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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
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第十六章 根本的に彼らの魔術理論②

「お、おのれ~!何故、倒れないのだ!」

「昂くんの魔術って、やっぱりすごいね」

何度目かの魔術の打ち合いの後、昂は荒い息を吐きながらも陽向と距離を取った。

同時に陽向も浮遊して、万全の攻撃態勢を整える。

次の瞬間、昂と陽向は同時に叫んだ。

「これで終わりなのだ!!」

「うん。終わりにしようか、昂くん!!」

互いの魔術は正面から激突し、そして大爆発が発生した。

スタジアムが崩壊するのも構わず、破壊の限りを尽くす魔術の嵐。

余裕の表情で荒れた瓦礫に降り立つ陽向を前にして、体力を大幅に消耗した昂は辛そうに膝をついた。

「僕の魔術を相殺するなんて、昂くんの魔術はすごいよね」

「はあはあ…‥…‥。苦しいのだ」

感嘆する陽向とは裏腹に、息も絶え絶えの昂は必死としか言えない眼差しを陽向に向ける。

その言葉が、その表情が、昂の焦燥を明らかに表現していた。

昂の魔術と陽向の魔術は互いに均衡している。

だが、次第に体力を消耗していく昂に対して、陽向はまるで疲れを知らないように平然と立っていた。

「でも、僕には勝てないよ」

「おのれ…‥…‥」

陽向はどうしようもなく期待に満ちた表情で、ただ事実だけを口にした。

愕然とする昂はそれでも諦めなかった。

立ち上がった昂は陽向に向かって、多彩な魔術を何度も打ち込んでいく。

炎の魔術。水の魔術。風の魔術。大地の魔術。

陽向はその全てを正面から弾き、避け、そして相殺して凌ぎきる。

「むっーー」

「昂くん、チェックメイトだよ!」

昂が驚きを口にしようとした瞬間、高く飛翔した陽向は更なる魔術を放った。


「たあっ!」


その声は昂の背後から聞こえた。

なすすべもなく魔術の渦に飲み込まれようとしていた昂の腕を掴むと、颯爽と現れたその武道家風の女性は踵を返して駆け出した。

「うおおおおおおっ!!な、何なのだ、この者は!!」

昂は女性に引きずられながらも、ひたすら絶叫する。

ーーそう。

昂達は、その場からただ離れただけだった。

だが、それだけで、昂は陽向の魔術から逃れることに成功していた。

「えっ?」

予想外の助っ人に、地面に降り立った陽向は軽く肩をすくめてみせる。

「舞波、大丈夫か?」

「おおっ…‥…‥」

遅れてスタジアム内にやって来たその人物の声を聞いた瞬間、昂が溢れそうな涙を必死に堪え、その人物の顔を見上げた。

「舞波、ここから逃げられそうか?」

「もちろんだ、先生」

きっぱりと告げられた言葉に、昂は嬉しくなってぱあっと顔を輝かせる。

昂を救い出した人物の一人ーーそれは、警備員に扮して先に侵入を果たしていた1年C組の担任だった。

(しお)、舞波を救ってくれてありがとう」

「ダーリンの頼みなら、仕方ないっていうか」

1年C組の担任が幾分、真剣な表情で告げると、汐と呼ばれた女性は頬を赤く染めながら、恥ずかしさを隠すように昂の腕を強く握りしめる。

「痛い、痛いのだ!先生、この不愉快な者は一体、何者なのだ?」

「彼女は汐。私の妻で、そして舞波が転校することになる通信制の高校の理事長だ」

「ひいっ!な、なんなのだ!その恐ろしいサプライズはーー!!」

予想もしていなかった衝撃的な事実に、昂はひたすら頭を抱えて絶叫した。

1年C組の担任が唖然としている陽向を横目に見ながら、ため息をついて言う。

「舞波、まだ体力的に厳しいかもしれないが、ここから逃げられそうか?」

「むっ、仕方ない。まだ、体力は回復していないのだが、綾花ちゃんと我の魔術書を護るためだ」

1年C組の担任の声に応えるように、汐から何とか解放されていた昂は、魔術を使うために残された魔力を振り絞って片手をさっと掲げた。

「むっ!」

そして、咄嗟に使われた昂の魔術によって、昂達はスタジアムから逃げるようにして消えていった。

「僕の魔術を避けるなんて、昂くんの先生達ってすごいね」

陽向は意外そうに告げると、持っていた携帯を一瞥する。

そこには時間表示があり、ちょうど、魔術の知識の効果が切れる時間の少し手前を示していた。

「そろそろ、病室に戻らないといけない時間だね」

陽向はそう言って、名残惜しそうに唇を尖らせる。

だが、陽向はすぐに踵を返すと、その場から姿を消していった。






「何故だーー!何故、こんなことになったのだ!!」

魔術を使って綾花達がいるワゴン車まで移動した昂は、頭を抱えて虚を突かれたように絶叫していた。

まさに、昂の心中は穏やかではない状況だった。

「我は、黒峯蓮馬から綾花ちゃんを護らねばならぬ、ーー護らねばならなかったのだ!その我が、何故、黒峯陽向という者に出し抜かれて敗北を喫するというのだ!」

憤慨に任せて、昂はひとしきり玄の父親と陽向のことを罵った。ひたすら考えつく限りの罵詈雑言を口にし続ける。

「おのれ~、黒峯蓮馬、そして黒峯陽向!我の魔術を使っても倒せないのは納得いかないのだ!」

「…‥…‥ありがとう、舞波くん」

ところ構わず当たり散らす昂に、綾花は意味ありげな表情で昂を見遣ると優しく微笑んだ。

綾花から予想だにしない言葉が放たれて、拓也はまじまじと綾花を見つめた。

「黒峯くんのお父さん達だけじゃなく、陽向くんとも争うことになってしまったのは悲しいけど、久しぶりに陽向くんに会うことができて嬉しかった」

「…‥…‥綾花」

どこまでもどこまでも嬉しそうに笑う綾花を胸を撫で下ろすような気持ちで見ていた拓也は、何故か、ほんわかと笑う麻白の姿をした綾花を思い出した。

拓也の脳裏に、いつもの綾花と麻白の姿をした綾花の姿が重なり合う。

幼い頃からペンギンが大好きでーー、だけど、上岡が憑依した影響でゲームも好きになってしまった幼なじみの少女。

そして、麻白の心も宿してしまったことで、玄の父親達から狙われるようになってしまった。

でも、言い表せないくらいに大好きで、誰よりも大切な女の子。

目の前で笑いかけている少女は、それ以外の何者でもなかった。

拓也が深々とため息をついていると、元樹は一度目を閉じてから、ゆっくりと開いて言った。

「陽向くんが、舞波と同等の魔術の使い手だということが分かった。そして、陽向くんの魔術は、舞波の魔術と同じように万能ではない。これなら、対策の立てようがある」

「対策か」

元樹の言葉に、拓也は複雑そうな表情で視線を落とすと、熟考するように口を閉じる。

舞波が新たに創った魔術道具で、あの場から逃げることができた。

黒峯蓮馬さん達、そして陽向くんに対抗するのはかなり厳しいけれど、何とかしていくしかない。

拓也は拳を握りしめて決意を新たにする。

「とにかく、これからのことを考えるのは先生の奥さんの自己紹介が終わってからにするか。確か、綾達は先生の奥さんに会うのは初めてだったよな」

「ああ」

「ひいっ!あの者の自己紹介など聞きたくないのだ!」

きっぱりと告げられた元樹の言葉に、拓也が安堵の表情を浮かべて、昂は怯えたように目を見開いて狼狽する。

「陽向くん…‥…‥」

そうつぶやいた瞬間、麻白の想いが、綾花の脳内にぽつりと流れ込んでくる。


『玄、大輝、これからもずっと一緒!そして、陽向くんもずっと一緒!』


汐の自己紹介を背景に、綾花はほんの少しだけ寂しそうな笑みを浮かべると、窓に視線を向けてこう言った。

「陽向くんとまた仲良くできるといいな」

綾花がぽつりとつぶやいた独り言は、誰の耳にも届くことはなかった。

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