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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
分魂の儀式編
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番外編第七十四章 根本的に瞳の中の眠り姫④

瀬生綾花さんをーー麻白を賭けた勝負。

その意図を察した瞬間、玄の父親のまとう空気が一変した。

「私達が圧倒的優位に立っているというのに何故、そのような勝負をする必要がある」

冷たく切り捨てた玄の父親に、元樹は少し声を落として告げる。

「いえ、圧倒的優位に立っているのは、俺達の方です。あなた達は、本物の綾を見つけることはできませんから」

一笑に付すべき言葉。

強がりにすぎない台詞。

そのとおりに笑みを浮かべた玄の父親は、次の瞬間、表情を凍りつかせた。


「ーーところがびっくり」


「ーーっ」

不意に、全く予想だにしないーーだけど、誰よりも待ち望んでいた声が聞こえてきて、玄の父親は思わず、目を見開いてしまう。

「父さん、元樹が言っていることは正しいんだよ」

いつからいたのか、元樹の後ろには、赤みがかかった髪のドレス姿の少女ーー麻白が二人、後ろ手を組んだまま、興味津々の様子で玄の父親を見つめている。

玄の父親は目の前で元樹の後ろに隠れている二人の麻白を確認してから、会場のステージで歌っているはずの麻白の姿をした綾花の分身体へと視線を向けた。

「信じていたい~! 記憶の中に閉ざされた~!いつかの夢が儚く消えたとしても~!」

そこには確かに、麻白の姿をした綾花の分身体がマイクを片手に歌っていた。

会場のステージで歌っている麻白。

そして今、私の目の前にいる二人の麻白。

この三人の中に、本物の瀬生綾花さんがいるというわけか。

会場内に麻白が三人いるのもどうかと考えたが、幸い、ステージで歌っている麻白の方に注目が集まっており、玄の父親達の話に耳を傾ける者はいなかった。

「なら、全て取り戻せばいい」

三人の麻白を目にして、玄の父親はすぐにその決断を下した。

「父さん、あたしが本物の麻白だよ」

「ううん、あたしだよ」

「麻白」

言うや否や、玄の父親のもとにゆっくりと歩み寄ってきた二人の麻白に対して、玄の父親はふと手を伸ばした。

その袖をつまんで、自分の方へと引き寄せる。

だけど、その手はいつのまにか虚空をつかみ、一瞬前まで、確かに自身のもとに引き寄せていたはずの麻白は、二人とも影も形もなくなっていた。

突如、起こった不可解な現象に、玄の父親は眉をひそめる。

「…‥…‥魔術、か」

麻白が消えた事情を察して、玄の父親は忌々しそうにつぶやいた。

「黒峯蓮馬!今から思う存分、我の魔術のすごさを知らしめてやるのだ!」

明確な怒気のこもった鋭い玄の父親の視線に、昂は腕を組むとこの上なく不敵な笑みを浮かべながら答える。

昂の言葉に、拓也ははっとした表情を浮かべた。

「もしかして、もう舞波の魔術お披露目会が始まっているのか?」

「ああ。舞波に前持って頼んでいたんだ。麻白の姿をした綾の分身体を複数、増やせる魔術をさ。綾には負担がかかってしまうけれど、それぞれの分身体が一時間、実体化できるから、時間制限を気にしなくていいし、前よりもバリエーションが増やせるしな」

拓也が意味を計りかねて元樹を見ると、元樹は眉を寄せて腕を頭の後ろに組んで言った。

事情を察すると同時に、玄の父親は薄く目を細める。

「昂くん。本物の麻白は何処にいる?」

「むっ!ま、麻白ちゃんの居場所だとーー!!」

玄の父親の言葉を打ち消すように、昂は拒絶するように両手を前に突き出すと、焦れたようにこう言い放った。

「わ、我も分かーー否、我が言うはずがなかろう」

昂のたどたどしい答え方に、拓也は怪訝そうに元樹を見つめる。

「でも何だか、舞波も事情が分かっていないみたいだな」

「舞波は、本当は別のことをするつもりだったんだよな。だけど、事情が事情だからさ。急遽、先生にメールを送って、作戦を変更してもらったんだよ」

押し殺すような拓也の声に応えるように、元樹はやれやれと呆れたように眉根を寄せた。

「なるほどな。だけど、黒峯玄の父親達は、この挑戦を受けてくれるのか?」

「受ける必要はありませんね 」

独り言じみた拓也のつぶやきにはっきりと答えたのは、元樹でもなく、玄の父親の足止めをしている昂でもなく、全くの第三者だった。


「あなた方を、ここから出すわけにはいきません」


驚きとともに振り返った拓也達が目にしたのは、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ4』の主題歌を歌い終わった後、そのまま、美里に捕らえられてしまった麻白の姿をした綾花の分身体だった。

「なっ!」

鋭く声を飛ばした拓也をよそに、元樹は冷静に目を細めて言った。

「黒峯蓮馬さん、渡辺美里さん。俺達の挑戦を受けて下さい。綾をーー麻白を賭けた勝負を」

「受ける必要はないと告げたはずです」

元樹の問いかけに真剣な口調で答えて、美里はまっすぐ元樹を見つめた。

その機械に打ち込んだような美里の言葉の中に、元樹は一縷の望みをかける。

「テレビで生放送されているこの場所で、麻白を捕らえたり、何人もの麻白が目撃されて困るのはあなた達も同じはずです」

と断言して、元樹は視線を周囲に飛ばす。

玄の父親達が元樹の視線を追うと、元樹達のテーブルの周囲に集まった少なくはない報道陣達がみなこちらに対してマイクを向けていた。

「黒峯さん。娘さんの歌について一言、お願いします」

「黒峯さん。秘書の方から、娘さんの体調が悪いとお伺いしたのですが、医務室には行かれないのでしょうか?」

「ーーっ」

騒ぎを聞きつけた報道陣達を見て、美里はすでに引けるような状況ではないことを痛感する。

「渡辺、構わない」

「しかし、社長」

「彼らの言うとおり、何人もの麻白を目撃されるわけにはいかない」

周囲に目を配りつつ、玄の父親は厳かな口調で美里に指示を告げる。

そして、長い沈黙を挟んだ後で、玄の父親は顔を上げて言った。

「君達の挑戦を受けよう。その代わり、場所を変更させてもらう」

一度、言葉を切って、静かにそう結んだ玄の父親は、拓也達をまっすぐに見つめたのだった。

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