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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第四十八章 根本的に星と月②

「麻白」

「おい、麻白!」


オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦の当日ーー。

ワゴン車から降りた後、綾花達が荷物を手に、待ち合わせの大会会場へと向かっていると、不意に玄と大輝の声が聞こえた。

声がした方向に振り向くと、少しばかり離れた道沿いに、玄と大輝が綾花達の姿を見とめて何気なく手を振っている。

荷物を握りしめて玄達の元へと慌てて駆けよってきた綾花は、少し不安そうにはにかんでみせた。


「玄、大輝、遅くなってごめん」

「心配するな」

「麻白、相変わらず遅いぞ」


玄と大輝がそれぞれの言葉でそう答えると、綾花は花咲くようににっこりと笑ってみせた。そして、嬉しさを噛みしめるように持っている荷物をぎゅっと握りしめる。

元樹とともに、綾花の後を追いかけ、玄達の前に立った拓也は、居住まいを正して真剣な表情で頭を下げた。


「玄、大輝、今日はよろしくな」

「……ああ、分かっている」


拓也の誠意の言葉に、大輝はそっぽを向くと、ぼそっと呟いた。


「はあ……」


困ったようにため息をついた拓也をよそに、元樹がこともなげに言う。


「みんなで、綾と上岡と麻白を守ろうな」

「あ、ああ、そうだな。……拓、友樹」

「あっ、大輝、照れている」


綾花に指摘されて、大輝は振り返ると不満そうに眉をひそめる。


「麻白、俺は照れてないぞ。ただ、これからのことを考えていただけだ」


綾花の嬉しそうな表情を受けて、大輝は不服そうに目を細めてから両拳をぎゅっと握りしめた。


「大輝らしいな」


笑ったような、驚いたような。

あらゆる感情の混ざった声が、玄の口からこぼれ落ちる。


「麻白、そろそろ行くか」

「うん」


玄がそう告げた瞬間、綾花はぱあっと顔を輝かせて頷いた。 頬をふわりと上気させて嬉しそうに笑う。


「玄達は、綾花に――今の麻白に打ち解けてきたみたいだな」

「そうだな」


問いかけるような声でそう言った拓也に、元樹は軽く頷いてみせる。

その時、背後に人の気配を感じて、思わず振り返った拓也は苦り切った顔をして額に手を当てた。


「ふむふむ、黒峯蓮馬と黒峯陽向め。どこに隠れているのだ!」


そこには、黒コートに身を包んだ少年ーー昂が電柱の陰に隠れながら、拓也達のことをじっと見つめていたからだ。

綾花達の様子と玄の父親達の動向を探るため、昂はこそこそと聞き耳を立てている。


『今回の大会でも、率先して黒峯蓮馬さん達の妨害に徹してほしい』


元樹の懇願を受けて、昂は玄の父親達を不意討ちするために、少し離れた場所から綾花達の様子を見守っていた。

玄の父親達の思惑が分からない以上、この方法が何よりも有効かもしれないと、元樹は考えたのだ。

もっとも、実際のところは、昂が単独行動に走りやすい上に、情報を迂闊に漏らしやすいため、というのが最大の理由ではあったーー。


「麻白ちゃん。大会、頑張ってほしい。我はいつでも麻白ちゃんを応援するために守ってみせるのだ」


昂は今回も、頭にはちまきを巻き、『麻白ちゃん、ラブ』と書かれたタスキを掲げて、麻白の熱狂的なファンに扮していた。

しかも、何処から調達してきたのか、応援用のペンライトまで持っている。

あまりにも怪しすぎて、近くにいた他の大会参加者達や通行人達から思いっきり冷めた眼差しを向けられ、電柱自体が必然的に避けられていたのにも関わらず、昂は当然のようにふんぞり返っていた。


何故、こいつは、いつもこんな目立つ格好で、当たり前のように、俺達を尾行しているのだろうかーー。


しかし、大会受付にたどり着いた拓也は、その疑問を早々に封印した。

何故なら、それを考え始めても、この状況に対して似たような疑問が次々と沸いてくるだけなのは明らかだと気づいたからだ。


そんなことになれば、きりがない。

それに、そのことを舞波に問いただしたら、まず、話がややこしくなるのが目に見えているので、ここはあえて突っ込まない方がいいだろう。


しみじみと感慨深く拓也が物思いに耽っていると、不意に元樹が少し真剣な顔で声をかけた。


「拓也、どう思う?」

「な、何がだ?」

「ゲーム関係の取材についてのことだ」


一瞬、昂の謎の行動に対して、突っ込んでいたことが見抜かれたのかと思って驚いた拓也は、続けられた元樹の言葉に真顔に戻る。


「黒峯蓮馬さんの目的は、綾を麻白にすることだ。仮に、綾を手に入れたいだけなら、前回の大会と同様に立ち回ればいいだけの話だ。わざわざ、麻白達とともにゲーム関係の取材を受ける必要はないよな」

「元樹、どういうことだ?」

元樹の思いもよらない言葉に、拓也は不意をうたれように目を瞬く。

戸惑う拓也に、元樹は深々とため息をついて続ける。


「恐らく、黒峯蓮馬さんが綾とーー麻白達とゲーム関係の取材を受けることによって、有利な状況へと持っていけるのかもしれない」

「有利な状況?」


やや驚いたように首を傾げた拓也に、どうにも腑に落ちない元樹がさらに口を開こうとしたところで、拓也達のところにやって来た綾花がおずおずと声をかけてきた。


「ねえ、たっくん、友樹。ゲーム関係の取材は、大会受付が終わったら、すぐにあるみたいだよ」

「すぐにあるのか。一刻の猶予もないな」


そのとらえどころのない玄の父親の行動の不可解さに、元樹は思考を走らせる。

咄嗟に、拓也が思い出したように口を開いた。


「そういえば、今回のゲーム関係の取材には、陽向くんも関わってくるのか」

「ああ。もしかしたら、ゲーム関係の取材陣は全員、陽向くんによって洗脳されているかもしれない」

「ーーっ」

「……ううっ」


きっぱりと告げられた元樹の言葉に、拓也が眉をはねあげ、綾花は驚きの表情を浮かべた後、すぐにみるみる眉を下げて表情を曇らせた。


「今回の大会の裏側には、まだ何か思惑が隠されているのかもしれないな」

「……思惑」


顎に手を当てて断言してみせた元樹に、俯いていた綾花が微かに肩を震わせたのだった。

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