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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第ニ十八章 根本的に群青色の宇宙

「あたしはーーううん、あたしの心を宿している綾花は四人分生きているの。そして、あたしはーー麻白はその中の一人に過ぎない」


それは玄達にとって、全く予想だにしない言葉だった。


不可解な現象が起きていた湖潤高校から立ち去った後ーー。


玄達は玄の父親によって手配されていた車に乗ると、綾花が告げた言葉の意味を考えていた。

車内の窓から見える夕焼けに染まる空をぼんやりと眺めながら、玄と大輝の瞳には今もまだ、複雑な感情が渦巻き続けている。


「あの時、麻白が言っていた言葉の意味ってこういうことだったんだな」

「…………ああ」


大輝の言葉に、玄は少し躊躇うようにため息を吐くと複雑な想いを滲ませた。


「はあ…………。あかりも含めて四人分、生きているのか。今度の大会で、麻白達と一緒にあかりに会ったら、俺、いつもどおりに話せるか分からないな」

「…………そうだな」


大輝の不服そうな言葉に同意するように、玄は苦悶の表情を浮かべた。


「まあ、それでも、麻白のために俺達が出来ることをしていくしかないよな」


大輝が玄と大輝ーーそして、麻白の三人で一緒に写っている携帯の待ち受け画面を真剣な眼差しで見つめていると、玄は苦々しい表情を浮かべて言った。


「大輝、巻き込んでしまってすまない」

「だから、言うなって言っているだろう!」


巻き込むという単語を聞いた瞬間、大輝の瞳に複雑な感情が入り乱れる。

そうして消化しきれない感情を抱えたまま、大輝は続けた。


「麻白をどんな手段を用いても生き返させたい。そう願ったのは、別におまえ達だけじゃない。俺もだ」

「……そうだったな」


大輝が不服そうに投げやりな言葉を返すと、ようやく玄はほっとしたように微かに笑ってみせたのだった。






玄の父親達が立ち去った後、綾花達は先生達が戻ってくる前に学校の更衣室に立ち寄っていた。


「たっくん、元樹くん、舞波くん、遅くなってごめんね」


ドアを開けて拓也達のいる廊下へとひょっこりと顔を覗かせた綾花は、目を輝かせて拓也達に言った。

更衣室から出てきた綾花は、麻白の姿からいつもの綾花の姿に戻っている。

そわそわと嬉しそうにサイドテールを揺らす綾花を見た拓也は一呼吸置いて言った。


「綾花、その様子だと玄達に受け入れてもらえたみたいだな」

「うん、最初はなかなか信じてもらえなかったけれど、進として振る舞ってみたり、黒峯くんのお父さんの魔術の知識と舞波くんと陽向くんの魔術のことを話したりしたら、少しずつ信じてもらえたの。たっくんと布施くんと舞波くん、そして、お父さん達のおかげだよ」


穏やかな表情で胸を撫で下ろす綾花を見て、拓也も胸に滲みるように安堵の表情を浮かべる。

すると両手を広げ、生き生きとした表情で綾花はさらにこう言う。


「たっくん、元樹くん、舞波くん、ありがとう!」

「ああ」

「うむ、全て我の功績というものだ」


拓也と昂が頷くと、綾花は嬉しそうに顔を輝かせた。

その不意打ちのような日だまりの笑顔に、元樹は思わず見入ってしまい、慌てて目をそらす。


「あ、ああ」

「元樹、いい方法を考えてくれてありがとうな」


ごまかすように人差し指で頬を撫でる元樹に、拓也も続けてそう言った。

少し間を置いた後、綾花は人差し指を立てるときょとんとした表情で首を傾げてみせる。


「ねえ、たっくん、元樹くん、舞波くん。茉莉と亜夢、それに学校のみんなはもう大丈夫なのかな?」

「ああ、恐らくな。ただ、陽向くんは、これからも綾が麻白として生きたいと思うように働きかけの協力をしてもらうって言っていたから、用心はしておいた方がいいかもしれないな」


探りを入れるような元樹の言葉に、拓也の顔が強張った。


「みんなはまだ、操られている可能性があるのか?」

「もしくは、記憶を書き換えられている可能性がある。陽向くんの魔術と黒峯蓮馬さんの魔術の知識によってな」


そのとらえどころのない玄の父親と陽向の行動の不可解さに、元樹は思考を走らせる。


「まあ、俺は、みんなが何か言ってきても、麻白との交際をやめるつもりなんてないけどな」

「ううっ……」


元樹の意味深な言葉に、綾花は照れくさそうに視線をうつむかせると指先をごにょごにょと重ね合わせてほのかに頬を赤らめてみせる。

拓也は不服そうに顔をしかめてみせると、陸上部の合宿で告げた言葉を再度、口にした。


「元樹、あくまでも交際を認めたのは、『麻白の姿をした綾花の分身体』であって、『綾花自身』は俺の彼女だからな」

「ああ。ありがとうな、拓也」


苦虫を噛み潰したような顔でしぶしぶ応じる拓也に、元樹は屈託なく笑った。


「我は納得いかぬ!!」


だが、拓也の不満を上回る勢いで、元樹のその言葉を聞いていた昂は大言壮語に不服そうに声を荒らげた。


「貴様。我は何度も、綾花ちゃんとあかりちゃん、そして、麻白ちゃんは我の婚約者だと言っているではないか!」

「…………おまえが勝手に決めた婚約者だろう」


昂が低くうめくように言うと、元樹は緊張感に欠けた声で告げる。


「勝手ではない。すでにこれは、我によって定められた確定事項だ」

「…………あのな。綾花は、俺の彼女だ。勝手に決めるな」


露骨な昂の挑発に、拓也は険しい表情で腕を組むと、むしろ静かな口調でそう言った。


「むっ、綾花ちゃんとあかりちゃん、そして、麻白ちゃんは我の婚約者だと言って何が悪いのだ」


昂は面白くなさそうに顔をしかめると、つまらなそうに言ってのける。

拓也と元樹は申し合わせたようにきっと厳しい表情で昂を見遣ると、きっぱりと告げた。


「綾花は俺の彼女だと言っているだろう!」

「おまえ、勝手なことばかり言うなよ!」

「否、我の婚約者だ!」


慣れた小言を聞き流す体で、昂は拓也と元樹に人差し指を突きつけると勝ち誇ったように言い切る。


「ううっ……」

「とにかく、我は断じて、そのようなことは認めないのだーー!!」


恥ずかしそうに赤らんだ頬にそっと指先を寄せる綾花を尻目に、昂は両拳を突き上げて虚を突かれたように絶叫したのだった。






「綾花ちゃん、その、助けてほしい」

「舞波くん、どうしたの?」


体育館に戻る途中、何とかしてくれと言いたげに、昂は救いを求めるように綾花を見た。


「我はこの後、先生からの呼び出しを受けねばならぬ。だが、退学の手続きなどをしてしまえば、綾花ちゃんになかなか会えなくなるではないか!我は、綾花ちゃんにずっと会いたいのだ!」

「ふわわっ、舞波くん、落ち着いて!」


綾花が暴走気味の昂を落ち着かせているところで、元樹は腕を組んで先程の綾花の話を思い返す。


「綾が四人分生きているーー。突拍子もない綾の話を信じてくれたということは、玄も大輝も、黒峯蓮馬さん達から魔術について、ある程度、教えてもらっているんだろうな」

「そうだな」


改めて、玄達のことを確認する元樹の言葉に、拓也ははっきりと頷いてみせた。


「綾、玄達は真相を聞いた後、何か言っていなかったか?」

「黒峯くんが『だから、父さんは春斗達に会うことで、麻白達のことが分かると告げたんだな』って言っていたの」


元樹が核心に迫る疑問を口にすると、綾花は物憂げな表情で天井を見上げる。

綾花が告げた言葉の意味は、続く元樹の説明で徐々に具体性を帯びてきた。


「春斗ーー雅山の兄か。雅山には上岡が度々、憑依している。上岡が憑依した状態の雅山と会話をするということは、麻白自身と話していることにも繋がるからな」


拓也は昇降口がある方向に一旦、視線を向けると、顔を曇らせて言った。


「ついに雅山達にも、俺達のことを話す時が来たのかもしれないな」

「たっくん。あかり達には、黒峯くん達が折を見て真相を話すみたい」

「そ、そうなのか?」


意外な事実に意表を突かれて、拓也は思わず言葉を詰まらせる。


「…………うん」


綾花は、玄の父親達が出て行ったと思われる昇降口をじっと不安げな表情で見つめていた。緊張しているのか、かすかに肩を震わせている。

拓也は綾花に視線を向けると、はっきりと言った。


「綾花、大丈夫だ。きっと、雅山達も、玄達のように綾花達を受け入れてくれる」

「……でも、あかりはびっくりするよね」


綾花は顔を曇らせて俯くと、ぽつりとそうつぶやいた。決して泣いてはいなかったが、代わりにその表情は乾いていた。

乾ききった微笑を浮かべ、綾花は続けた。


「あかりは、私がーー進が今まで自分に憑依していたということを知ったら混乱するかもしれない」


元樹は軽く息を吐くと、沈痛な表情を浮かべて何かを我慢するように俯いている綾花の前に立った。


「……綾、俺は雅山も、玄達と同じように今回の件を受け入れてくれると思う」


元樹の言葉に、綾花は俯いたまま、何の反応も示さなかった。

そんな綾花に、意を決したように元樹が綾花の手をつかんで続ける。


「例え、否定されても、綾の気持ちを伝える方法はいくらでもあるだろう。 綾にはもう、上岡の勇気があるんだからな」

「ーーううっ、ご、ごめんね、ごめんね。元樹くん、ありがとう」


そう言葉をこぼすと、綾花は滲んだ涙を必死に堪える。

そんな綾花に、元樹は屈託なく笑うと意味ありげに続けた。


「まあ、そもそも、舞波が綾に上岡を憑依させたり、雅山に上岡の心の一部を憑依させたりと変なことを企まなければ、ここまでとんでもない騒動にはなっていなかったんだけどな」

「むっ?貴様、我を誉めても何も出ぬぞ」

「「誉めてないだろう!」」


そう言い放ってにんまりと笑みを浮かべる昂に、拓也と元樹は苛立ちを隠さず、声をそろえてそう言い放ったのだった。

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