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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
155/446

第ニ十ニ章 根本的に明日への光路

「おのれ~」

先を進んでいくごとに現れる、体育館の壇上に行くことへの警備員達の妨害から逃れるため、昂が逃げ込んだ先は体育館の二階のギャラリーだった。

1年C組の生徒達とともに体育館に入った瞬間から、玄の父親の警備員達に捕らえられそうになってしまい、ことあるごとに昂は魔術を使って難を逃れてきたのだ。

昂はそれでも人影がないか確認してから、そのまま、下の綾花達がいる方向へと視線を動かす。

「奴らは不死身のゾンビか?我を目の敵にしおって!我は黒峯蓮馬がいる場所に行かねばならぬと何度告げても追ってくる!」

忌々しそうにつぶやいた昂は一人、淡々と言葉を連ね続ける。

「このままでは、綾花ちゃんを護れないではないか」

胸に手を当てて深呼吸をすると、昂はどうすれば追っ手を振り払って玄の父親達がいる壇上に行くことができるのかを考え始めた。

だがすぐに考えるのを止め、昂は魔術を使おうと片手を掲げる。

「うむ、とりあえず、ここはーー」

『対象の相手の元に移動できる』魔術を使うべきだな。

昂がそう続けようとしたところで、ギャラリーの奥から誰かの声がした。

「いたぞ、あの少年だ!」

警備員のかけ声に合わせて、さらに数名の警備員達が昇ってきてギャラリーに駆け込んでくる。

あっという間に追い込まれた昂は、彼らによってあっさりと捕らえられてしまう。

「な、なんなのだ! これは!」

拘束されながらも、昂は両拳を振り上げて不服そうに声を荒らげる。

「よし、ようやく、少年を確保したな!」

「後は、麻白お嬢様を取り戻さないといけない」

「そうだな」

警備員数人に連行されながらも、昂はうめくように叫んだ。

「こ、これでは黒峯蓮馬のもとに行くことも、魔術を使うこともままならないではないかーー!!」

なおも逃走を図ろうとするが、完全に囲まれていてとても逃げられないことを悟り、昂はがっくりとうなだれる。

その時、昂を連行していた人物の一人が、昂にだけ聞こえる声で静かに告げた。

「先程、先生の手引きにより、瀬生さん達が社長のいる壇上へと入った」

「おおっ…‥…‥」

その声を聞いた瞬間、昂が溢れそうな涙を必死に堪え、その人物の顔を見上げる。

「昂、今すぐ、私を連れて、ここから逃げられるか?」

「もちろんだ、父上」

きっぱりと告げられた言葉に、昂は嬉しくなってぱあっと顔を輝かせた。

昂を連行していた人物の一人ーーそれは、警備員に扮して先に校内へと入っていた昂の父親だった。






拓也は綾花とともに先程、届いたメールの内容を見つめていた元樹のもとへ駆け寄ると、顔を曇らせて言った。

「元樹、どうする?」

「先生の手引きで、おじさん達が上手く壇上に入り込めたみたいだ。とりあえず、俺達は陽向くんの居場所を探そうと思う」

「なっ!陽向くんも来ているのか?」

予想外の元樹の言葉に、拓也は意表を突かれる。

元樹はつかつかと近寄ってきて、拓也の隣に立つと、ぎりぎり聞こえるくらいの小さな声で言った

「恐らくな。全校生徒の認識を変えるほどの力。魔術の知識を使える黒峯蓮馬さんが、今まで行わなかったことを今回、実行に移してきているからな」

「確かにな」

拓也が戸惑ったように言うと、元樹は顎に手を当てて真剣な表情で思案し始める。

「陽向くんが何処かにいるのなら、その盲点を突こうと思う」

「盲点?」

「ああ」

訝しげな拓也の問いかけに、元樹は携帯をしまうと、迷いなく断言する。

「…‥…‥黒峯蓮馬さん達は、綾の両親、そして上岡の両親と会うべきだと思う。たとえ、すれ違っても、お互いの本音を聞けるチャンスだと俺は思うからな」

「そうだな」

どこまでもきっぱりと話す元樹を見て、拓也もまた、真剣な表情で頷いた。

「おじさん達が黒峯蓮馬さん達と話し合っているその間に、陽向くんを見つけようと思う。そうすれば、みんなの記憶操作も解除することができるしな」

「なるほどな」

苦々しい表情で、拓也は隣に立っている綾花の方を見遣る。

だが、すぐに思い出したように、拓也は元樹の方に向き直ると、ため息をついて付け加えた。

「だけど、元樹、どうやって、陽向くんを探すつもりだ?」

「まあ、少し強引な手段かもしれないけどな」

そこまで告げると、元樹はざわつく生徒達に対して、何気ない口調で問いかけた。


「なあ、みんな。麻白の従兄弟の陽向くんの居場所を知らないか?」


「なっ!」

「ええっ!」

それは拓也と綾花にとって、全く予想だにしていなかった言葉だった。

「陽向って誰?」

「黒峯麻白さんの従兄弟だって」

あまりにも単刀直入な疑問に、生徒達はみな、不思議そうに首を傾げる。

全く理解できなかった拓也は、率直に元樹に聞いた。

「おい、元樹。どうするつもりだ?」

「もしかして陽向くん、この中にいるの?」

拓也と綾花が驚愕の表情を浮かべているのを目にして、元樹は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いをにじませる。

「ああ、恐らくな。生徒の一人に混じっていれば、全校生徒への洗脳もやり易いからな。それに、もし魔術で姿を変えていたら、綾の近くにいるかもしれない」

「なるほどな」

元樹の提案に、拓也は納得したように頷いてみせた。

「だったらーー」


「あっ!亜夢もそう思ったー!」


突如、元樹の言葉を遮ったのは、綾花でもなく、拓也でもなく、全くの第三者だった。

驚きとともに振り返った綾花達が目にしたのは、日だまりのような笑みを浮かべている亜夢だった。

「亜夢、突然、どうしたの?」

綾花が戸惑ったように訊くと、茉莉はにっこりと笑って言った。

「そうね。確かに、私達の中にいると思うのが自然よね。でも、魔術で姿を変えているというのは的外れかな」

噛みしめるようにくすくすと笑う茉莉に、怪訝そうに拓也が訊ねる。

「お、おい!星原、霧城、どうしたんだ?」

「た、たっくん」

目の前の異様な光景に、拓也が戦慄して、綾花は怯えたように拓也の背後に隠れる。

そのタイミングで、元樹は軽く言った。

「なるほどな。洗脳している生徒達を使って、俺達に話しかけているのか」

「布施くんには、すぐにバレるのね」

「布施くん、すごいー!」

まるで苛立つように意識して表情を険しくした元樹の姿に、茉莉と亜夢はほんわかな笑みを浮かべる。

「…‥…‥茉莉、亜夢」

綾花達の事情を知らない茉莉と亜夢の間で交わされる取引。

明らかに異質な光景を前にして、綾花は躊躇うように俯いた。

不可解な空気に侵される中、拓也と元樹が慄然と言う。

「陽向くん。麻白の心が宿っているとはいえ、綾花は綾花であり、上岡なんだ」

「陽向くん、頼む。麻白の心を宿した綾が、綾として生きることを認めてくれないか?」

「綾花として?」

拓也と元樹の訴えに、茉莉は艶やかな笑みを浮かべた。

「陽向くん、無理強いはしないんだろう?なのに、綾の友達を使ってお願いするのは強引じゃないのか?」

元樹の指摘に、茉莉はわずかに目を細める。

「うーん、私も強引だったかなと思う。でも、これは、綾花が黒峯麻白さんとして生きたいって思うようにするための働きかけの一環だから」

「綾花は、黒峯麻白さんとして生きる方がいいと思った。それだけ」

「…‥…‥ううっ」

無邪気な笑顔を浮かべて淡々と告げた茉莉と亜夢に、綾花は心底困惑したように狼狽する。

「綾花、こういうかたちを取ってごめんね。でも、どうしても陽向くん達は、綾花に戻ってきてほしいの。綾花はーー黒峯麻白さんは、陽向くんにとって、かけがえのない友達だから」

「亜夢、綾花、大好き~」

「陽向くん…‥…‥」

手を合わせた茉莉の懇願に応えるように、亜夢はのほほんといった調子で言う。

それは、傍目から見れば、いつもと変わらない綾花達のやり取りだったのかもしれない。

違うのは、それが茉莉と亜夢の二人が知り得ていない内容で会話が為されているということだ。

「お願い、陽向くん。茉莉と亜夢を元に戻して…‥…‥」

「綾花、ごめんね!」

「綾花、泣かないでー!」

流れ出る涙は止まらない。

透きとおった涙をぽろぽろとこぼす綾花の姿に、茉莉と亜夢の顔が目に見えて強張る。

「だからといって、こんなやり方はないだろう!」

綾花を励ます茉莉と亜夢を見据えて、拓也は強く声を返す。

「ああ。悪いけれど、こちらからも仕掛けさせてもらう」

「えっ?」

「布施くんが、魔術道具を持っている?」

決意するように魔術道具をかざした元樹を前にして、茉莉と亜夢は大きく目を見開いたのだった。

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