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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
141/446

第八章 根本的に会いたい人がそこにいる

「麻白」

「おい、麻白!」

玄と大輝、そしてあかり達と一緒に遊園地に行く日ーー。

特急列車を乗り継ぎ、ワゴン車から降りた後、綾花達が荷物を手に、待ち合わせの遊園地へと向かっていると、不意に玄と大輝の声が聞こえた。

声がした方向に振り向くと、少しばかり離れた道沿いに、玄と大輝が綾花達の姿を見とめて何気なく手を振っている。

荷物を握りしめて玄達の元へと慌てて駆けよってきた綾花は、少し不安そうにはにかんでみせた。

「玄、大輝、遅くなってごめん」

「心配するな」

「麻白、遅いぞ」

玄と大輝がそれぞれの言葉でそう答えると、綾花は花咲くようににっこりと笑ってみせた。そして、嬉しさを噛みしめるように持っている荷物をぎゅっと握りしめる。

元樹とともに、綾花の後を追いかけ、玄達の前に立った拓也は、居住まいを正して真剣な表情で頭を下げた。

「玄、大輝、今日はよろしくな」

「…‥…‥おまえら、やっぱり、来たんだな」

拓也の言葉に、大輝はそっぽを向くと、ぼそっとつぶやいた。

「はあ…‥…‥」

困ったようにため息をついた拓也をよそに、元樹がこともなげに言う。

「みんなで遊んだ方が楽しいと思うけどな」

「あ、ああ、そうだな。…‥…‥拓、友樹」

「あっ、大輝、照れている」

綾花に指摘されて、大輝は振り返ると不満そうに眉をひそめる。

「麻白、俺は照れてないぞ。ただ、これからのーー遊園地のことを考えていただけだ」

綾花の嬉しそうな表情を受けて、大輝は不服そうに目を細めてから両拳をぎゅっと握りしめた。

「大輝らしいな」

笑ったような、驚いたような。

あらゆる感情の混ざった声が、玄の口からこぼれ落ちる。

「あれ?雅山達はまだ来ていないんだな?」

「ああ。春斗達は少し遅れるみたいだ」

拓也の疑問に、玄は携帯を確認すると朗らかに言った。

「あっ、たっくん、友樹、玄、大輝。あかり達、来たみたいだよ!」

綾花はそう言うと、少し離れた道沿いにいる車椅子に乗った、海のように明るく輝く瞳をした少女ーーあかり達に向かって手を振った。

拓也達が綾花の視線を追うと、そこにはあかり達が綾花達の姿を見とめて、柔らかな笑みを浮かべている。

その様子をよそに、大輝は周囲を窺うようにしてからこう告げた。

「麻白。俺、あいつらに話しておきたいことがあるから、先に会ってくるな」

そう言い捨てると、大輝はそのまま、あかり達のもとへと走っていく。

「大輝、どうしたのかな?」

その様子をぼんやりと眺めながら、綾花は少し不思議そうに小首を傾げる。

「大輝、雅山達に何か話したのか?」

「恐らくな」

憂いの帯びた拓也の声に、元樹もわずかに真剣さを含んだ調子で穏やかに言葉を紡ぐ。

「そうなのか?」

困惑したように驚きの表情を浮かべる拓也に、元樹は軽く肩をすくめると手のひらを返したようにこう言った。

「まあ、実際のところ、俺もどういうことなのか分からないけどな」

「…‥…‥そうか」

拓也が顎に手を当てて真剣な表情で悩み始めると、不意に元樹は拓也が予想だにしなかったことを言い出してきた。

「なあ、拓也。綾とーー麻白と二人きりで観覧車に乗りたいんだけど、ダメか?」

「当たり前だ」

元樹が手を合わせて至って真面目に懇願してくると、拓也は眉をひそめてきっぱりとそう断言したのだった。






「うわぁっ!」

巨大な観覧車を発見して、いそいそと入場ゲートへと手を伸ばしかけた綾花が嬉しそうに言う。

「前に訪れたテーマパークと違って、ここの遊園地は観覧車がすごいな」

拓也は静かにそう告げて、遊園地内を見渡した。

拓也が見る先には、ゆっくりと回転する巨大な星のオブジェがあり、その横には入場ゲートがある。遊園地には、趣向を凝らしたライブショーや『ラビラビ』といった大人気ゲームのキャラクターの特設ブース、様々なアトラクションが楽しめる施設などが見受けられた。

「玄、大輝、たっくん、友樹、最初のアトラクションはどうする?」

遊園地の入口ゲートを通った後、玄達の元へと慌てて駆けよってきた綾花は、少し不安そうにはにかんでみせた。

「麻白が行きたい場所に行こう」

「まあ、俺は最後に観覧車に乗れればいいからな」

「ああ、そうだな」

「俺達も、麻白が行きたい場所でいいと思う」

玄と大輝、そして、拓也と元樹がそれぞれの言葉でそう答えると、綾花は花咲くようににっこりと笑ってみせた。そして、嬉しさを噛みしめるように持っている荷物をぎゅっと握りしめる。

「うーん。行きたい場所、行きたい場所」

綾花が目を細め、更なる思考に耽ろうとした矢先、不意に、あかりはぽつりとこうつぶやいた。

「ねえ、麻白」

「えっ?」

綾花の問いかけに、あかりは車椅子の肘掛けをぎゅっと握りしめたまま、恥ずかしそうにそうつぶやくと顔を俯かせる。

しかし、このままでは話が先に進まないと思ったのだろう。

あかりは顔を上げると、意を決して口を開いた。

「あのね、私、お父さんからアトラクションには乗らないように、って言われているの」

「だったら、ゲームのキャラクターの特設ブースに行こう。最新作のオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ4』、『ラ・ピュセル』などのキャラクターのグッズがたくさんあるみたいだよ」

「う、うん!私、ラビラビさんのグッズが置いている、ゲームのキャラクターの特設ブースに行ってみたい!」

綾花がそう告げた瞬間、あかりはぱあっと顔を輝かせて言った。 頬をふわりと上気させて嬉しそうに笑う。

「すっかり、あやーー麻白とあかりは仲良くなったな」

「そうだな」

問いかけるような声でそう言った拓也に、元樹は軽く頷いてみせる。

「ふむふむ、黒峯蓮馬め。どこに隠れているのだ!」

そんな中、綾花達の後を追いながら、ひよこの着ぐるみに身を包んだ少年ーー昂は、綾花達の様子と玄の父親達の動向を探るため、こそこそと聞き耳を立てていた。


『今回の遊園地では、黒峯蓮馬さん達の妨害に徹してほしい』


元樹の懇願を受けて、昂は玄の父親達を不意討ちするために、少し離れた場所から綾花達の様子を見守っていた。

玄の父親の思惑が分からない以上、この方法が何よりも有効かもしれないと、元樹は考えたのだ。

もっとも、実際のところは、昂が質問攻めによって迂闊なことを漏らさないため、というのが最大の理由ではあったーー。

昂は今回、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の前に発売されたゲームである、『ラ・ピュセル』のマスコットキャラに扮していた。

『ラビラビ』というマスコットキャラは、小鳥ーーそれもひよこに似たキャラで、特に女性に人気がある。

だが、昂が扮した『ラ・ピュセル』のマスコットキャラ、『ラビラビ』は見るも無惨な姿だった。

ヒヨコに酷使した着ぐるみを被ったまでは良かったのだが、頭にはちまきを巻き、『打倒、黒峯蓮馬』と書かれたタスキを掲げている。

そのせいで、本来は愛らしいはずの『ラビラビ』のキャラが、微妙に滑稽な姿へと変わってしまっていた。

だが、あまりにも怪しすぎて、近くにいた来客者達から思いっきり冷めた眼差しを向けられ、昂がいる場所自体が必然的に避けられていたことにも気づかずに、昂は先を続ける。

「やっぱり、麻白ちゃんは可愛いのだ」

こみ上げてくる喜びを抑えきれず、昂はにんまりとほくそ笑む。

しかし、そうこうしているうちに、綾花達はゲームのキャラクターの特設ブースへと歩き始めようとしていた。

「むっ、こうしてはおれん!早速、麻白ちゃんの後を追わねば!」

自分に活を入れると、昂は綾花達の後を追って、こそこそと隠れながらも駆け出していく。

その様子を警備員達とともに窺っていた美里は携帯を取り出すと、社長室にいる玄の父親と連絡を取り合う。

「社長、昂くんが怪しい行動を繰り返しています」

「分かった。即急に、取り押さえていてくれないか」

周囲に目を配りつつ、玄の父親は厳かな口調で指示を続ける。

「そして、麻白が大輝くんの言葉にどう答えるのか、聞いてきてほしい」

「かしこまりました」

あまりに自然かつ素早い反応をした玄の父親は一度、目を閉じると、速やかに携帯を切った。

「…‥…‥はい。渡辺さん達は、舞波の存在に気づいたみたいです。舞波が捕らえられることがありましたら、私の方で舞波を救出してみようと思います」

そんな中、昂も、美里達も気づいていなかったのだが、入口ゲートから、そんな彼らの様子を探るように聞き耳を立てている男性がいた。

彼はーー遊園地のクリーンスタッフに扮した1年C組の担任は、昂の母親と度々、連絡を取り合いながら、綾花達と、昂を護るための手立てを考えていたのだった。

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