体力を大幅に消耗した昂は辛そうに膝をついた。


「僕の魔術を相殺するなんて、昂くんの魔術はやっぱり、すごいよね」

「はあはあ……。苦しいのだ」


感嘆する陽向とは裏腹に、息も絶え絶えの昂は必死としか言えない眼差しを陽向に向ける。

その言葉が、その表情が、昂の焦燥を明らかに表現していた。

昂の魔術は向上している。

だが、次第に体力を消耗していく昂に対して、陽向はまるで疲れを知らないように平然と立っていた。


「でも、僕には勝てないよ」

「おのれ……」


陽向はどうしようもなく期待に満ちた表情で、ただ事実だけを口にした。

愕然とする昂はそれでも諦めなかった。

立ち上がった昂は陽向に向かって、多彩な魔術を何度も打ち込んでいく。

炎の魔術。水の魔術。風の魔術。大地の魔術。

陽向はその全てを正面から弾き、避け、そして相殺して凌ぎきる。


「むっーー」

「昂くん、チェックメイトだよ!」


昂が驚きを口にしようとした瞬間、高く飛翔した陽向は更なる魔術を放った。


「……まだなのだ! 黒峯陽向、今こそ、我の魔術を食らうべきだ!」


陽向の魔力に応えるように、昂は裂帛の気合いを込めて魔術を放った。

意表をついた昂の魔術。

だが、それは口にした陽向ではなく、玄の父親へと向かっていく。


「叔父さんーーっ!?」

「ーー陽向くん、大丈夫だ」


駆け寄ろうとした陽向を制して、玄の父親は魔術の知識を用いて、昂の魔術から身を護る。

昂の突飛な行動が合図だったように、元樹は魔術道具を使って、一瞬で玄の父親のもとまで移動する。

そして、玄の父親の体勢を崩すために足払いをした。


「……っ!」


静と動。

本命とフェイント。

元樹は移動に魔術道具を用いて、玄の父親の意表を突くと、緩急をつけながら時間差攻撃に徹する。


「昂くんの不意討ちを利用して攻撃してくるとは、布施元樹くん。君はやはり、侮れないな」


昂の強力な魔術と巧妙な元樹の連携攻撃を、何とか防いだ玄の父親は忌々しそうにつぶやいた。


陽向が魔術を使っている時は、玄の父親は身を守る程度の魔術の知識しか使うことが出来ない。


その影響が及んで玄の父親自身は、元樹の陸上部で培った運動神経と魔術道具を用いた攻撃手段から身を守るだけで精一杯な状態である。

そこに昂の魔術が放たれた事で、玄の父親は次第に疲弊していた。






「みんな、行くぞ!」

「はい」

「うん」


1年C組の担任に先導されて、拓也と綾花は通路を駆けていった。

警備員達の追手から逃れるため、綾花達はエントランスホールを駆け抜け、階段を降りていく。

1年C組の担任が、警備員に扮して行った事前調査では、地下駐車場まではあと少しだ。

綾花達は階段を降りた後、広い通路を進んでいき、目的地である地下駐車場へと急いだ。

しかし、長い通路を駆け抜け、いくつもの角を曲がった先に、新たなセキュリティシステムが施された扉が、綾花達の前に立ち塞がった。


「地下駐車場に行くには、ここを通る必要があるな」

「……た、たっくん、先生」


思わず、身構えてしまった1年C組の担任に、それまで誘導に従っていた綾花が戸惑うように声を掛けてきた。


「綾花、どうしたんだ?」

「誰か、私達の後をついて来ているよ」

「なっ! 警備員の人達か?」


後方を窺い見る綾花の警告に、拓也は明確な異変を目の当たりにする。


「ここで、何をしている?」

「ーーっ!?」


その声はあまりにもタイミングが良すぎて、拓也は1年C組の担任と汐と連携し、綾花を護るように身構えた。

振り返った拓也達が目にしたのはーー綾花達の驚愕に応えるように、壁に寄りかかった少年。

警戒するような眼差しを向けてくる少年を、綾花はーー麻白は十分すぎるほど知っていた。


「輝明さん……」


そこには、玄達と同じ、本選二回戦からのシードチームのリーダーである阿南輝明が立っていた。

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