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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
分魂の儀式編
101/446

番外編第四十八章 根本的に夢から醒めても

ーー玄の父親達が乗った車が動き始めたその瞬間、彼女は、彼らの目の前から姿を消した。


「ーーっ」

「麻白!」

「麻白が消えた?」

突如、起こった不可解な現象に、玄の父親達は眉をひそめ、玄と大輝は思わず目を見開く。

玄の父親は車のオートロックが完全に閉まっていることを確認すると、先程まで麻白がいた方へと視線を向けた。

一瞬前まで確かにそこに座っていたはずの麻白は、影も形もなくなっていた。

「…‥…‥魔術、か」

麻白が消えた事情を察して、玄の父親は忌々しそうにつぶやいた。

事情を察すると同時に、助手席に座っていた玄の父親は、颯爽と玄達が座っている後部座席へと視線を向ける。そして、玄と大輝に事の次第を説明し始めた。

「…‥…‥どうやら、魔術の効果がーー麻白の生き返っていられる時間が過ぎてしまったようだな」

「…‥…‥麻白」

「ーーっ」

玄と大輝は、玄の父親からその事実を聞かされて驚愕する。

震える玄と大輝の言葉に、両拳をぎゅっと握りしめた玄の父親は何も言えずに俯いてしまう。

だが、玄の父親はすぐに携帯を取り出すと、玄と大輝に気づかれないように社長室に残っていた秘書とメールで連絡を取り始める。

『黒コートの少年達がまだ、大会会場の近くにいるはずだ。君の方で、即急に取り押さえるように指示してくれないか。そして、玄と大輝くんの、雅山あかりの兄がいる高校への転校の手続きを急いでほしい』

そうメールを入れて携帯を切ると、周囲に目を配りつつ、玄の父親は厳かな口調で車を運転していた運転手に指示を告げた。

「このまま、家に戻る」

「かしこまりました」

あまりに自然かつ素早い反応をした玄の父親の指示のもと、玄の父親達が乗った車は速やかにその場を後にしたのだった。






「我の魔術で再び、黒峯蓮馬を出し抜いてやったのだ!」

綾花達を『対象の相手の元に移動できる魔術』で救い出した昂は、ワゴン車内で誇らしげにそう言い放った。

「上手くいったな」

狙いどおり、綾花と麻白の姿をした綾花の分身体を入れ替わらせることに成功した元樹は、決然とした表情で言った。

だが、綾花の隣に座っていた拓也は、大会会場がある方向に視線を向けると、顔を曇らせて言う。

「ああ。だけど、今回もやばかったな。警備員達に、舞波を捕らえられた時は、本当に大会会場から出られないかと思った」

「むっ、我は悪くない!そもそも、大会スタッフ達が、我に事情聴取というものをおこなおうとするのが悪いのだ!」

拓也の言葉を聞きつけて、昂はなんでもないことのようにさらりと答えてみせた。

「…‥…‥すげえ、屁理屈だな」

「事実を言ったまでだ」

昂が至極真面目な表情でそう言ってのけると、元樹は思わず呆気に取られてしまう。

「舞波」

「むっ?」

今まで綾花達の会話を傍観していた1年C組の担任から言葉を投げかけられて、昂は不遜な態度で腕を組むと綾花達から1年C組の担任へと視線を向ける。

その態度に、1年C組の担任は額に手を当ててため息をつくと朗らかにこう言った。

「話は終わったな。では、この黒峯さん達の包囲網から抜け出し、無事に家に戻った後は再び、夏休みの宿題と課題集をしてもらうからそのつもりでな」

「我は納得いかぬ!」

あくまでも事実として突きつけられた1年C組の担任の言葉に、昂は両拳を振り上げて憤慨した。

「大会前までうんざりとするほど、させられていたというのに、何故、この我がまた、夏休みの宿題と課題集をしなくてはならんのだ!」

「補習授業をサボったからだ!」

昂の抗議に、1年C組の担任は不愉快そうに言葉を返した。

打てば響くような返答に、昂が思わず、たじろいていると、助手席に座っていた1年C組の担任は気を取り直したように昂の母親に向き直り、話を切り出してきた。

「急で申し訳ないのですが、舞波の家に戻った後、舞波が逃げ出してしまう前に改めて、舞波の家庭訪問をおこなわせて頂こうと思っています」

「先生、よろしくお願いします」

1年C組の担任があくまでも確定事項として淡々と告げると、昂の母親も単なる事実の記載を読み上げるかのような、低く冷たい声で答える。

「先生、母上、あんまりではないか~!」

その言葉に反応して、昂は悲愴な表情で訴えかけるように、1年C組の担任と昂の母親を見る。

だが、昂の悲痛な訴えも虚しく、ハンドルを握りしめた昂の母親が、綾花達に言い聞かせるようにして告げた。

「じゃあ、行くよ、みんな!しっかり、つかまっているんだよ!」

「ああ」

「はい、お願いします」

「お願いします」

昂の母親がそこまで告げると、綾花達は視線を床に落としながら請う。

「ーーじゃあ、行くよ!」

その言葉が合図だったように、昂の母親がアクセルを踏み込む。

しかし、猛然と走り出すワゴン車が、大会会場の駐車場から出てくるのを見計らっていたように、綾花達が乗っているワゴン車は、数十キロ先のコンビニの近くで待ち構えていた警備員達が乗った複数の車によって、あっさりと包囲されてしまう。

元樹は、包囲されてしまったことに、不満そうな前の席の拓也を横目に見ながら、ため息をついて言った。

「魔術の効果がきれて、麻白は消えてしまったように見せかけることが出来たことだし、とにかく、今はここから離脱しよう」

言うが早いが、元樹は隣の席の昂へと視線を向ける。

「むっ、仕方ない。 夏休みの宿題と課題集ーーそして、先生の家庭訪問など、受けたくはないのだが、綾花ちゃんに夏休みの間、ずっと勉強を教えてもらうためだ」

元樹の声に応えるように、ワゴン車に乗っている昂は、魔術を使うために片手を掲げる。

「むっ!」

「ーーおい、昂!夏休みの間、ずっとかよ!」

そして、咄嗟に使われた昂の魔術によって、拓也達は驚きの声を上げる綾花とともに、警備員達が乗った車に囲まれたコンビニの近くの道路から、逃げるようにして消えていったのだった。






「うむ。それにしても、我のクラスメイトに変装した綾花ちゃんは可愛いのだ!」

魔術で警備員達の追手を振り切った後、綾花の姿をまじまじと眺めていた昂が、拓也と元樹が先に告げようとしていた言葉をあっさりと口にして目を輝かせた。

綾花は水色のチュニックに、朱色のフレアスカートを合わせて着ていた。

胸元には赤いブローチととも、黄色のリボンが結ばれている。

そして、髪はいつものサイドテールではなく、ツインテールに結わえていた。

「綾花ちゃん。是非とも、このまま、二学期から我のクラスメイトになってほしいのだ!」

昂が力強くそう力説すると、綾花は訝しげに眉根を寄せる。

「あのな、俺と昂は、もう学年が違うだろう」

腰に手を当ててきっぱりと言い切った綾花に、昂は不満そうな声でさらに切り伏せた。

「綾花ちゃんが我のクラスメイトに変装したのだから、つまり、もう綾花ちゃんは我のクラスメイトだ!」

「なっーー」

「おい、勝手なことを言うなよな」

あまりにも勝手極まる昂の言い草に、拓也と元樹は思わず、不満を口にする。

それは、綾花に進が憑依して以来、すっかり日常茶飯事と化したおなじみの光景ーー。

「…‥…‥変わらないな」

綾花は、新幹線に乗るためにワゴン車から降りる。

しかし、いつもの喧騒に耳を傾けながら、ぽつりとつぶやいた綾花の声は硬く、どこかほんの少しだけ寂しげだった。

綾花の言葉を聞きとめて、こっそりとため息をつくと、元樹は吹っ切れたように綾花に話しかけてきた。

「いや、変わっているだろう」

「うん?」

元樹の意味深な言葉に、綾花は思わず、きょとんとした。

ふわりと翻るツインテールの黒髪。

いつもの綾花によく似た顔が、不思議そうな表情で小首を傾げる。


「俺と麻白の姿をした綾の分身体が、付き合い始めたんだからな」


「ーーっ、ううっ…‥…‥」

元樹の指摘に、綾花の表情がいつもの柔らかなーーでも、困ったような表情に戻る。

「だからさ、心配するなよ、綾。変わるものがあるように、変わらないものだってある。『家族に会いたい』、この望みは、上岡の望みであって、麻白の望みであってーーそして、もう綾自身の願いとして引き継がれているんだからな」

「…‥…‥ありがとう、元樹くん」

「むっ、貴様!綾花ちゃんとあかりちゃん、そして、麻白ちゃんは我の婚約者ではないか!我は断じて、そのようなことは認めないのだーー!!」

元樹の言葉に、綾花は嬉しそうに花咲くような笑みを浮かべる。

だが、そんな綾花達を尻目に、昂は頭を抱えて虚を突かれたように絶叫していたのだった。

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― 新着の感想 ―
元樹がどさくさに紛れて妙な既成事実を作ったせいで、そういえば人間関係が更にややこしくなったのですよね。分身体とでも、一歩前進と思える元樹もたくましいですね。一旦の大団円感に心が和みました。今回もとても…
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