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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
分魂の儀式編
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番外編第五十八章 根本的に呆れるほどに愛している

「…‥…‥これは、車のヘッドライトの光?」

事務所の入口内に行き渡るヘッドライトの光を前にして、美里と警備員達はさすがにうろたえた。

「行くぞ、拓」

「ああ」

「…‥…‥っ、待ちなさい!」

美里と警備員達がヘッドライトの光に怯んでいるその隙に、拓也と元樹は急いで、昂の母親が運転しているワゴン車へと乗り込む。

ハンドルを握りしめた昂の母親が、拓也達に言い聞かせるようにして告げた。

「行くよ、みんな!しっかりつかまっているんだよ!」

「はい」

「お願いします」

昂の母親がそこまで告げると、拓也と元樹は視線を床に落としながら請う。そしてまだ、事務所のスタッフ達に追われている昂へと視線を向ける。

「こーー魔王、行くよ!」

「うむ。分かったのだ、母上!」

昂の母親の呼びかけに応えるように、事務所のスタッフ達に追われていた昂は魔術を使うために片手を掲げる。

「むっ!」

そして、咄嗟に使われた昂の魔術によって、昂は颯爽と、ワゴン車の後部座席へと移動していた。

「「ーーなっ?」」

不可解な現象と不自然な少年達の行動に、美里達、そして事務所のスタッフ達は思わず目を見開く。

「ーーじゃあ、行くよ!」

その言葉が合図だったように、昂の母親がアクセルを踏み込む。

「なっ!」

「うわっ!」

猛然と走り出したワゴン車に翻弄される警備員達を尻目に、拓也達はその場を後にするのだった。






なし崩し的に、拓也達がボーカルスクールの事務所から脱出した頃ーー。

綾花達は、玄の父親達を尾行し、マンションの地下にある広間を訪れていた。

床には、四つの星が描きこまれた巨大な魔法陣、周囲には、アロマの香りを漂わせる装置ーーディフューザーが置いてある。

広間に入った1年C組の担任は、ここまで来るまでに通った、数々の強固なセキュリティシステムを見て、改めてここが国内有数の超高級マンションであるということを認識する。

前を歩く玄の父親達を正面に見据えつつ、綾花はあくまでも真剣な表情で訊いた。

『先生、これからどうするんだ?』

『先程、舞波さんから、井上達を救出することができたという連絡があった。このまま、地下駐車場にーー』


「何もしなくていい」


聞き覚えのあるその声は、綾花達にとって、全く予想だにしない言葉だった。

「君達が魔術で姿を消して、私達をつけてきていることは、前々から気づいていた」

玄の父親の付け加えられた言葉にーー込められた感情に、綾花達は再度、戦慄する。

「…‥…‥そうだろう?宮迫琴音さん、いや、麻白」

『『ーーっ』』

麻白、その単語が出た瞬間、綾花達の表情があからさまに強ばった。

玄の父親がそう言い放つのと同時に、控えていた警備員達は姿が見えないはずの綾花達との距離を一気に詰めていく。

魔術で姿を消し、また、昂のクラスメイトに変装しているのにも関わらず、玄の父親は間一髪入れず、綾花の正体を見極めてくる。

ーーやはり、黒峯さんは、舞波のように魔術を使うことはできないが、舞波すらも知らない魔術の知識を持ち合わせているようだ。

姿が見えないのにも関わらず、あっさりと自分達を取り囲んだ警備員達に、綾花とともに、『姿を消す魔術』を解いた1年C組の担任は苦虫を噛み潰したような顔で辟易する。

「結論から言わせてもらう。君には、これから麻白として生きてもらおう」

ぽつりぽつりと紡がれる玄の父親の意味深な言葉に、綾花は思わず、目を見開いた。

「で、でも、俺は麻白ではないです」

「君の意思は関係ない。私は、君達が後をつけてきているのを分かった上で、あえて気づかないふりをしていた。そうすれば、君達を魔術の知識が施された、この魔法陣がある広間におびき寄せられると思ったからだ」

動揺しつつも、綾花は必死の表情で言い募る。

だが、綾花の言葉には答えず、玄の父親は意気揚々と嬉しそうに、だが明らかに不可解なことを告げた。

綾花の理解が及ばない言葉。

だが、問題はそれではない。

もっと根本的な疑問をぶつける必要がある。

「それって、どういうーー」

「すぐに分かる」

玄の父親が綾花の言葉を遮った瞬間、床に描かれている魔法陣が光り、それと同時に、麻白に関する膨大な記憶が、綾花の頭に洪水のように流れ込んできた。

進と同じようにゲーム好きで、歌が下手なのに、玄と大輝には見栄を張ってしまう。

綾花と同じように寂しがりやで、幼い頃はよく泣いていた。

それは、麻白が生まれてから死ぬまでの、綾花の知らない麻白の人生。

綾花達も、麻白のアルバム作りのために、こっそりと写真を集めていた昂さえも知り得なかったはずの不可解で不自然な麻白の記憶。

徐々に綾花の中で、直前に玄の父親が口にした言葉の謎が結びついて形を成していく。

もしかして、この魔法陣の影響で、あたしのーー麻白の記憶が流れ込んできているの?

「あたし、あたしは…‥…‥」

きりきりと痛む頭を押さえながら、綾花は必死に自分自身を保とうとする。

「…‥…‥と、父さん」

しかし、徐々に半ば操られるような状態で、綾花はまるで自分自身が麻白であるかのように、玄の父親に向かって、手を伸ばしかけようとしたーー。


「宮迫!」


1年C組の担任は咄嗟に、綾花の手を取って、自身のもとへと強引に引っ張った。

気遣うように顔を覗き込んできた1年C組の担任を見て、綾花ははっとしたように現実に焦点を結ぶ。

「ーーううっ、せ、先生」

「…‥…‥っ」

口振りを戻した綾花をかばうようにして立った1年C組の担任を見て、玄の父親は不服そうにため息を挟む。

「やはり、四人分、生きているとはいえ、本来の宮迫琴音さんの意識が強いようだな」

「…‥…‥父さん」

1年C組の担任に支えられながらも、綾花は頭を押さえながら、思いつめた表情で玄の父親を見つめている。

綾花のその反応に、玄の父親は満足そうに頷くと淡々と言う。

「だが、麻白の記憶を完全に取り戻させることには成功したようだ。あとは、麻白を、君達から取り戻すとしよう」

「宮迫を渡すわけにはいかない!」

冷たく言い切った玄の父親に対して、1年C組の担任は綾花の前に出ると、彼女を護るために身構える。

「…‥…‥と、父さん。あ、あたしは、ううん、私は宮迫琴音、だよ…‥…‥」

玄の父親に訴えるように言いながらも、途中で言葉を詰まらせた綾花は顔を真っ赤に染め、もういっそ泣き出しそうだった。

切羽詰まったような表情の綾花を見て、咄嗟に先程の出来事が、1年C組の担任の頭を過ぎる。

今の瀬生は、麻白としての記憶を無理やり、施されてしまった影響で、瀬生と上岡としての記憶とは別に、麻白としての記憶が重なっている。

麻白は、瀬生の心に宿っているに過ぎない。

だけど言い換えれば、記憶を完全に取り戻した麻白の心は、上岡と同じように、いい意味でも悪い意味でも、瀬生の心に影響を与えてしまうということだ。

傷ついた表情を浮かべ、顔を伏せた綾花の様子を見かねた1年C組の担任が、抑揚のない口調で言った。

「宮迫、ここから脱出する」

「…‥…‥先生!」

1年C組の担任は魔法陣から離れるために、綾花の腕を掴むと、滑るような足運びで警備員達を振り払い、その場を後にしたのだった。

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― 新着の感想 ―
綾花なのだから、そもそも他人であるわけないのに、それが成立しているのだから魔術というのは凄いですね。昴のはただのエスカレートしたストーカーでしたが、黒峯パパのは妄執というか凄い執念を感じます。今回もと…
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