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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
分魂の儀式編
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番外編第七十一章 根本的に瞳の中の眠り姫①

「なっ…‥…‥!」

綾花のーー麻白の歌のお披露目会当日、昂の父親が勤めている会社のビルの前に立った拓也は自分でもわかるほど驚きの表情を浮かべていた。

その理由は、至極単純なことだった。

綾花達が赴いた玄の父親が経営する会社は、まさに毒気を抜かれるほどの壮麗な超高層ビルだったからだ。

「ここに、舞波のおじさんが勤めているのか?」

「玄達は住んでいる場所も、父親が経営している会社も想定外だよな」

冗談のような高さの高層ビルを前にして、拓也だけではなく、元樹も目を大きく見開き、驚きをあらわにする。

拓也と元樹は、黒を基調したモーニングコートを身に纏っていた。

ただ、拓也がネクタイをしているのに対して、元樹は首元に白いアスコットタイをつけている。

前に訪れた進の父親が勤めている会社にも圧倒されたが、玄の父親の会社はそれを遥かに凌駕していた。

驚きににじむ表情のまま、拓也と元樹はおそるおそる黒コートに身を包んだ少年ーー昂を見遣った。

「うむ。我の父上が勤めている会社だからな。すごいのは当然だ」

「…‥…‥すげえ、屁理屈だな」

「事実を言ったまでだ」

昂が至極真面目な表情でそう言ってのけると、元樹は思わず呆気に取られてしまう。

「ううっ…‥…‥」

そんな中、超高層ビルの入口の前に詰めかけた報道陣を前にして、麻白の姿をした綾花は顔をうつむかせて声を震わせた。

「たっくん、元樹くん、舞波くん。このままだと、麻白の歌のお披露目会がおこなわれる会場までたどり着けそうもないよ」

玄の父親から送られてきたドレスを纏った綾花の出で立ちは、いつにもまして華やかだった。

桜色のドレスには、透けるように織りの細かいレースがふんだんにあしらわれている。そして、赤みがかかった髪には、白い花飾りをつけていた。

綾花の華やかなドレス姿を満喫できたことに、昂は顎に手を当てまんざらではないという表情を浮かべるとさらに言い募った。

「大丈夫だ、綾花ちゃん。我の魔術を使って、会場まで移動すればいい。そうすれば、綾花ちゃんはスムーズに会場入りできて、我は綾花ちゃんを会場までエスコートできる。まさに、一石二鳥だ」

「…‥…‥おい」

間一髪入れず、この作戦の利点を語って聞かせた昂に、拓也は苛立たしげに顔をしかめる。

「それにしても、麻白の誘拐について取り上げた公開捜査番組が放送されたばかりのせいか、やけに報道陣が詰めかけているよな」

「うむ、確かにな」

苦虫を噛み潰したような元樹の声に、不遜な態度で昂は不適に笑う。

「それだけ、我が注目されているということであろう」

「注目されているのは、おまえじゃないだろう」

「ああ、麻白だよな」

昂の口からよく分からない宣言が飛び出してきて、拓也と元樹は不愉快そうにそう告げる。

だが、そんな視線などどこ吹く風という佇まいと風貌で、昂は構わず先を続けた。

「…‥…‥あ、綾花ちゃん。我の魔術で、会場に移動する前にお願いしたいことがある」

「お願い?」

綾花が意味を計りかねて昂を見ると、何故か焦れたように昂は顔を赤らめて腕を組む。

かくして、昂は告げた。

「手を出してはくれぬか?今すぐ我に、綾花ちゃんを会場までエスコートさせてほしい」

「ええっ!?」

「おい、舞波!どさくさに紛れて、綾花の手をつかもうとするな!」

「おまえ、勝手なことばかりするなよな!」

さらりと告げられた昂の衝撃発言に、綾花が輪をかけて動揺し、拓也と元樹は内心のため息とともに突き放すように言った。

そんな中、昂がざっくりと付け加えるように言う。

「うむ。我としては、綾花ちゃんから手を出してほしかったが仕方ない。いつものように、我が綾花ちゃんに抱きつくのだ!」

「ふわっ、ちょ、ちょっと、舞波くん」

それだけ言い終えると、ついでのように昂が綾花に抱きついてきた。

「おい、舞波!綾花から離れろ!」

「おまえ、エスコートをするんじゃなかったのかよ?」

「我は大好きな綾花ちゃんから離れぬ!そして我は、綾花ちゃんに抱きつくためなら、手段を選ばない!」

ぎこちない態度で拓也と元樹と昂を交互に見つめる綾花を尻目に、拓也と元樹は綾花から昂を引き離そうと必死になる。だが、昂は綾花にぎゅっとしがみついて離れようとしない。

結局、綾花達が会場入りできたのは、麻白の歌のお披露目会が開催される少し前のことだった。






「黒峯麻白さん、一言、お願いします!」

「度々、誘拐されていたというのは、本当ですか?」

「ふわわっ…‥…‥。あ、あの、誘拐は一度だけです」

会場入口で待ち構えていた報道陣の取材を受けて、綾花は居心地の悪さを感じて身じろぎする。

「あの個人戦の覇者である、布施尚之さんとともに、ゲーム対談情報ラジオ『プレラジ』に出演されていましたよね。どのような話をされたのでしょうか?」

「その、ゲームの対戦についての話をしました」

度重なる記者からの質問に、綾花は口元に手の甲を当て、妙に速い心拍数を落ち着けてから答えた。

報道陣からの質問攻めと、ひっきりなしに取られる写真と映像。

それは、麻白である綾花だけに留まらず、綾花に付き添っていた麻白のサポート役である拓也達にも向けられてしまう。

何とか取材を終えて、ようやく会場入りする頃には、綾花達はぐったりと疲れて果てていた。

「あっ…‥…‥」

豪華なシャンデリアの輝く会場に足を踏み入れて、ドリンクの入ったグラスを受付で受け取った綾花の目に入ったのは、会場の端のテーブルに立っているモーニングコートを着た一人の男性だった。

昂の父親だ。

会社のお披露目会として出席しているためか、同僚の仲間達と和気あいあいに話をしている。

「麻白、どうかしたのか?」

「麻白、何かあったのか?」

「えっ?」

ぼんやりとしているところに声をかけられ振り返ると、拓也と元樹がグラスを持ちながら不思議そうに眉根を寄せていた。

「ううん、何でもない。ただ、まいーー魔王の父さんを見たから」

「今回は、まいーーいや、魔王のおじさんにも協力を頼んでいるからな」

「『魔王の父さん』に、『魔王のおじさん』か。魔王という変なあだ名を付けたせいで、変な呼び方になってしまったな」

綾花の視線を追った先には、モーニングコートを着た一人の男性の姿があった。

相変わらず、昂の父親らしからぬ毅然とした雰囲気を醸し出す昂の父親をよそに、拓也と元樹はその呼び方に困って、苦々しい顔で吐き捨てるように告げる。

「でも、魔王は、自分のあだ名をすごく気に入っているみたいだよ」

綾花の言うとおり、昂が不遜な態度で腕を組みながら昂の父親に話しかけていた。

「父上、我のあだ名は魔王なのだ」

「そうか」

「父上、我は、このあだ名をすごく気に入っているのだ」

「そうか」

昂の父親のどこまでも打てば響くような返答に、拓也達は思わず、呆気に取られてしまう。

突然の展開についていけず、拓也達がなんとも言い難い渋い顔をしていると、昂は意を決したようにこう告げてきた。

「父上!我は考えたのだ!我が『魔王』なら、父上と母上は『超魔王』と『破壊神』であると!」

「確かにそうーー」

「ちょっと、あんた達、公共の場で何言ってんだい!」

全身から怒気を放ちながら、昂達がいるテーブルまで進み出た昂の母親は、昂と昂の父親を睨みすえる。その声はいっそ優しく響いた。

「ひいっ!は、母上、話を聞いてほしいのだ!我が考えに考え抜いた結果、母上は『破壊神』がふさわしいとーー」

「いや、昂のために思って」

「…‥…‥ほう、それで」

静かに告げられた昂の母親の言葉に、昂と昂の父親は恐怖のあまり、総毛立った。ふるふると恐ろしげに首を振る。

そんな中、綾花は昂達が言い争っているテーブルに視線を向けると、躊躇うように不安げな顔でつぶやいた。

「魔王、大丈夫かな」

「心配するな、麻白。あいつのことだから、すぐに立ち直っているだろう」

「…‥…‥相変わらず、すげえな」

昂の父親の溺愛ぶりを目の当たりにして、拓也と元樹は呆れたように眉根を寄せる。



こうして、不穏な空気を醸し出しながら、麻白の歌のお披露目会は開催されたのだった。

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― 新着の感想 ―
さすがですね。魔王、昴君的にはアリなのですね。そして、お父様とお母様のニックネームが大変なこととなってしまいました。彼らしさが存分に出ている場面でしたね。今回もとても面白かったです。
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