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01:ホットミルク

本編5話後です。

 風邪はいやだけど、ちょっと良いかなって思っちゃったんだ。




 部屋の外から見えるのは、白。

 その白で反射して、窓からきらきらと朝日が差し込む。日が射してはいるのだが、やっぱり冬は寒い。朝は昼間に比べてもっと寒いと思う。


 でも、私は全然寒くない。それより、熱い。


 それに身体がだるくて、動きたくもなかった。だから私はベッドにうずくまっているしかなかった。

 そんな様子を見て、ニコは私のベッドの側まで来て心配そうにしていた。


「あー、熱があるな……」

 私のおでこに手を当てたニコは苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。

「どうしてニコがそんな顔するの?」

「いや、明らかに昨日のせいだろう」


  ……昨日。昨日した事と言えば、雪に寝っ転がったり、雪合戦したり、一緒に星を見たり……。そういえば、寒かった。

「悪かった。今日はおとなしく寝ていろ」

 ニコはそれだけ言うと側を離れて行こうとした。向けられた背中が寂しくて、手を伸ばす。


「……どうした?」

「やだ、ここにいて」


 別に遠くに行くとは言ってなかったけれど、少し離れただけでも心が不安になる。いつもはこんな事全然感じなかったのに。今日はどうしてこんな事思うのかな。

 一瞬驚いた顔をしていたけど、ニコは私の手を取って、優しく布団の中にしまってしまった。


「何か食べるもの作りに行くだけだ。大丈夫だ」

 そして、私の手を取っていたニコの手が頭の上にポンポンと置かれる。そのまましばらく一定の心地いいリズムで頭を撫でられると気持ちがふわふわとして来て瞼が重くなった。


「おやすみ」


 遠くの方から聞こえたニコの声はとても優しかった。




 トントンという音で目が覚めるといつの間にか頭の上には冷たいものが乗っていて朝よりも気分は良かった。

 その音は台所から聞こえてきている。ニコが何かを作っているんだろうな、とまだふわふわする頭で考えた。


「……なんだ、目が覚めたのか?」

 横を見ると、作り終えたのかニコがいた。

 ニコの手には私がいつも使う薄ピンク色の皿があった。その皿からは湯気が出ている。ふんわりと優しい香りもする。


「お粥、食べるか?」

「……うん」

 少しだるさのとれた身体を上半身だけむくりと起こす。ニコはベッドの側に椅子を持ってきてそこに腰かけた。


「ふーふー、……口開けろ」

 ニコに言われた通りに口を開けると、お粥がスプーンによって運ばれてきた。私はそれをぱくんと食べる。柔らかいお米、温かく、噛んでいるとほんのり広がる甘い感じ。


「おいしい」

「そうか。じゃ、もう一口」


 そんな調子でぱくぱくと食べ進めていたらいつの間にか皿は空っぽになっていた。

「全部食べられたな。あとは寝るだけだ」

 横になって、ニコが布団をかけてくれたので私は寝る体制にはいる。頭にはしっかりと中身を詰め替えた冷たいものが乗っている。ニコは皿を片づけにまた台所に行ってしまった。


 ニコには寝ていろと言われたのだが、眠くなかったのでぼーっと天井を見つめる。台所からは水が流れる音、皿が置かれる音、ニコの足音が聞こえる。

 水の音が止んだから、洗い物が終わったみたい。そして、近づいてくる足音が嬉しい。


「寝ていろ」

「まだ、眠たくない」

 私が横を向くとニコは椅子に座っていて、不機嫌そうな顔をしていた。いつも表情は変わらないけど、雰囲気で何となく不機嫌な感じがする。


「寝れば早く治る」

「何かお話して?」

 私がそういうとニコの眉間には皺ができる。それでも、今日のニコはいつものニコと違って嫌な顔をしつつも私の言ったことをちゃんと考えてくれていると思う。


「……何の話がいいんだ?」

 ほら、こんな事普段はありえないもの。これも、風邪のおかげなのかな。


「ニコの話」

「俺の話なんて聞いてどうするんだよ。やめとけ」

 しばらく無言のにらみ合いが続く。


「……」

「……」


「……少しだけだからな」

「うん」

 ニコが折れてくれた。なんだか勝った気分だ。


「俺は小さい頃あんまり家の手伝いをしなかった。だから、ここに1人で暮らすことになってからは大変な思いをした。まず、食べ物を作らないといけないし、自分で食事を作らないといけない。それに洗濯や掃除もだ。今まで自分がどれだけ甘えていたか分かった」


「ニコは何にもできなかったの?」

「……まあ、な。作物はジュラがいたからだいたい何とか出来ていたけど、料理は全然だったな」

「いがーい」

「煮過ぎて鍋を真っ黒けにした。それに、何度も包丁で指切ったしな」


「そのニコ見たかったな」

 私はニコが鍋を真っ黒にして慌てたり、包丁で指を切って落ち込んだりしている姿を勝手に想像して、勝手に笑った。

「……もういいだろ、寝ろ」

 私がくすくす笑っているのを見てニコはまた不機嫌そうだ。


「……眠くないのに?」

 実際眠くはない。だから、寝ろと言われても少し困ってしまうのだ。それに、不機嫌だけどそんなニコを見ているのが楽しい。


「分かった」

 と、言うとニコは立ち上がって奥へと行ってしまう。そして、5分くらいですぐに戻ってきた。


 その手にはコップが2つ。そのうちの1つを差し出され、私はまた上半身を起こす。

 手に取ったコップの中は湯気の立つ、甘い香りのミルクだった。

「それ飲めば眠くなる」

 私はニコとコップを交互に見た。本当にこれを飲めば眠くなるだろうか。


 何か騙されているような気がするけれど、甘い香りに負けて、ミルクを口に含む。口の中に広がったのは甘いはちみつの味。

 今まで飲んだことのないおいしいミルクに驚いてニコを見つめた。


「冷めるぞ」

 それだけ言ってニコもミルクを飲んでいた。私も冷めないうちに少しずつその甘いミルクを口に含んだ。

 その様子を見ていたニコは少し笑っていた気がするのだけれど、それは気のせいなのだろうか。



 コップの中身が空になって、布団に入ると私はたちまち寝てしまった。 やっぱり、ニコには敵わない。











 そんな、温かく白い季節の出来事は私の大切な記憶(おもいで)になった。





番外編第1話でした。


それでは、番外編はゆっくーり更新するので

よろしくお願いします。

2014/9 秋桜(あきざくら) (くう)

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