03:イツワリオウジ
私は兄が嫌い。でも、自分はもっと嫌い。
私は女として、第1王女としてこのピアノリア家に生まれてきた。
はずだった。
私は物心つく前から、第2王子として教育を受けてきた。国政は勿論、剣術、体術、馬術を習ってきた。どれもこれも、第1王子の影として。
父は男の子が2人欲しかったのだ。しかし、生まれた2番目は女。そこで、私を第2王子として育て、ニコがもしもの時私が代役になるという事だった。
兄であるニコは出来が良かった。
文武両道で、この国を将来任せても何の問題もないと、父に言われていた。私は、そんな兄を見習えと言われていた。母は私の事をいつも申し訳なさそうに見ていた。だからかな、その分ニコより甘かった気がするのは。
何でもできるニコと女であるにもかかわらず王子になった私。そんな私でも、王子をしているとこの国を私が治めてみたいと思うようになった。王子として生きているせいだと思う。
だから、ニコに嫉妬していたし、ニコが恨めしかった。
「ニコ様がいなくなりました……!」
母の葬儀の日、ニコは突然姿を消した。
私は信じられなかった。皆から期待され、第1王子というものを持っていながらなぜ逃げ出すのだろうか。私のように嘘ではない、本当の王子であるのにも関わらず、この城を、国を捨てるなど。
それから一層私は王子としての教育を受けた。
「ニコ様はこのようにしていらっしゃいましたよ?」
「リュエル殿下、ニコ様ならば……」
「ここはニコ様でしたら……」
いつだって、ニコ。ニコ、ニコ、ニコ……。
私はニコの代わり。ニコにもなれないし、本物の王子にもなれない。でも、私の居場所はここだけ。父にそう言いつけられた、第2王子というものが私の居場所だった。
もしかしたら、私は父に認めてもらいたかったのかもしれない。第2王子として。いえ、リュエルとして。
ニコ以上に出来る子だと思って欲しかった。自分を王子にした張本人だが、私には父でもあった。ニコと同じように見て欲しかった。
だから、父がどれほど酷い政治を行っていたか私は知ろうとしなかった。
今考えれば、ニコが正しかったのかもしれない。それでも、その頃の私にとってニコは悪だった。逃げ出した、ただの臆病者。
でも、そんな臆病者がこの国を変えてしまった。
父は国王を退き、ニコが国王となった。いろいろ反対はあったけど、それでも、ニコは揺るぐことはなかった。国民からの支持もあり、貴族を黙らせることも出来た。
そして、私は、私になった。
「リュエル、もう、王子でなくていい。今まで、悪かったな。お前の事、ちゃんと理解してなかった」
ごたごたが落ち着いてニコと2人だけで話をした。始めはいつ殴ってやろうかと思ったが、その言葉で思いとどまった。
「私は、ニコが大嫌い……」
「俺も俺が嫌いだ。逃げて、迷って、ぐずぐずした俺が。俺は間違っていた。ここから逃げるべきではなかったんだ。俺は父さんの間違いをここで変えるべきだった。それに、お前の事も知っておきながら、王子として、男として過ごさせてしまった」
ニコの表情は申し訳なさそうだった。ああ、母と同じ顔をしている。母は私の事助けたかったのだろうか。でも、無理だったから、あんな顔をしていたのだろうか。
「リュエル、王子にしたのは父さんだ、でも、元を辿れば俺がいる。許してくれなんて言わない。だから、お前は王女として、リュエルとして生きて欲しい」
「リュエルとして……?」
ニコは笑った。
「今までのお前は第2王子という要らない仮面を被っていた。でも、それはもういらない。そのままで生きていい。リュエル、リュエル・ピアノリアはこの国の第1王女で、俺の妹だ」
私はニコが嫌いだった。
全部が分かった。ニコだって苦しんでいた事が。でも、どうしようも出来なくて、城を出たんだ。その選択は良かったとは言えないけれど、でも、こうやって戻ってきた。戻ってきてとんでもない事をしてしまった。それはきっと正しかったと私は思う。
「私は何でも出来るあなたに嫉妬していた。でも、今は誇らしく思うかな……?」
「……え」
「あなた、ニコ・ピアノリアはこの国の第1王子で、私の兄って事よ」
笑えたかな?
「話はこれで終わりね。別に、許したわけじゃないからね」
「……そうだな」
私は立ち上がってその場から逃げるように出ていった。出ていかなければいけない理由があった。
だって、王女が人前で泣くなんて、出来ないじゃない?
私の居場所はいつだってそこにあったし、私を待っていた。私が気がつかないだけで、居場所なんてとっくにあった。
私はもう自分を偽らなくていいんだ。
国中がパニックになったのは想定内だった。
今まで第2王子と名乗っていたリュエル・ピアノリア。しかし、実は女だったという事は相当の衝撃を与えた。でも、本当の事を分かってもらえてよかったと思う。最初は戸惑うと思うけど、きっとそれも時間の問題。
「リュエル様、お客様がお見えになりました」
「ええ」
姿を現したのは、1人の貴族。
私は姿勢よく、おしとやかにふるまう。
「初めまして、第1王女のリュエル・ピアノリアです」
リュエルの話は本編でちゃんと書きたかったのですが、力量不足で……。
ちなみに、ジュラはリュエルの事を「リュエル様」としか言わないのは彼が察しがいいという事を意味します。たまに王子呼びしてますが、大半を様付けで呼んでいるのはそのためです。(あれ、でも、リュエルの事あんまり呼んでない…?)
ジュラはさすがですね(まあ、いいか。褒められる時に褒めておかねば)。
本編でいきなり最後のほうリュエルは女でした!
ってなってしまい申し訳ないです。理由はここです……!
それでは、またお会いしましょう。
2014/10 秋桜 空