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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
157/446

第ニ十四章 根本的に朱色の羽は空へと舞う

「綾花ちゃんも、我の魔術書も渡さないのだーー!!」

「始めようか、昂くん。麻白をーーそして、残りの魔術書を賭けた勝負を!!」

体育館の中央で、昂と陽向は互いの信念を賭けて向かい合った。

昂の魔術と陽向の魔術。

スタジアムの時のように、それらはそのまま放たれていれば、学校自体が崩壊するほどの威力だっただろう。

学校全体にまで巻き込む容赦ない魔術の嵐の前では、魔術で眠った状態の全校生徒達には為す術もない。

だからこそ、昂の父親から告げられたとおり、昂は敢えて体育館に被害が及ばない魔術を放った。

「黒峯陽向、小さくなるべきだ!」

「昂くんが小さくなってほしいな」

『対象の相手を小さくする』魔術を使った昂に対して、陽向は対抗するだけではなく、圧倒するための力を解き放った。

「むっ!?」

「おい、昂!」

「舞波が、逆に小さくなっているのか……?」

綾花と拓也が驚愕する中、昂の姿がみるみるうちに小さくなっていく。

「おのれ、黒峯陽向。我の魔術を跳ね返すとは……!」

すぐに同じ魔術を使って、元の大きさに戻った昂は不愉快そうに顔を歪めた。

「ならば、黒峯陽向。今すぐに、綾花ちゃんから手を引くべきだ!」

「昂くんが手を引いてほしいな」

「うむ。分かったのだ……」

先程と同じように魔術を跳ね返されて、昂はあっさりと陽向の要求を呑んでしまう。

「……おい」

「はあ……。舞波の魔術の効果を解かないといけないな」

先程と同じ失敗を繰り返す昂に、拓也と元樹はうんざりとした顔で冷めた視線を向ける。

「舞波を元に戻してくれないか!」

「うわー、すごいね。元樹くんが持っている魔術道具って、いろいろなことができるんだね」

決意するように魔術道具をかざした元樹を見て、陽向は意外そうにつぶやいた。

「我は納得いかぬ!」

元樹が使った魔術道具によって、元に戻った昂は地団駄を踏んでわめき散らした。

「何故、我の魔術がこうもあっさりと跳ね返されるのだ!おのれ~。ならば、これならーー」

「おい!」

「あのな……。同じことを繰り返しても仕方ないだろう!」

居丈高な態度で再び、同じ過ちを繰り返そうとしていた昂を引き留めると、拓也と元樹は呆れたように眉根を寄せる。

「我の魔術に対抗できる者などおらぬ。おらぬのだ。その我が何故、こうもあっさり、黒峯陽向に出し抜かれるというのだ!」

「おい、昂!体育館で暴れるなよ!」

ところ構わず当たり散らす昂に、綾花が困り顔でたしなめた。

元樹は腕を組んで考え込む仕草をすると、余裕の表情で事の成り行きを見守っている陽向の様子を物言いたげな瞳で見つめる。

「舞波は意外と焦っているのかもな」

「まあ、確かに、いつもより変な行動が多いな」

困惑したように驚きの表情を浮かべる拓也に、元樹は軽く肩をすくめると手のひらを返したようにこう言った。

「だけど、やっぱり、陽向くんの魔術は、舞波の魔術と同じように万能ではない。これなら、対抗することができるな」

「なっ?」

元樹の確信に満ちた言葉に、拓也は不意をうたれように目を瞬く。

戸惑う拓也をよそに、元樹は深々とため息をついて続ける。

「なあ、舞波。魔術書を取り戻すためにーーそして、綾を護るために力を貸してくれないか?」

「ーーっ」

「布施?」

「むっ?」

それは拓也と綾花、そして昂にとって、全く予想だにしていなかった言葉だった。

元樹は先程、届いたメールを見ながら、鋭く目を細める。

「今、先生と先生の奥さんが、黒峯蓮馬さん達から綾と上岡の両親を護るための行動を移そうとしている。拓也は、俺と舞波が陽向くんと黒峯蓮馬さんに対抗している間、警備員の人達から綾を護ってくれないか?」

「わ、分かった」

断固とした意思を強い眼差しにこめて、はっきりと言い切った元樹に、拓也は綾花の手を握りしめると戸惑いながらも頷いてみせた。

しかし、元樹の提案を聞いた昂が、なおも不服そうに機嫌を損ねる。

「布施元樹。我の魔術の前では、貴様の協力など必要ないのだ!」

「ああ、分かっている」

昂の言葉に、元樹が納得したように頷いた。

だが、すぐに、元樹は意味ありげに綾花に視線を向ける。

「だけど頼む、舞波。俺に魔術の使い方の見本を見せてほしい。綾を護るためには、おまえの魔術が必要不可欠になる。恐らく、おまえの魔術がさらなる真価を発揮しないと、綾を護れそうもないからな」

「なるほどな。ついに貴様にも、我の魔術の本格的な凄さが分かったというわけだな」

真剣な眼差しで視線を床に降ろしながら懇願してきた元樹に、昂は腕を組むとこの上なく不敵な笑みを浮かべながら答えた。

「よかろう!我が必ず、綾花ちゃんをーー麻白ちゃんを、黒峯蓮馬と黒峯陽向の魔の手から護ってみせるのだ!」

「ありがとうな、舞波。俺も、できる限りのフォローをするな」

昂の自信に満ちた言葉に対して屈託なく笑う元樹に、拓也は訝しげに眉をひそめる。

「おい、元樹。どうする気だ?」

「これから、俺達は陽向くんと黒峯蓮馬さん達から、綾を護っていかないといけない。だが、陽向くんと黒峯蓮馬さん、どちらも厄介な相手だ」

「ああ」

拓也があくまでも真剣な表情で頷くと、元樹は意図的に笑顔を浮かべて言う。

「黒峯蓮馬さん達だけでも苦戦を強いられているのに、これから先は、陽向くんにも対抗していかないといけない。なら、今までのやり方ではなく、別の方法を模索する必要があるよな」

「確かにな」

苦々しい表情で、拓也は陽向の方を見遣る。

これから、陽向くんと黒峯蓮馬さん達から、綾花を何としても護らないといけない。

舞波と同じように魔術が使える陽向くん。

そして、舞波さえも知らない魔術の知識を用いる黒峯蓮馬さん。

どちらも、魔術を使える舞波を翻弄するほどの使い手だ。

確かに、あの魔術道具を持っている元樹の協力は必要不可欠かもしれない。

拓也の思考を読み取ったように、元樹は静かに続けた。

「まあ、一人一人で対抗しても埒が明かないしな。まとめて、立ち向かおうと思う」

「布施元樹くん。君はやはり、侮れないな」

元樹の提案に、綾花達のもとを訪れた玄の父親は目を伏せると静かにこう告げる。

「だが、まとめて立ち向かえば、私と陽向くんに対抗できるというのは間違いだ」

「だろうな」

嘲笑うような玄の父親の言葉に、元樹はまっすぐに陽向を見据えた。

「だけど、陽向くんが魔術を使っている時は、黒峯蓮馬さんは身を守る程度の魔術の知識しか使うことができないはずだからな」

確信を持った笑顔。

その表情を見た瞬間、玄の父親は元樹の思惑を理解した。

「なるほど。それが狙いか」

「たとえ、二人がかりでも、僕達には勝てないよ」

ふっと悟ったような表情を浮かべる玄の父親をよそに、両手を広げた陽向が滔々と言う。

「やってみないと分からないだろう!」

「黒峯陽向、そして黒峯蓮馬。今度こそ、我の魔術の凄さを知らしめてみせるのだ!」

元樹が態度で陽向の言葉を否定すると、昂は当然というばかりにきっぱりと告げた。

敢然、やる気に満ち溢れた彼らしい反応に、魔術道具を構えた元樹はふっと息を抜くような笑みを浮かべる。

元樹と昂、そして陽向と玄の父親は互いに向かい合うと、不敵な表情を浮かべながら、しばし睨み合った。

先に動いたのは元樹だった。

元樹が地面を蹴って、陽向達との距離を詰める。

「元樹くん、止まーー」

迷いなく突っ込んできた元樹に合わせ、前に出た陽向が早速、魔術を使おうとする。

陽向の行動を確認すると同時に、元樹は陸上部で培った運動神経を用いて急制動をかけた。

「えっ?」

「舞波!」

「むっ、分かっているのだ!」

魔術をかけられる前に、敢えて止まってみせる。

予想外の行動を前にして戸惑う陽向とは裏腹に、元樹は冷静に昂へと視線を向ける。

「黒峯陽向、今こそ、我の魔術を食らうべきだ!」

元樹の言葉に応えるように、昂は裂帛の気合いを込めて魔術を放った。

意表をついた昂の魔術。

だが、それは口にした陽向ではなく、玄の父親へと向かっていく。

「ーーっ」

玄の父親は魔術の知識を用いて、昂の魔術から身を護る。

「叔父さんーーっ!?」

「陽向くん」

「ま、麻白?」

咄嗟に陽向は、玄の父親のもとに駆け寄ろうとして予期しない人物達に行く手を阻まれた。

それは、麻白の姿をした綾花の分身体。

彼女達は、ゆっくりと陽向のもとへと歩み寄ってくる。

進として振る舞っている綾花も、麻白に姿を変えているためか、警備員達は誰が本物の綾花なのか分からず、混乱していた。

陽向は人差し指を唇に当てると、人懐っこそうな笑みを浮かべてこう言った。

「ねえ、麻白。麻白の分身体は操りやすいと思うよ」

「かもな」

麻白の姿をした綾花の分身体達の行動が合図だったように、元樹は魔術道具を使って、一瞬で陽向のもとまで移動する。

そして、陽向の体勢を崩すために足払いをした。

「うわっ……!」

静と動。

本命とフェイント。

元樹は移動に魔術道具を用いて、陽向の意表を突くと、緩急をつけながら時間差攻撃に徹する。

攻撃手段が魔術でないため、跳ね返すことが出来ない陽向は次第に翻弄されてしまう。

「元樹くんはすごいね」

間一髪で難を逃れた陽向は、巧妙な元樹の攻撃方法に感嘆の吐息を漏らしたのだった。

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