キャラ設定の設定が強制って、どうゆうことですか!?(仮)
筆者のスーパーゴールデンタイム中に、駆け足でかいた作品です。なので、いろいろとツッコミどころが満載ですが、暖かい目でスルーして頂けたら幸いです。
※()は“私”の言いたいことです。
辺り一面をモンスターに囲まれまさに絶体絶命な状態のなか、「アルストリア王国物語」の主人公である「ザック・シュレイザー」は“私”に尋ねた。
「…アッシュ、少しでいい――奴らを引き付けられるか?詠唱が終わるまでだ。一気に蹴散らす。」
“私”こと「アシュレイド・アイザンクルス」は応えた。
「――任せろ。」
(嫌に決まってんだろ、ざけんな主人公!!普通逆だろ、逆!なんで私がお前を守らにゃあかんのよ。一人で果てろ!)
************「アルストリア王国物語」という若い世代から絶大な人気を誇るRPGゲームがある。その人気っぷりは凄まじく、知らない人はモグリだと言われるほどだ。
何故そこまで人気なのかというと世界観やストーリーが良いのはもちろんのこと、今話題の人気イラストレーターによるキャラの美しさが男性だけでなく女性のハートをわしづかみにしたことが秘訣だろう。
――事実、私もそうでした。
中でも絶大な人気を誇ったのは、「アシュレイド・アイザンクルス」と呼ばれる女剣士である。彼女は能力値が高いうえに、希少価値のある雷属性であり、ある一定条件をクリアしないと仲間にすることができない所謂レアキャラで、なおかつ「アルストリア王国物語」のパーティーキャラで唯一の“平凡顔”であった。その理由は、製作者によると「美男美女だけでは飽きる」とのことだそうだ。確かに、彼女の人気の理由にそれが含まれるのは否め(いなめ)ないが、一番は彼女自身の人格であろう。
彼女の普段無口なのに言う時はバシッと決めるかっこよさと意外に押しに弱く頼られると断れないというギャップが男性だけでなく女性の心を掴んだのだ。
――彼女らしい小さな微笑み(ほほえみ)は、鼻血ものでした。
そんな男女ともに大人気な彼女によもや私ー平凡顔と押しに弱く頼られると断れない性格以外共通点がなく、口下手どころかわりとおしゃべりであるーが‘成り代わる’とは誰も思わないことでしょう。――実際私も思いませんでした。
************
“私”という人格が「アシュレイド・アイザンクルス」ー面倒臭いのでここからは「アッシュ」でーに成り代わったのは、彼女が15歳のときのことでした。
燃え盛る炎のなか呆然と立ち尽くすアッシュに私は成り代わっていたのです。
私は何がなんだがわかりませんでした。だってそうでしょう。ついさっきまで普通に大学の講義を受けてたのに、瞬きしたとたん周りは火の海ですよ。到底信じられません。ただただ火が熱いなんてやけにリアルな夢だなあって思っていました。
――実際に“私”(inアッシュ)が魔物に襲われるまでは…
そいつは炎の中からいきなり現れ、私に向かって襲い掛かって来ました。
そいつはまさしく“魔物”と呼ばれるものでした。外見は狼の様でしたが、そいつには目玉が4つあったのです。その4つの目全てが、立ち尽くす“私”をとらえていました。
――あぁ、喰われる。
ただ、その思いだけが私の心に過ぎりました。
―ブシュッ
――ッグォ
ですが次の瞬間、私の視界は何かに遮られていて、近くで何かが噴き出す鈍い音と苦しそうに吐き出された声を聞きました。私は自分の身体が何か暖かいものに覆われているのを感じ、おそるおそる顔をあげました。
そして私は、自分を魔物から庇うように抱きしめ、自身の背に魔物の牙が深く突き刺さっている見目麗しい青年と目が合いました。
そのとたん私の中で‘アッシュ’としてのこれまでの記憶が、私に押し寄せてきました。
「…っあぁ、あっ…、あぁあっっ」
「っアッシュ、…ぉの…っ馬鹿野郎…がぁっ!うぐっ。な…んで、んなところで…はぁっ、突っ立て、るんだ、よぉ!逃げろ!ってぇ、言った、だろうがぁ!!」
――ああ、彼は、彼は“私”の!!
「兄さ
―ブツン
―ゴプッ
ん、…えっ?」
私が‘アッシュ’と完全に同化し、青年を兄と認識したとたん、何かが噛みちぎられる音がし、兄は血を吐き出しながら私の方へ倒れてきました。
「にい、さん…?」
倒れてきた兄の顔を覗き込むと、兄の瞳は光を失っていました。
「ああ、あぁっ!やっ、やっと…やっと思い出したのにぃ!!どうしてぇっ!!!」
―ガルルゥ
その鳴き声を聞いて、私は動かなくなった兄をきつく抱きしめ、口から血を滴らせている魔物に憎悪の眼差しをおくりました。
それを受け、私目掛けて再度飛び掛かってくる魔物。
私は武器も何も無い状態でしたが、魔物に対する憎しみと仇をとりたい一心で魔物と向き合いました。その時の私の心には魔物に対する恐怖心は全くなく、むしろこいつだけは何としても“私”が殺らなけばならない、と使命感にも似た思いに突き動かされていました。
――決着は、一瞬で着きました。
―ドサリッ
と、音を立てて魔物は倒れました。
魔物はまるで雷に打たれたかのようにプスプスと焼け焦げていました。
魔物が倒れたのを見届けると同時に、私の体力が急激に削り取られていくのを感じました。
―ジャリッ
不意に、誰かが近づいてくる気配を感じ、私は腕の中で冷たくなった兄をギュッと抱きしめ、足音がなった方を警戒しました。
現れたのは、黒いフードを被った屈強な体つきをした男でした。
男は、私達と魔物を見て何かを悟ったように、私の方を見ました。
「…小娘、お前雷属性か。」
疑問形ではなく、確信を持って言われた言葉に、私は意味が分からず戸惑いました。
そんな私の様子を見て、男は
「無自覚か…。」
と呟き、私達の方へ歩みよって来たのです。
とたん私は、兄を守る腕の力を強め、警戒するように後退りました。ですが、悔しいことに私の体力は限界で、男を威嚇するように睨みつけるだけしかできず、ついに男は私達の目の前まで来てしまいました。
「そう警戒するな、小娘。俺は、お前を…、いやお前達をどうこうするつもりない。ただ、この辺りで強い魔物の気配がしたから気になったのだ。
俺がたどり着いた時には、ここら一体は魔物にやられ壊滅状態。魔物達を殲滅しながら生存者を探していたところで、小娘、お前の絶叫が聞こえたのだ。せめてお前だけでも救おう、と急いで駆け付けた時には既に遅く、俺が見たのは、魔物がまさにお前に飛び掛かろうとしていたところだった。属性を持たぬ一般人は、魔物に抵抗する術がなく、一方的に魔物に屠られる運命にある。だが、お前には雷属性の素質があったようだな。それも、強大な。」
そこまで言って、男は私と目線を合わせるように前屈みになり、私の方へ右手を伸ばしてきたのです。
私は、とっさに顔を俯かせ、ギュッと目をつむりました。「だが、そのおかげでお前は助かった。…わかっていないようだが、あの魔物を殺ったのは小娘、お前だ。凄まじい雷を放って、一撃で倒したのだ。
……、お前だけでも生きていてくれてよかった。兄貴を救えなくて、済まない。」
男は最後の言葉を本当に悔しそうに言いながら、私を労るように優しく、二、三度頭を撫でました。
その行為によって、今までの緊張感が緩んだのか、私の両目から涙がポロポロと流れ、しばらく止まりませんでした。
その間も、男は黙ってただただ私の頭を撫でてくれていました。
しばらくして、涙が少量になりだんだんと落ち着き始めるころ、私は頭をそろそろとあげ、男にもう大丈夫だよという意志表示を行いました。男はそれを悟ったようで、最後に頭を数回撫でて私の頭から手を引きました。
―その時、ちょっとその手を名残惜しく感じたのは内緒です。
「小娘、お前はこの先行くあてはあるのか?」
男の言葉に私は首を横に振りました。これまでの‘アッシュ’の記憶では、兄と二人で各地を転々としながら、行商を行って細々と生きてきたからです。――それなのに、私のせいで兄は・・・
兄の最後を思い出し、自責の念に苛まれ(さいな)るかのように心が暗くなっていきます。
「そうか。…酷なことを言うが小娘、魔物達の狙いはお前だ。」さっきまでの優しさが嘘のように、男は残酷にも知りたくも無かったことを語り、私は先程まで男の優しさに触れていた分、余計にその言葉が突き刺さりました。
まだ私に何かを言おうとする男から逃れる為に、私は俯き、疲労しきった身体を最大限動かして男から後退ろうとしました。
ですが、私の行動など男にはお見通しだったようで、男は私の腕を掴かみ、ぐいっと勢いよく自分の方へ引き寄せ、逃れることは許さないと態度で示すかのように、私の顎を指で持ち上げ、無理矢理目線を合わせました。
――あれ…?
フードで見えていなかったエメラルドを連想させる男の深緑の瞳を見た時、“私”はこの場面に既視感を覚えました。
「覚えておけ、小娘。魔物にとって属性を持つ者は、最大の驚異であると同時に、最大の獲物でもあるのだ。属性持ちの血肉は奴らの力を強くするからな。それゆえに、お前はこれからも魔物に狙われるだろう。」
私が感じた既視感は、男の言葉によってだんだんと確信を得ていきます。
――この場面を、私は“私”であった時に見ている。このあと、確かアッシュは…
「…もし、その話が本当なら、私は、私はこれからどうやって生きれば良いんですか……」
“私”の意識とは関係無く、操られるかのように、口が勝手にアッシュが言う台詞を悲嘆の念を込めていいました。
(…えっ!?なっ、なんで、口が勝手に…どうゆうこと?)
――っっ!?声が出せない!!“私”の動揺はアッシュに反映されること無く、シナリオに沿って話は続きます。
「…属性持ちの生き方は二つ。神殿に保護されるか、自らの力を最大限活用するためギルドに入り、魔物を倒すかだ。もっとも、女のお前に後者は薦めしないがな…。神殿には俺が責任を持って連れていってやるから安心しろ。」
――ああ、やはりこの場面は…
アッシュは男のフードを握りしめ、明確な意志を持って男の目を見てはっきりといいました。
「私を、貴方の弟子にしてください!」
「…………」
男は黙ったまま、私を見つめてきました。
「……俺はお前を女だからといって、手加減はしない。女のお前にとって酷な道になるぞ。……それでもいいのか。」―コクンッ
念を押すように言う男に私は、声を出してはっきりと言いたかったのですが、急に尋常ではないほどの疲労感に襲われ、首を縦に振ることで同意を示しました。
「…お前の意志、しかと受け取った。俺はゼロという。お前に力の使い方を教えてやろう。」
男ーゼローがフードを取り、見目麗しい金髪碧眼の姿を目にしたとたん、強制的に意識をフェードアウトさせられました。
―意識が遠いていくなか、“私”の脳裏には、「アシュレイド・アイザンクルス」という女性キャラが語る、彼女が剣士になったわけの回想シーンが映し出されていました。
それは、彼女が唯一の肉親である兄の死をきっかけに力が目覚め、そこで師匠となるゼロに出会うという、今まさに体験した場面だったのです。
――すべて、シナリオ通りだったんですね………
失笑とともに“私”の意識は完全にシャットダウンしました。
―…ですが、私は知らなかったのです。アッシュを襲った魔物がシナリオと違い強かったこと、私が倒れたあと、私を受け止めたゼロが、
「開幕ベルは鳴った。これからの“物語”はお前次第だ、〇〇〇。」
と“私”に言っていたことを――
************「…終わったな。」
さっきまでの絶体絶命な状況から一変して、私達の周囲には、魔物が一体も残すこと無く全滅していました。
「引き付け役助かったぞ、アッシュ」
「いや、たいしたことではない。」
(実質、私が倒したのは一体だけだし。)
そう、あのあと私の本心とはべつに、私の身体は主人公の戦闘指示に従って、敵を斬りつけました。私が一体倒したところで、主人公の魔法の詠唱が完了し、一気に魔物達を殲滅したのです。
ちなみに、主人公補正ー自分の技が仲間に当たらないーのおかげで私は無傷です。
「…さすがだな、ザック。」(いや本当、貴方一人で戦った方が良いと思うよ。)
「アッシュのおかげだ。俺一人では危なかった。」
(はい、ダウト〜!何堂々と白々しい嘘をつくんですか!!)
はい、今までの話の流れで皆さんお気づきだと思いますが、どうやら私はアッシュはアッシュでも“ゲームのキャラクターとしてのアッシュ”に成り代わってしまったようなのです。
ようするに、ゲームないで起こるイベントには強制参加で、なおかつキャラ設定は変更できないということです。
前者は、普段生活している分にはあまり変わりありませんが、常にゲームというのは主人公を軸としているわけで、主人公の仲間になってからはしょっちゅうイベントに巻き込まれています。そのたびに主人公の戦闘指示を受けなければならないので、正直面倒臭いです。もちろん、緊急時には反射という形で自分で動くことができます。
問題なのは後者のほうです。べつに性格は、もとより“私”は押しに弱い性でプレイ中アッシュにその他様々な面で親近感を覚えたほどでしたから、違和感はありませんでした。ただ、私とアッシュで違いがあるとすれば、無口か人見知りかです。問題はここにあります。
キャラ設定上、アッシュはここぞという時以外は無口です。プレイ中は会話文がうっとうしくなくていいなと思っていましたが、実際に成り代わると違いました。私は人見知りするタイプですが、人に馴れたら積極的にその人と話したい人間なのです。正直、成り代わったんだから少しぐらい会話が多くなるかなって思っていました。
ですが、この世界はシナリオに忠実で、直接、ストーリーに関係するイベントなどでは“私”の意識に関係無く、ストーリー通りに身体が勝手に動きます。
その為、主人公の仲間になってからは、キャラ設定上ほとんど無言です。それほどにキャラ設定は強制力があるのです。
「どうした、アッシュ?」
「……なんでもない。」
「そうか。」
「………」
「………」
(この沈黙がいたたまれないんだよ!何か言って!)
私はキャラ設定上無口キャラで、主人公は主人公であまりしゃべらないタイプなのか正直いって沈黙がつらいです。
―そもそも主人公のパーティーメンバーが私だけって言うのが問題だと思います。
まあ何はともあれ、一言いっていいなら、
キャラ設定の設定が強制って、どうゆうことですかぁー!!
筆者の厨二病作品をここまで読んで頂きありがとうございます!
機会があったらこのお話の補足&説明を書こうと思います。
ありがとうございました。