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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第四十七章 根本的に星と月①

綾花達が大会会場周辺の調査を行っていた頃、玄達もまた、玄の父親達の動向を探っていた。

玄の父親は、今日は午後から仕事に赴く為、今はマンションに居る。

玄の父親は朝食を終えると、すぐに書斎に入り、ドアの鍵をかけた。

あまりに自然かつ素早いその反応に、玄は不信感を強める。


『麻白達が大会会場を調査している間、俺達は前に陽向が使ってきた魔術書のことを調べよう』


大輝にメールを送り、玄は自分の部屋に戻ると、パソコンに表示された魔術書の詳細情報を油断なく見つめる。


『魔術書の情報を集めれば、何か分かるかもしれない』


元樹とメールのやり取りをした後、玄が大輝に提案したのはなりふり構わない直接的な手段だった。


『玄、見つかりそうか?』

『いや、魔術の情報はたくさんあるが、父さんが持っていた魔術書については何一つ分からない』


大輝からのメールに、玄はパソコンのモニター画面に映し出されている、魔術の情報を一つ一つ的確に確認しながら返信を送る。

その内容のほとんどは、一般的な魔術の定義によるものだった。

魔術は、魔法と同意義。

はたまた、魔法と魔術は根本的に異なる事柄だと記述されているものもある。


『それにしてもまさか、俺達がネットで魔術の事を調べる事になるなんてな。実際に魔術を使っている場面を見た今でも、魔術が存在しているなんて信じられないよな』

『ああ』


大輝の呆れたようなメールの内容に、玄は頷くとパソコンの画面を再び、真剣な眼差しで見つめた。


父さんが使える『魔術の知識』。

それは、陽向達が使っている魔術とは根本的に異なる。

陽向達が使っている魔術は、陽向達の魔力、または陽向達が産み出した魔術道具を使うことによって事象を変革するものだ。

だが、魔術の知識は、世界の記憶の概念の一部を書き換えて、事象そのものを上書きしたりすることができる。


『魔術が事象を変革する力なら、私が使う魔術の知識は事象そのものを上書きする力だ』


それはかって、父さんが麻白に語った魔術の知識に纏わるもの。

黒峯家には、魔術の伝承がある。

加えて、黒峯家の人間は、魔術に関して何かしらの知識を持っている。

それは何故かーー?


玄のその問いは論理を促進し、思考を加速させる。

そうして、導き出された結論は、玄が今の今まで考えもしない形をとった。


『大輝、陽向達の使う魔術は一線を画す強さを誇っている。もしかしたら、黒峯家の者達は、魔術を使う事が出来る素質を持っているのかもしれない』

『なっ!?』


絶句する大輝を尻目に、玄は最悪の予想を確信に変える。


『そう考えれば、黒峯家の者達が、魔術に関して何かしらの知識を持ち合わせているのも理解できる』

『魔術の素質か』


玄の指摘に、大輝は苦渋の表情を浮かべた。


『だけど、それが真実だとすると、玄達も魔術の素質を持っていることになるな』

『ああ』


核心を突く大輝の理念に、玄は幾分、真剣な表情でメッセージを返す。


『魔王も、魔術の素質を持っている。だから、魔術が使えているのだと思う』

『魔王だから、魔術が使えても不思議じゃないよな』


玄の説明に、大輝はそれだけで納得したように苦笑した。


『大輝。俺達は、何をすればいいと思う?』

『今までどおり、麻白を守ればいいだろう』


玄の問いに、大輝は間一髪入れずに即答する。


『俺達は、陽向達のように魔術を使うことはできない。だけど、友樹達と協力関係にある今なら、麻白を守ることが出来るからな』

『……そうだったな』


確信を込めて静かに告げられた大輝のメッセージは、この上なく玄の胸を打ったのだった。






それはまだ、玄達が中学に入学する前の幼い頃の想い出。

病室に訪れた玄達に、陽向は自身が願った想いを口にする。


「玄達と一緒に遊べたらいいな」

「陽向くん。だったら、約束しよう」


問いにもならないような陽向のつぶやきに、麻白は信じられないと言わんばかりに両手を広げた。


「約束?」

「うん、玄、大輝、これからもずっと一緒!そして、陽向くんもずっと一緒!」


目を丸くし、驚きの表情を浮かべた陽向を見て、麻白は意味ありげに玄達に視線を向ける。


「そうだな」

「ずっと一緒か。悪くないよな」

「えっ?」


玄と大輝の言葉に、陽向は驚いたように目を見開いた。

玄はため息を吐きながらも、いつものように麻白の頭を優しく撫でる。


「麻白、俺達はこれからもずっと一緒だ」

「うん」


麻白がぱあっと顔を輝かせるのを見て、玄は思わず苦笑してしまう。

やがて視界は移り変わり、頭を押さえた麻白の姿をした綾花がゆっくりと陽向に歩み寄ってきた。


「綾花のーー進のままでも、私はこれからも陽向くんと一緒だよ」

「……麻白はもう、麻白としての自覚を持っているはずなのに……」


陽向が怪訝そうに見つめている先で、綾花は必死としか言えない眼差しを陽向に向けてくる。

まるで明るい未来を信じているような言葉に、陽向は懐かしい記憶を刺激され、微かな痛みを覚えた。

そこで、陽向は眩しい光に包まれたと同時に目を覚ます。


「ここは……病室だよね」


点滴を施されていた陽向は、ベッドから起き上がった。

真っ白で、でも無機質ではない、残酷なほどに穏やかな空気が流れる病室には陽向しかいない。

陽向は両手を伸ばすと、眠たげに瞼を動かした。


「麻白……」


麻白のーー綾花達の決意の眼差しが、陽向を掴んで離さない。

あの日から、陽向は思い悩んでいた。

麻白達が、自分から離れていく。

玄達と決別する事への恐怖に怯えていた。

陽向が視線を向けた先には窓があり、空が何処までも遠く青褪めている。


「僕はそれでも、麻白に戻ってきてほしいよ。戻ってきてほしいんだ」


陽向は苦渋の表情を浮かべたまま、何度も同じ言葉を繰り返す。

生前のーーそして、今の麻白の笑った顔も、泣いた顔も、恥ずかしがる顔も、ふて腐れた顔も、全てが愛おしいと感じる。

それは、陽向にとっても、今も昔も変わることのない不変の事実だった。


だけど、陽向はどうしても、麻白に戻ってきてほしかったーー。


ただそれだけの想いが激しく陽向の心臓を打ち鳴らし、ひとかけらの冷静さをも奪い去ってしまっていた。

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