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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第三十五章 根本的にフードコート内で巻き起こる騒動

「我は納得いかぬ!」


暴走気味だった昂が、ようやく魔術書を小さくした後ーー。

綾花達は、玄達に協力を求めるために進の家を後にした。

しかし、特急列車を乗り継ぎ、昂の母親が借りたワゴン車に乗って、玄達との待ち合わせの場所へと向かっている途中、昂は後ろの席で地団駄を踏んでわめき散らしていた。


「井上拓也!何故、貴様が今回も綾花ちゃんの隣の席なのだ?貴様、今すぐ、その席を替わるべきだ!そうすれば、もれなく我は綾花ちゃんの隣で、綾花ちゃんという小さき天使を存分に見ることができるではないか! 」

「勝手なこと言うな!」


昂が罵るように声を張り上げると、拓也は不愉快そうにそう告げる。


「我は、黒峯蓮馬と黒峯陽向から綾花ちゃんを護らねばならぬ、ーー護らねばならぬのだ!つまり、もう綾花ちゃんの隣の席は、我のものだということだ!」

「なっーー」


あまりにも勝手極まる昂の言い草に、拓也は思わずキレそうになったがかろうじて思い止まった。

ワゴン車を運転していた昂の母親の静かな声が、車内に響き渡ったからだ。


「…‥…‥ほう、それで」


全身から怒気を放ちながら、昂の母親は昂を睨みすえる。その声はいっそ優しく響いた。


「ひいっ!は、母上、話を聞いてほしいのだ!我は、その、綾花ちゃんの隣の席に座りたくて仕方なくーー 」


昂は恐怖のあまり、総毛立った。ふるふると恐ろしげに首を振る。


こんな調子じゃ、先が思いやられるなーー。


拓也は気持ちを切り替えるように、玄のマンションがある方向に視線を向けると、顔を曇らせて言った。


「元樹、玄達の協力を得ることはできそうなのか?」

「メールでは承諾してくれたんだが、こればかりは実際に玄達に会ってみないと分からないな」


拓也の疑問に、元樹は麻白の携帯に表示されているメールの内容を確認すると記憶の糸を辿るように目を閉じる。


「恐らく、俺達が訴えても、陽向くんは綾にかけた魔術を解いてはくれないだろう。陽向くんのことは、玄と大輝に任せるしかないな」

「……そうか」


真剣な眼差しでそう告げた元樹を見据えて、複雑な表情を浮かべた拓也が戸惑うように言う。


「心配するなよ、拓也。舞波の件で、待ち合わせの時間は大幅に変更してしまったけどさ。俺達は今、こうして、綾にかけられた魔術を解くために、玄と大輝のもとに向かっているんだからな」

「そうだな」


元樹の言葉に、拓也は真剣な眼差しで玄のマンションがある方向を見遣ると、どこか照れくさそうな笑みを浮かべる。

綾花がまた、綾花としていつでも笑えるように、と拓也達は心から願った。

そして、それは玄と大輝によって、叶えられると信じている。

拓也達が物思いに耽っていると、不意に綾花が少し真剣な顔で声をかけてきた。


「なあ、井上、布施。玄と大輝に会った時、俺のままでいいのか?それとも、麻白として振る舞った方がいいのか?」

「待ち合わせ場所には、黒峯蓮馬さん達もいるはずだ。麻白として振る舞った方がいいだろうな」

「そうなんだな」


屈託のない笑顔でやる気を全身にみなぎらせた綾花を見て、拓也は胸に滲みるように安堵の表情を浮かべる。

車内の窓に映る景色は、活気あふれる商店街から閑静な住宅街へと姿を変えていく。

やがて、ワゴン車は大橋を渡り、玄のマンションの近くにある自然公園の横を過ぎ去った。


「すごいな!」


綾花は窓の外を通り過ぎる住宅街や自然公園などの景色を楽しげに眺めていたのだが、次第に姿を現した陽向が入院している病院を前にして圧倒されてしまう。


「綾花。ここに、陽向くんが入院しているのか?」

「ああ」

「黒峯家は住んでいる場所も、使える施設も想定外だよな」


冗談のような広さの総合病院を前にして、拓也と綾花だけではなく、元樹も目を大きく見開き、驚きをあらわにする。


「もしかしたら、今回もスタジアムの時のように、黒峯蓮馬さんは病院内にいるのかもな」

「そんなことはどうでもよい。我のテリトリーの中で、何度も綾花ちゃんを狙い、なおかつ、我の魔術書を奪ったというだけでも万死に値する」


元樹があっけらかんとした口調で言ってのけると、憤懣やる方ないといった様子で昂がそう吐き捨てた。


「元樹、玄達とはどこで待ち合わせしているんだ?」

「そのことなんだが」


拓也の疑問を受けて、感情を抑えた声で、元樹は淡々と続ける。


「この近くに、ショッピングモールがある。玄達とは、映画館の隣にあるフードコートで待ち合わせしているんだ」

「ショッピングモールか。あかりとして、何度も訪れたな」


元樹の言葉に、綾花は昔を懐かしむように明るい笑顔で語る。


「ふむ、フードコートというもの、懐かしいのだ。我が、何度も無銭飲食をした場所だ」

「……おい」

「あのな」


疑惑と抗議の視線を送る拓也と元樹に、昂は腰に手を当てると得意げに言う。


「もちろん、魔術を使って、映画鑑賞もしている」

「…‥…‥ほう、それで」


これ見よがしに昂が憮然とした態度で言うのを聞いて、昂の母親は苦言を呈する。


「ひいっ!は、母上、話を聞いてほしいのだ!我は、その、ポップコーンセットを食べるなら、映画を見ながら食べるのが一番だと考えたまでだ! 」


昂は恐怖のあまり、総毛立った。ふるふると恐ろしげに首を振る。

承服できない昂の母親を見据えて、昂は焦ったように言う。


「すまぬ、綾花ちゃん。我は逃げる。黒峯蓮馬の妨害作戦、期待していてほしい」

「舞波、まだ、話は終わっていないだろう!」

「おい、待てよ!」


拓也と元樹の抗議を黙殺して、昂はそれだけを告げると、『姿を消す魔術』を使って、その場から姿を消したのだった。






魔術で消えてしまった舞波は今、何処にいるのか。

そして、舞波が考え出した作戦とは、どんなものなのか。

玄達との待ち合わせの場所であるフードコートに向かえば、舞波の居場所も分かるかもしれない。


ワゴン車から降りた元樹が、拓也達に提案したのは、あくまでもなりふり構わない直接的な手段だった。

しかし、それは想像していた以上に難解で厄介極まりない状況に追い込まれただけだということを、拓也は痛感させられていた。

綾花達とともにフードコートを訪れた拓也は、それを嫌というほど実感することになった。


「「「我らは、ただのペンギンさんなのだ!決して怪しい者ではない!」」」

「お客様、着ぐるみ姿で店内を歩かないで下さい!」


店員の注意を受けている複数の昂達は、何故かペンギンの着ぐるみを被っていた。


「別に問題あるまい。我らは、ただの映画館のマスコットキャラなのだからな!」


その中の昂の一人が代表して、映画館がある方向に向かって、無造作に片手を伸ばすとそう叫んだ。

しかし、その光景はまるで歪で、映画館の番宣に来たマスコットキャラとは明らかにかけ離れている。


「元樹、これって……」

「ああ。恐らく、綾がいつも使っている『対象の相手の姿を変えられる』魔術のパワーアップバージョンを元にした魔術だろうな」


拓也と元樹が困り果てたようにため息をつこうとしたところで、フードコートの入口から誰かの声がした。


「いたぞ、あの少年だ!」


警備員のかけ声に合わせて、数名の警備員達がフードコート内に駆け込んでくる。


「「「ひいっ、黒峯蓮馬の刺客が来たのだ!!我らは逃げる!!」」」


警備員達の追っ手に対して、ペンギンの着ぐるみを被った複数の昂達は一斉に悲鳴を上げる。


「た、たっくん、友樹、どうしよう?」


麻白の姿をした綾花は躊躇うようにつぶやいた。

だが、進としては『たっくん』と告げるのが恥ずかしいのか、若干、顔を赤らめる。

あまりにも想定外なことが起こると人は唖然としてしまうものだが、綾花達はまさに自分の目を疑った。

店員に注意されている昂達。

そして、玄の父親の警備員達によって追いかけられている、多くの昂達。

そこには、綾花達にとって、あまりにも想定を超えた現象が広がっていた。


「目立ちすぎだ」

「……ああ」


予想の斜め上を行く昂の作戦戦略を前にして、拓也と元樹が呆れたように眉根を寄せる。


「……麻白」

「……なんだよ、あいつら」


その一連の行動をフードコートの店内に入るなり、思わぬかたちで目の当たりにしてしまった玄と大輝は、呆気に取られたようにぽつりとつぶやく。


「……なあ、玄、ここで麻白に関する話をするのは厳しくないか。そもそも、『魔王』が多すぎだろう」

「……確かにそうだな」


大輝が不服そうに投げやりな言葉を返すと、玄は戸惑っているいつもどおりの妹の姿を見て、ほっとしたように微かに笑ってみせたのだった。



こうして、複数の昂達を気にしながら、綾花にかけられた魔術を解くための相談をすることになったのだった。

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