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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第五十ニ章 根本的に奇跡を願う②

拓也は一呼吸置くと、真っ先に浮かんだ疑問を口にする。


「元樹、阿南輝明さんに協力を求めるってどうするつもりだ?」

「協力を求めるとは言っても、まずは陽向くんの動きがあってからだ。とりあえず、俺達は陽向くんが仕掛けてくるのを待とうと思う」

「なっ! 陽向くんは、既にこの大会会場のどこかにいるのか?」


予想外の元樹の言葉に、拓也は意表を突かれる。

元樹はつかつかと近寄ってきて、拓也の隣に立つと、ぎりぎり聞こえるくらいの小さな声で言った。


「恐らくな。企業説明会や総合病院の時のように、陽向くんは魔術を用いて仕掛けてくるはずだからな」

「確かにな」


拓也が戸惑ったように言うと、元樹は顎に手を当てて真剣な表情で思案し始める。


「これから俺達は、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦の間、綾を護り抜かないといけない。だが、陽向くんと黒峯蓮馬さん達による魔術の連携はかなり厄介だ。だからこそ、それに対抗するために虚を突いた作戦を実行しようと思う」

「元樹、これからどうするんだ?」


拓也の疑問に、元樹は携帯を確認すると、記憶の糸を辿るように目を閉じる。


「陽向くんの魔術は強力だ。だが、時間制限がある」

「時間制限?」


呆気に取られた拓也にそう言われても、元樹は気にすることもなくあっさりとした表情で言葉を続けた。


「時間が経てば、陽向くんは前のように姿を消すはずだ。陽向くんが立ち去った後なら、分身体を操ることができるのは黒峯蓮馬さんだけだからな。舞波が編み出した分身体の魔術は、陽向くんが立ち去った後に使おう」

「分身体の魔術はやっぱり使うのか?」

「ああ」


訝しげな拓也の問いかけに、元樹は迷いなく断言する。


「俺達が麻白の姿をした綾に付き添っている間、陽向くんは何かしらの行動を起こしてくるはずだ。それを利用して、こちらからも仕掛けようと思う。そうすれば、陽向くんを探す手間はないよな」

「なるほどな」


苦々しい表情で、拓也は隣に立っている綾花の方を見遣る。

だが、すぐに思い出したように、拓也は元樹の方に向き直ると、ため息をついて付け加えた。


「だけど、元樹、陽向くんや黒峯蓮馬さんが予想外な行動をしてきた場合はどうするつもりだ?」

「その場合も、対処できるはずだ。まあ、少し強引な手段かもしれないけどな」


そこまで告げると、元樹は携帯をしまい、迷いなく断言する。


「……陽向くんは前に、綾に宿る麻白の心を強くする魔術を使ってきた。なら、今度は逆に綾と上岡の心を弱くする魔術を用いてくる可能性がある」

「そうだな」


どこまでもきっぱりと話す元樹を見て、拓也もまた、真剣な表情で頷いた。


「その事実が分かっているだけでも、対処の仕方は違うはずだ。綾の様子を確認しながら、陽向くんが仕掛けてくるまで周囲を警戒していこう」

「ああ」


苦々しい表情で、拓也は隣に立っている綾花の方を見遣る。

憂いの帯びた拓也の声に呼応するように、綾花もわずかに真剣さを含んだ調子で穏やかに言葉を紡ぐ。


「……陽向くんも、この会場のどこかにいるんだよね」


そうつぶやいた瞬間、いつものように麻白の想いが、綾花の脳内にぽつりと流れ込んできた。


『あたし、もう一度、陽向くんと話したい』


「うん、あたし、もう一度、陽向くんと話したい」


麻白の想いに誘われるように、綾花は嬉しそうに笑ってみせる。


「ああ、そうだな。陽向くんともう一度、話そう」


拓也は真剣な表情を収めると、頬を緩め、綾花に笑みを向けた。


「綾花。不安要素は多いけれど、大会、楽しもうな」

「うん。ありがとう、たっくん」


きっぱりと告げられた拓也の言葉に、綾花は嬉しそうに頷いてみせたのだった。






陽向はどのタイミングで、何を仕掛けてくるのか。

綾花達が考えても答えは出なかった。

とにかく、相手の出方を見るよりほかにない。

そういう結論に至った本選二回戦Bブロック。

ステージを見据えた綾花達は、想定外の衝撃を目の当たりにした。


「さあ、お待たせ致しました!ただいまから、本選二回戦、Bブロックを開始します!」


二回戦のステージは、西洋風の雰囲気を全面に醸し出した巨大な宮殿だった。

夜空を切り裂く月光が、対峙する二つのチームを照らしている。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会の会場で、実況がマイクを片手に叫ぶと、大勢の観客達は歓声を上げた。


「なお、この二回戦を勝ち上がったチームが、準決勝進出を果たすことになります!」

「この対戦に勝てば、もう準決勝なんだな」

「『ラグナロック』は、本選二回戦からのシードだからな」


実況の言葉に対して呟いた拓也と元樹は、改めて盛り上がる周囲を見渡そうとする。

その瞬間、綾花達の視界が激しく揺れ動く。

大会会場の喧騒が遠ざかり、耳障りなノイズが頭へと流れた。

世界から取り残されたような感覚を認識した直後、世界は元に戻った。


「何が起きたんだ?」


混乱しそうになる頭を叱咤しながら周囲を見渡すと、拓也は不可思議な異変に気付く。

大会のアナウンスをしていた実況が、まるで時間が止まってしまったように動かない。

他の者達も、一定の動きをした状態で固まっている。


「たっくん、友樹。玄も大輝も対戦チームの人達も動かないよ」


拓也達の近くに駆け寄っていた綾花が、拓也の思いを代弁するように言う。

周囲の時間が停止したという、現実離れしたことが目の前で起きていた。


「みんな、どうしたんだ。俺達以外、まるで時間が止まったみたいに動かないなんて……!」


鋭く声を飛ばした拓也をよそに、元樹は冷静に目を細めて言った。


「どうやら、陽向くんが仕掛けてきたみたいだな」


元樹は警戒するように、視線を周囲へと走らせる。


「だが、まずいな。上岡は今、雅山に憑依している。綾の心を弱くされたら、前のように魔術で押さえても、押さえきれない状態になるかもしれない」


綾花を完全に麻白にすることができる魔術書。

その魔術の効果を、元樹は前に起きた現象で否応なしに目の当たりした。

前回、麻白の心が強くなった際に対処できたのは、綾花が進に変わることが出来たためだ。

しかし、今回は観戦席でバトルを見ていた進ーーあかり達は石のように固まっている。


今、綾の心を弱くされれば、打つ手はなくなるかもしれない。

なら、何とかして陽向くんを止めないとな。


元樹は携帯を手に、決意を固めたのだった。

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