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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術争奪戦編
135/446

第ニ章 根本的に彼と進路相談②

「こちらが留年回避に向けた課題集、そして通信制の高校のパンフレットになります」

「うおおおおおおっ!…‥…‥お、恐ろしいものが出てきたのだーー!」

1年C組の担任が出してきた課題集とパンフレットを見て、昂は拒絶するように両手を前に突き出しながらひたすら絶叫する。

昂の家に着き、リビングに入るなり、1年C組の担任は昂の両親に課題集とパンフレットを手渡してきた。

「舞波くん、通信制の高校に転校するのかな?」

リビングで繰り広げられる喧騒に、綾花は不安そうにぽつりとつぶやいた。

「舞波は、留年二回目が決定したようなものだからな。また、一学年をやり直すのは厳しいかもしれない」

「まあ、通信制の高校に行っても、自学自習がメインだから、俺達の高校に度々、来そうだけどな」

そんな綾花の問いかけに、拓也と元樹は顔を歪めながら答えた。

「…‥…‥うん、そうだよね。こういう時、舞波くんはいつも無類の力を発揮するもの」

「…‥…‥だから、困るんだ」

ほんわかな笑みを浮かべて思い出したように言う綾花をよそに、拓也は昂達の話し合いに視線を向けながら、苦々しい顔で吐き捨てるように言った。

「通信制の高校…‥…‥。私もーー俺も受けられたらいいな」

途中で口振りを変えた綾花は、悔やむようにそう告げる。

「でも、俺は綾花であり、あかりでもあるから難しいよな」

「綾花。雅山の中学校はどんな感じなんだ?」

「楽しいな」

拓也の率直な疑問に対して、綾花は爽やかに笑った。

「中学校は二度目だけど、同じクラス、そして別のクラスでも友達がたくさん出来て楽しいんだ。あかりは突然、知らない人から話しかけられて、びっくりしたみたいだけどな」

「そうだろうな」

「雅山にとっては、すごい体験だな」

屈託のない笑顔でやる気を全身にみなぎらせた綾花を見て、拓也と元樹は呆れたように顔を見合わせたのだった。






「あなた!」

夜遅くにオートロックが解除して、マンションに戻ってきた玄の父親を見るなり、玄の母親は調度を蹴散らすようにして玄の父親の傍に走り寄った。

「あなた、おかえりなさい」

「ああ」

「麻白は?」

玄の母親は不安そうにきょろきょろと辺りを見回すが、玄の父親以外に誰もいないことに気づくとほんの少しだけ表情に寂しさを滲ませた。

そんな玄の母親の様子を見て、玄の父親が深刻な面持ちで言う。

「今日のお披露目会のことで、少し話しておきたいことがある。玄はリビングにいるのか?」

「ええ」

玄の母親がそう答えると、玄の父親は玄の母親とともリビングに入る。そして、自身の家族に事の成り行きを説明し始めた。

「…‥…‥玄、すまない。予想以上の出席者と取材陣の多さゆえに、玄と大輝くんを麻白のお披露目会に連れていくことができなかった」

「…‥…‥父さん」

リビングのソファーに座っていた玄は、玄の父親に何か言葉を返そうとして、でもすぐには返せなかった。

玄の父親は玄から顔を背けて、沈痛な面持ちで続けた。

「麻白達のことについて、少し伝えたいことがある。今度、大輝くんが泊まりに来る時にでも話すつもりだ」

「…‥…‥麻白と拓達について?」

「ああ」

玄の父親の言葉に、玄は訝しげに首を傾げてみせる。

玄の父親が告げた意外な事実を前にしても、そばで見守っている執事とメイド、そして、警備員達には動揺した様子はない。

玄と玄の母親以外は、既に真相を知り得ている者達だからだ。

玄の父親は説明を終えると、一人、口元を押さえ、今にも泣き出しそうに悲愴な表情を浮かべている玄の母親と向き合った。

「あ、あなた、麻白とはまた、会えるの?」

「…‥…‥ああ、大丈夫だ」

玄の母親は玄の父親に視線を向けると、悲しげにぽつりとつぶやいた。

玄の父親は、そんな彼女を自身のもとへとそっと抱き寄せる。

「…‥…‥予定どおりだ」

喜びに満ちあふれる家族をよそに、外見どおりの透徹した空気をまとった玄の父親は、冷たい声でそうつぶやく。

「後は、瀬生綾花さんが麻白として生きるように仕向ければいい。どのような手段を用いても」

玄の父親は、どうしようもなく期待に満ちた表情で、ただ事実だけを口にした。






「おはよう、綾花」

「わあーい、綾花だ~」

「ふ、ふわわっ…‥…‥。ちょ、ちょっと、茉莉、亜夢」

翌日、綾花達が教室に入った瞬間、茉莉と亜夢が綾花に抱きついてきた。

「ちょっと聞いてよー!あっ、井上くんと布施くんもおはよう」

言いながら、茉莉は軽い調子で右手を軽く上げて拓也と元樹に挨拶する。

「…‥…‥ああ、おはよう」

「星原の様子を見ていると、いつもの日常に戻ってきた感じがするな」

顔をうつむかせて不服そうに言う拓也とやれやれと呆れたようにぼやく元樹の言葉にもさして気にした様子もなく、茉莉は興奮気味に話し始めた。

「ねえねえ、綾花。今日から、生徒指導室などで大学などの案内、求人の情報が見れるようになったの」

「生徒指導室で?」

茉莉の意外な言葉に、綾花は不思議そうに首を傾げてみせる。

今日から生徒指導室で閲覧できるようになったことは、茉莉だけではなく、他の生徒達の注目をも集めていた。

「うん。それに、あの黒峯玄さんのお父さんが社長を務めている超大手会社の求人も掲載されるみたいなの。すごいよね!」

「亜夢、そこに就職したい~!」

「なっーー」

綾花と茉莉と亜夢のやり取りを傍観していた拓也は、そこで到底聞き流せない言葉を耳にした気がして困惑した。

通常なら、大学卒でないと入れないはずの黒峯玄の父親の会社の求人が掲載されている…‥…‥?

そんな拓也の疑心を尻目に、茉莉は得意げに人差し指を立てると、さらに言葉を続ける。

「確か、えっと…‥…‥、秘書の渡辺美里さんっていう人が今度、私達の学校に企業説明に来る…‥…‥んだったかな」

少し戸惑いながらも当然のように告げられた茉莉の言葉に、緊張した空気がさらに張り詰める。

拓也と元樹ーーそして、当の本人である綾花でさえ、茉莉に言葉を返すことができなかった。

綾花達は始業のホームルーム開始のチャイムが鳴るまで、その場に立ち尽くすことしかできずにいた。






茉莉達から衝撃の事実を聞かされていたーーその日の朝、綾花達が知らないところで突如、別の事件が降りかかっていた。

二度目の留年がほぼ確定してしまった昂が、生徒指導室に呼び出されたのである。

「我は悪くない!ただ、綾花ちゃんのクラスに行ったり、母上にばれないようにするために夜中、魔術の道具を探したり、英語以外の教科が全て0点だっただけではないか!」

「それが大問題だと言うのだが!」

「やはり、通信制の高校に転校しても同じことを繰り返そうだな!」

昂のたどたどしい言い訳に、この学校の校長と1年C組の担任は全身から怒気を放ちながら、昂を睨みすえる。その声はいっそ優しく響いた。

「ひいっ!校長先生、先生、話を聞いてほしいのだ!」

昂は恐怖のあまり、総毛立った。ふるふると恐ろしげに首を横に振る。

学校に着くなり、いざ、綾花のクラスに行こうとした矢先、昂は1年C組の担任に呼び出され、突如、昨日の留年の件を執拗に問いただされていたのである。

「我は今すぐ、綾花ちゃんのクラスに行きたいのだ!」

「舞波くん。君は生徒指導室に呼ばれても、その態度なのかね?」

「うむ。我は『偉大なる未来の支配者』だからな」

どこまでも我田引水の見本のような台詞を吐く昂に、校長は額に手を当ててため息をつくと朗らかにこう言った。

「正直、今すぐにでも退学処分にしたいところだが、君を雇いたいという企業からの斡旋が来ている。しかも、君がこの企業に就職するまでは、この湖潤高校に在籍させてほしいと懇願されてきた」

「おおっ…‥…‥」

その言葉を聞いた瞬間、昂は歓喜の色を浮かべ、絶叫した。

「素晴らしい、素晴らしいぞ、その企業というものは!まさに、我を退学処分から颯爽と救う救世主ではないか!」

「退学処分になりかけている舞波を雇うだけではなく、この湖潤高校に在籍させるように働きかけている企業ーー」

「もちろん、私達です」

曖昧だった思考に与えられる具体的な形。

独り言じみた1年C組の担任のつぶやきにはっきりと答えたのは、昂でもなく、この高校の校長でもなく、全くの第三者だった。

驚きとともに振り返った1年C組の担任が目にしたのは、生徒指導室の入口で待ち構えていた玄の父親の秘書である美里だった。

「舞波昂くん、選びなさい。このまま、高校を中退するのか、通信制の高校に転校するのか。それとも、この高校に在籍して、就職も斡旋してもらう代わりに、2年B組の瀬生綾花さんを私達に引き渡すのかを」

「ひいっ!な、なんなのだ、黒峯蓮馬!その恐ろしい取引はーー!!」

予想もしていなかった衝撃的な取引に、昂はひたすら頭を抱えて絶叫するしかなかったのだった。

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