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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第五十一章 根本的に奇跡を願う①

「おのれ~」


先を進んでいくごとに現れる、綾花達のいる本選ステージに行くことへの警備員達の妨害から逃れるため、昂が逃げ込んだ先はエントランスホールだった。

大会会場の個室で長時間、大会スタッフ達の事情聴取を終えた後、突如、玄の父親の家で雇われている警備員達から追いかけられてしまい、その度に昂は魔術を使って難を逃れてきたのだ。

昂はそれでも人影がないか確認してから、そのまま本選ステージがある方向へと視線を動かす。


「許せぬ!  許せぬぞ!!」


昂は両拳を突き上げながら地団駄を踏んでわめき散らしていた。


「我は、黒峯蓮馬から綾花ちゃんを護らねばならぬ、ーー護らねばならぬのだ! その我が、何故、黒峯蓮馬の刺客ごときで、こんなにうろたえなくてはならないのだ!」


憤慨に任せて、昂はひとしきり玄の父親のことを罵った。ひたすら考えつく限りの罵詈雑言を口にし続ける。


「しかし、奴らは不死身のゾンビか? 我を目の敵にしおって! 我は麻白ちゃんのもとに行かねばならぬと何度告げても追ってくる!」


忌々しそうにつぶやいた昂は一人、淡々と言葉を連ね続ける。


「このままでは、麻白ちゃんに会うことさえもままならないではないか」


胸に手を当てて深呼吸をすると、昂はどうすれば追っ手を振り払って綾花達がいる決勝戦のステージに行くことができるのかを考え始めた。

だがすぐに考えるのを止め、昂は魔術を使おうと片手を掲げる。


「うむ、とりあえず、ここはーー」


『対象の相手の元に移動できる』魔術を使うべきだな。

昂がそう続けようとしたところで、エントランスホールの奥から誰かの声がした。


「いたぞ、あの少年だ!」


警備員のかけ声に合わせて、さらに数名の警備員達が左右両方からエントランスホールに駆け込んでくる。

あっという間に囲まれた昂は、彼らによってあっさりと捕らえられてしまう。


「な、なんなのだ!  これは!」

拘束されながらも、昂は両拳を振り上げて不服そうに声を荒らげる。


「よし、ようやく、少年を確保したな!」

「後は、大会が終わった後、麻白お嬢様を彼らから取り戻さないといけない」

「そうだな」


警備員数人に連行されながらも、昂はうめくように叫んだ。


「こ、これでは麻白ちゃんのもとに行くことも、魔術を使うこともままならないではないかーー!!」


なおも逃走を図ろうとするが、完全に囲まれていてとても逃げられないことを悟り、昂はがっくりとうなだれる。

この時、昂も玄の父親の警備員達も気づいていなかったのだが、エントランスホールの柱からそんな彼らの様子をじっと見つめている男性と女性がいた。


「汐、私達は舞波を助けに向かおう!」

「ダーリン、任せて!」


彼らはーー1年C組の担任とその妻、汐は、元樹と度々、連絡を取り合う。

彼らは阿吽の呼吸ともいえる行動の機敏さとともに、昂と玄の父親の警備員達を尾行していたのだった。






「さあ、これより、予選を勝ち上がってきた十四組のチームによる第四回公式トーナメント大会、チーム戦本選を開始するぞ!」


実況を甲高い声を背景に、予選を難なく、勝ち越した綾花達は前を見据えた。

実況の本選開幕の言葉に、観客達はヒートアップし、万雷の歓声が巻き起こった。


「ついに本選開始か」

「『ラグナロック』は前回の優勝チームだから、本選二回戦からのシードだな」


本選ステージへと目を向けた拓也に、携帯を手に取った元樹は軽く頷いてみせる。


「麻白達のーー『ラグナロック』のバトルは、本選二回戦からなのか」


噛みしめるようにつぶやくと、拓也の胸の奥の火が急速に消えていくような気がした。

だが、すぐに状況を思い出して、拓也は表情を引きしめる。


「だけど、大会が終わった後、どうやってここから出るかだな」


拓也は静かにそう告げて、大会会場内を見渡した。

見れば、大会参加チーム用の入口ゲートだけではなく、一般入場ゲート、大会スタッフ専用出入り口までもが、玄の父親の警備員達によって封鎖されている。


恐らく、俺達が、黒峯蓮馬さん達の目を盗んで、綾花とともここから逃げ出す手段はないに等しいだろう。

いや、舞波の魔術を除いてかーー。

もっとも、黒峯蓮馬さんも、そのことを理解した上でのーーこの行動だろうな。


拓也は顔を曇らせて俯くと、ぽつりとそう思った。

元樹からここから逃げ出す手段を探してほしいと頼まれたのだが、予選が終わっても、拓也の思考は堂々巡りで、一向に一つの意見にまとまってくれなかった。


「そのことなんだが」


拓也の疑問を受けて、感情を抑えた声で、元樹は淡々と続ける。


「舞波が、黒峯蓮馬さんの警備員達の手によって、囚われてしまったらしい」

「なっーー」


元樹の思いもよらない言葉に、拓也は不意をうたれように目を瞬く。

戸惑う拓也に、元樹は深々とため息をついて続ける。


「先生に、舞波を救出してもらえるように頼んでいるが、恐らく考えられる限り、最悪に近い状況だな」


1年C組の担任と連絡を取り合った後、元樹がオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式サイト上でやり取りされた第四回公式トーナメント大会、チーム戦の観戦者達の情報などを収集して、大会会場内に張られた玄の父親の警備員達の包囲網をある程度、把握した結論だ。


元樹達は、綾花をーー麻白を連れて、大会会場から抜け出すことは正常な手段では出来ず、かつ正面から出ようとすれば、ほぼ確実に黒峯蓮馬さん達によって囚われてしまう。

捕まれば、綾花は麻白としての記憶の改竄を受け、元樹達とは引き離されてしまうことになるだろう。

まさに、最悪の状況と言っても、過言ではなかった。


「先程のゲーム関係の取材のことといい、黒峯蓮馬さんと陽向くんは、この本選で何かしらの策略を仕掛けてくるだろうな」

「……綾花をーーっ、いや、麻白を捕らえるつもりなのか」


忌々しさを隠さずにつぶやいた元樹の言葉に、半ばヤケを起こしたように拓也が叫びかけてぐっと言葉を飲み込む。

元樹は一度目を閉じて、頭の中に溢れるこれからおこなわないといけない情報を整理する。


舞波の身柄の確保。

黒峯蓮馬さんの魔術の知識と陽向くんの魔術の対処。

そして、1年C組の担任の先生と無事に合流した後、俺の持っている魔術道具か、舞波の魔術でこの場から離脱しなくてはならない。


目をゆっくりと開いた元樹は、本選一回戦のバトルを観戦している綾花達を見つめて言う。


「こうなったら、当初の予定を少し変更して、新たな協力者を得ようと思う」

「なっ! 舞波のおばさんや先生達以外にも、協力者を求めるのか?」


呆気に取られた拓也にそう言われても、元樹は気にすることもなくあっさりとした表情で言葉を続けた。


「黒峯蓮馬さん達も、まさか、俺達がここに来て、新たな協力者を探すとは思わないだろう。その盲点を突こうと思う」

「盲点?」

「ああ」


訝しげな拓也の問いかけに、元樹は迷いなく断言する。


「綾ーー麻白達が本選で戦っているその間に、先生達に舞波を救い出してもらおうと思う。そして、新たな協力者に黒峯蓮馬さん達の行動の足止めをしてもらえば、あとは陽向くんを止めるだけでいいよな」

「なるほどな」


苦々しい表情で、拓也は隣に立っている綾花の方を見遣る。

だが、すぐに思い出したように、拓也は元樹の方に向き直ると、ため息をついて付け加えた。


「だけど、元樹。どうやって、黒峯蓮馬さん達の行動を足止めするつもりだ?」

「まあ、少し強引な手段かもしれないけどな」


そこまで告げると、元樹は緊張した面持ちで応える。

元樹の視線の先には、玄達と同じ本選二回戦からのシードチームの姿があった。


「『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で二位のプレイヤーであり、阿南総務大臣の息子である阿南輝明。彼の力を借りることが出来たら、警備員達を足止めすることが出来るかもしれない」

「なっ!」


予想もしていなかった元樹の発案に、拓也は虚を突かれたように愕然とするしかなかった。

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