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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
142/446

第九章 根本的に視線が交わる瞬間

「無様だな、二代目勇者よ」

「くそっ…‥…‥」

怪人が高らかにそう告げると、満身創痍の二代目勇者は膝をついた。

ゲームのキャラクターの特設ブースでグッズを購入した後、綾花達はイベントライブショーに来ていた。

広場に設置されたステージにて、臨場感溢れる戦闘曲が鳴り響く。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の前に発売されたゲームである、『ラ・ピュセル』を元にしたイベントライブショーは、今まさに佳境を迎えようとしていた。

「ふん。所詮、貴様など、初代勇者とは比べものにならないな」

「ああ。俺は弱いかもしれない。俺に戦う力を与えてくれたあの人とは違う」

最後の力を振り絞って、二代目勇者は立ち上がる。

「だけど、俺には仲間がいる」

「仲間など、来るものか」

怪人の嘲笑に、二代目勇者は折れた聖剣を高らかに掲げた。

「俺は信じている。頼む、みんな、俺に力を貸してほしい!」

「ひいっ!た、助けてほしいのだ!今すぐ、我を見逃してほしい!」

その時だったーー。

まるで見計らったように、警備員達に追いかけられていたラビラビの着ぐるみに身を包んだ少年ーー昂がステージに現れる。

「なっーー」

魔術を使用した突然の昂の登場に、スタッフ達は不意打ちを食らったように目を丸くした。

頭を悩ませながらも、二代目勇者はとっさに浮かんだ疑問を口にする。

「ラビラビ…‥…‥?何故、ここへ?」

「我の偉大なる魔術をもってすれば、ここに来ることなど、簡単なのだーー!」

居丈高な態度で大口を叩く昂に、二代目勇者を始めとしたスタッフ達全員が唖然とした。

「勝手に参加しないでーーぶっ!?」

注意しようとした怪人役の男性が、昂の魔術によってあっさりと吹っ飛ぶ。

「おい…‥…‥」

「あのな…‥…‥」

拓也と元樹が困り果てたようにため息をつこうとしたところで、観客席の後ろから誰かの声がした。

「いたぞ!」

「ーーっ」

警備員のかけ声に合わせて、さらに数名の警備員達が、観客席からステージへと駆け込んでくる。

警備員達の追手に対して、尾行していた1年C組の担任がとった行動は早かった。

「ラビラビ!」

初代勇者に扮した1年C組の担任は地面を蹴った。

そして、昂を捕らえようとしている警備員達の前まで移動する。

その見え透いた挙動に、警備員達の反応が完全に遅れたーーその時だった。

1年C組の担任は警備員達に素早く接敵すると、多彩な技を駆使して次々と警備員達を倒していく。

次の瞬間、昂と観客達の目に映ったのは床に倒れ伏す警備員達の姿と、冷然と立つ初代勇者に扮した1年C組の担任の背中だった。

「ラビラビ、大丈夫か?」

「おおっ…‥…‥」

その声を聞いた瞬間、昂が溢れそうな涙を必死に堪え、1年C組の担任を見上げる。

「二代目勇者よ。後は任せた」

「…‥…‥は、はい」

きっぱりと告げられた言葉に、二代目勇者の役の男性はたどたどしく応えた。

「行くぞ、ラビラビ」

「うむ」

呆然とするスタッフと観客達を尻目に、1年C組の担任は昂を連れ添ってステージから立ち去っていく。

二代目勇者を始めとしたスタッフと観客達は、初代勇者に扮した1年C組の担任の背中から目が離せなかった。

「初代、あなたはなんてすごい人なんだ…‥…‥」

1年C組の担任の強さを間近で見た、二代目勇者役の男性は感激する。

興奮さめやらない二代目勇者がそう告げると、一瞬の静寂の後、認識に追いついた観客達の歓声が一気に爆発した。

「初代勇者、ゲームより強くないか!!」

「すげえー!!俺、今、何が起こったのか、分からなかった!!」

一拍遅れて爆発する観客のリアクションを尻目に、拓也は目を細める。

「何とかごまかせたな」

「ああ。先生に、舞波のことを任せて正解だったな」

拓也の言葉に、元樹は携帯を確認すると記憶の糸を辿るように目を閉じた。

あかりはイベントライブショーを観終えた後、不思議そうに小首を傾げる。

「ねえ、麻白。イベントライブショーのラビラビさんは、魔術が使えるのかな?」

「ほ、本当だね」

まさか、中身が魔術を使う少年ーー昂だからとは言えず、綾花は曖昧な返事を返すしかなかったのだった。






「あっ、ラビラビさん」

ラビラビの着ぐるみに身を包んだスタッフが現れて、綾花はぱあっと顔を輝かせた。

時刻はそろそろ、小腹も空き始める午後三時であった。

遊園地館内にあるダイニングレストランはイベントライブショーに出演したキャラクターの一人が遊びに来るという、まるで夢のような場所だった。

本来、ラビラビはレストランに来る予定はなかったのだが、急遽、ラビラビに扮した昂がイベントライブショーに出演してしまったことによって、来客者達からレストランに来てほしいという要望があがったという。

レストランに遊びに来たラビラビの挨拶を聞きながら、綾花とあかりは至福の表情で目を輝かせた。

綾花は、あかりと麻白が一緒に遊んでいる姿を想像する。

想像は尽きない。

だけど、最後に行き着く答えは同じだ。

あかりと麻白が、これからも幸せになってほしい。

綾花は切にそう願った。

ーーその時だった。

綾花が頼んでいたスパゲッティーを食べていると、大輝はあくまでも真剣な表情を浮かべて言った。

「…‥…‥なあ、麻白。この後、二人で観覧車に乗らないか?」

「観覧車?」

大輝にそう問われて、綾花は不思議そうに小首を傾げる。

「大輝、みんなで乗らないの?」

「その、麻白と二人っきりで乗りたいんだよ」

「えっ?」

綾花が意味を計りかねて大輝を見ると、何故か焦れたように大輝は顔を赤らめて腕を組んだ。

意を決したように両拳を突き出して身を乗り出すと、すべての勇気を増員して大輝はさらに告げる。

「とにかく、観覧車だけは、麻白と二人っきりで乗りたい気分なんだ!」

「大輝、意味不明すぎ」

大輝のよく分からない宣言に、綾花は不満そうに頬を膨らませてみせる。

「そんなことないだろう。とにかく、これは確定事項だからな」

綾花のふて腐れたような表情を受けて、大輝は不服そうに目を細めてから両拳をぎゅっと握りしめた。

食事を終え、携帯を眺めながらこっそりとため息をつくと、拓也と元樹は吹っ切れたように綾花に話しかけてきた。

「なあ、麻白」

「これから観覧車に行くんだろう?なら、俺達と一緒に乗らないか?」

「なっーー」

その言葉に、大輝は思わず絶句する。

そして視線を転じると、拓也と元樹に向かって声をかけた。

「拓、友樹。麻白とは、俺が乗るからな」

そう言って大輝が非難の眼差しを向けてきても、元樹は気にせずにさらにこう口にする。

「前にみんなで、別のテーマパークに行ったことがあっただろう。あの時ほどではないけれど、ここの観覧車も近くの山脈が見渡せたりと、すげえ絶景が堪能できるらしいんだよな!」

「そうなんだ」

レストランの窓から見える観覧車に視線を向けながら、綾花はそうつぶやいた。

「なあ、麻白。一緒に乗らないか?」

有無を言わさず、にんまりとした笑みを浮かべてきた元樹の姿に、大輝は苦々しく眉を寄せる。

大輝は首を横に振ると、きっぱりとこう告げた。

「だから、麻白は俺と一緒に乗るって言っているだろう!」

「あ、その…‥…‥」

綾花が窮地に立たされた気分で息を詰めていると、有無を言わせず、大輝は綾花の手を取った。そして立ち上がると、拓也と元樹の返事を聞かずに、レストランを出て観覧車へと強引に連れだそうとする。

当然のことながら、拓也と元樹は動揺をあらわにして叫んだ。

「大輝、まだ、話は終わっていないだろう!」

「おい、大輝!」

「拓、友樹、頼む!麻白と二人っきりで観覧車に乗りたいんだ!」

拓也と元樹の抗議に、大輝は振り返ると視線を床に落としながら請う。

拓也は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いをにじませる。

「何か事情があるのか?」

「ああ。麻白に伝えたいことがあるんだよ」

大輝の最後の言葉は、綾花に向けられたものだった。

元樹が軽く息を吐いて問う。

「伝えたいことは、俺達がいたら言えないことなのか?」

「それはーー」

幾分真剣な顔の大輝と困り顔の拓也と元樹が、しばらく視線を合わせる。

先に折れたのは大輝の方だった。

身じろぎもせず、じっと大輝を見つめ続ける拓也と元樹に、大輝は重く息をつくと肩を落とした。

「…‥…‥分かった。確かに、おまえらにも伝えておいた方がいいかもな。でも、ここでは人目があるから観覧車の裏側でもいいか?」

「ああ」

「ありがとうな、大輝」

苦虫を噛み潰したような顔でしぶしぶ応じる大輝に、拓也と元樹は屈託なく笑ってみせる。

夕闇色の観覧車の裏側にたどり着くと、大輝は綾花と向き合った。

「麻白」

「大輝、どうしたの?」

綾花が不思議そうに小首を傾げると、大輝は肺に息を吸い込んだ。

ためらいも恐れも感じてしまう前に、大輝は声と一緒にそれを吐き出した。


「俺は、おまえが好きなんだ!大好きなんだよ!拓にも友樹にも、絶対に渡したくない!」


「…‥…‥ううっ」

「なっーー」

「ーーっ」

大輝の思わぬ告白に、綾花が輪をかけて動揺し、拓也と元樹は目を見開いて狼狽する。

何度、その言葉を口にする場面を想像の中で繰り返してきただろう。

麻白が自分のその言葉を聞いて、ひどく困惑した顔をすることは目に見えていた。

麻白は友樹の彼女だ。

友樹の彼女ーー。

喉が引き裂かれそうなほどそう思いながら、大輝は不安と苛立ちで気が変になりそうだった。

「大輝、悪いけれど、俺と麻白は付き合っているんだ」

「…‥…‥友樹」

だが、押さえに押さえてきた最後の感情の砦は、綾花を背に、大輝の行く手を阻むようにして立ち塞がった元樹を見た途端、全て崩壊した。

しかし、一連の出来事で動揺していた大輝は、次に元樹がとった行動に虚を突かれることになる。

「…‥…‥ふわわっ、友樹」

どうしたらいいのか分からず、滑らかな頬を淡く染め、たまらず悲しげにうつむいた綾花を、元樹は愛おしそうにそっと抱き寄せた。

「なっーー」

「ーーっ」

そして、拓也と大輝が咎めるより先に、元樹は綾花の唇に自分の唇を重ねる。

矢継ぎ早の展開。それも唐突すぎる流れに、綾花は一瞬で顔が桜色に染まってしまう。

「おい、友樹!」

「ま、麻白が友樹と付き合っていたとしても、俺は諦めるつもりなんてないからな!」

「絶対に負けないからな」

苛立たしそうに叫んだ拓也と大輝に、元樹ははっきりとそう告げる。

「ううっ…‥…‥」

そんな中、激しい剣幕で言い争う拓也と元樹と大輝を前にして、綾花は窮地に立たされた気分で息を詰めていた。

そんな綾花の様子を見かねた玄は少し困ったように、妹のーー綾花の顔を覗き込んで言った。

「…‥…‥麻白、大丈夫だ。麻白なりの答えを探せばいい」

「…‥…‥うん。玄、ありがとう」

玄の言葉に、綾花は少し不安そうにしながらも身体を縮ませてこくりと頷くのだった。

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