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14. みらいへ

 宇宙資源採集実験直後。


生珠銀河が、総理大臣に就任して新たな政権が誕生した。


生珠政権は、公約としていた人間ファースト政策に着手した。


先進諸国では、ロボット依存から脱して


人間とロボットの住み分けがはじまった。


廃棄されるロボットを減らすため、


ロボットの製造が一時的に規制される事態となり


ロボット業界に暗雲が立ち込めたが、


そんな時でも、ゼウスニアは、


温暖化対策になるエコロボットを開発して、


荒波を乗り越えた。


その裏で、時の政権を裏で操り


私欲を肥やして来た永田町の怪人、


エイ・ハイロンこと、栄龍二氏が、


中国滞在中に謎の死を遂げた。


永田町の怪人の人生は書籍化された後、


偉大な政治家の一代記として、


国会図書館にデジタル保存されると同時に、


世界的なベストセラーとなった。


永田町の怪人の一代記を著した元首相は、


病を理由に、政界を潔く退き、ベストセラー作家に転身した。


 2040年、弥勒ボートが、


世界各国の登録者から集められた


免疫細胞を必要な患者に提供する


「免疫細胞バンク」を


日本、アメリカ、ドイツに開設した。


 一方、日本では、「血液バンク」の認可がおりた。


深刻な輸血不足をうけて法改正がなされて、


日本国民は、満20歳になった時点で、


自分の健康な血液を血液バンクに預けて


一定期間保存出来るようになった。


日本第一号の血液バンク開設メンバーの中に、


あの押田保の姿があった。


 2050年8月15日。日本の長野県の戸隠山麓に建つ


宇宙ステーションでは、


火星が地球に接近していることもあって、


火星との通信を試みていた。


2035年、宇宙資源採集実験を行い


ペルセウス流星群の外に広がる


無数のレアメタルを採集して


地球に持ち帰ることに成功したことを機に、


日本政府は、宇宙資源開発に本格的に乗り出した。


ゼウスニアとユニバーサルバイオシンクタンクが


共同開発した宇宙ロボットは無事に、


宇宙デビューを果たした。


ゼウスニアはこれを機に、


宇宙開発事業に参入して大手企業へと成長した。


そして、ついに、昨年、長野の戸隠山麓に、


政府公認の宇宙ステーションを建設したのだ。


「今度こそ、うまくいきますかね? 」

 

 磯屋が訊ねた。


「うまくいくに決まっている。


今夜は、火星が最も、地球に接近する。


火星との距離が縮まるから、交信がしやすくなるはずだ」

 

 今川は、成功を確信していた。


「もしかして、宇宙ステーションを建設したのは、


この日のためですか? 」

 

 真浦が訊ねた。


「そうだよ」

 

 今川が答えた。


「社長の説は、間違っていると思います。


生命体は、火星には存在しません」


 真浦が断言した。


「世の中には、科学では説明出来ないこともあるんだ。


彼が戻らなかったということは、


火星にいる可能性が高いことになる」

 

 今川が静かに反論した。


「火星は地球と環境が異なりますし、


宇宙線の被曝の危険性が高いとして


火星移住計画は実現にはいたっていません。


2035年に探査が打ち切られていたということは、


その推測に、


信ぴょう性があったからではないでしょうか」

 

 真浦がすかさず、言い返した。


「いいや。生命体は存在する。


彼が、故郷の星が消滅したため


火星に移住することになったと言っていた」

 

 今川が言った。


 2035年の火星有人飛行では、火星に向かう途中、


ペテルギウスが、巨大な大爆発を起こしたとして、


緊急避難することになり断念した。


それ以来、火星探査は、打ち切られた。


一方で、2039年に、ヘビつかい座に地球人と


同等の生命体が存在することが明らかとなった。


「彼とは、いったい、誰なんですが? 」

 

 真浦が訊ねた直後、火星にいるROBO太郎IVと


回線がつながったことを知らせるランプが点灯した。


 今川は椅子に座り直すと、点滅するスイッチを順番に押した。


すると、真っ暗だった画面に、赤茶色の大地が映し出された。


 今川は、宇宙ステーションを建設した後、


自社製作の火星探査ロボットROBO太郎Ⅳを


日本政府の認可を得て火星へ送っていた。


ROBO太郎Ⅳは、


地球からの遠隔操作で動き回ることが出来る上、


故障した場合に自力で


修理することが可能な自律型ロボットだ。


「ROBO太郎Ⅳ。応答せよ」

 

 今川は、マイクに向かって命令を下した。


「こちらは、ROBO太郎Ⅳです」

 

 突然、ロボットの顔が画面いっぱいに映し出された。


「火星の様子を映してくれるか? 」

 

 と今川が命じると、画面が180度回転して、


周囲の様子が映し出された。


今川は、ROBO太郎Ⅳの背後に一瞬、


横切った黒い影を見逃さなかった。


「ROBO太郎Ⅳ。たった今、おまえの後ろに人影が見えた。


ズームアップしてくれ」

 

 今川は慎重に告げた。


「了解」

 

 ROBO太郎Ⅳの返事が聞こえるや否や、


黒い影の一時停止画像が、ズームアップされて、


その正体が明らかになった。


「どうやら、人間のようですね」

 

 磯屋が言った。


「そうみたいだな」

 

 今川が腕を組むと言った。


「もしかして、社長が捜していた方ではないですか? 」

 

 磯屋が、今川に訊ねた。


「ROBO太郎Ⅳ。人間が


住んでいる痕跡はあるか? 」

 

 磯屋が、マイクに向かって呼びかけた。


「少しお待ちください」

 

 ROBO太郎Ⅳの声が聞こえた。


それから3秒後、現在の火星の様子を


録画した画像が数枚送信されて来た。


今川は、記録映像の中に、


砂に半分埋まった宇宙船が映っていたのを発見した。


「窓に、人影か映っています」

 

 磯屋が画面を指差すと言った。


「真浦。窓に映る顔をクリアに出来るか? 」

 

 今川は、椅子から立ち上がると言った。


「やってみます」

 

 真浦が、目に見ぬ速さでキーボードを打ち込むと、


ぼやけていた画面が、はっきりとしてきた。


「ウソだろ?!」

 

 今川は、クリアになった顔を確認するなりのけぞった。


「誰なんですか? 」

 

 磯屋が身を乗り出すと訊ねた。


「Dr.ナイジェルが、なぜ、火星にいるんだ? 」

 

 今川は、見間違いかと思って


何度も画面を見直したが、


どう見ても、Dr.ナイジェルだった。


「ROBO太郎Ⅳ。宇宙船の中を調べてくれるか? 」

 

 今川は身を乗り出すと大声で言った。


「了解」

 

 ROBO太郎Ⅳが返事をした。


「Dr.ナイジェルとは、いったい、誰なのですか? 」

 

 真浦が、今川に訊ねた。


「鬼才の医者だ」

 

 今川がひと呼吸おいて答えた。


一言では言い表せないし、言葉選びにも気を遣う。


「鬼才の医者っていうのは、どういう意味ですか? 」

 

 真浦がめずらしく食い下がった。


真浦が、他人に興味を示すのはめずらしい。


「腕はそれこそ一流なのだが、


彼が、これまで行った医療行為は、


倫理や人権を無視した自分勝手なものだった。


2035年、彼は、日本が主導した


火星有人飛行計画を後押しした後、


忽然と、姿を消したんだ」

 

 今川が答えた。


Dr.ナイジェルにはまだまだ、聞きたいことが山ほどあったのに、


何も告げずに姿を消してしまった。


探偵を雇い捜したこともあったが、


とうとう、見つけることが出来なかった。


「Dr.ナイジェルも、


2035年の火星有人飛行に参加したのですか? 」

 

 真浦が、今川に訊ねた。


「いいや、そんなはずはない」

 

 今川はきっぱりと否定した。


 今川は、純粋に、


医師として患者の治療に専念したいとして、


エイ・ハイロンの元から去ったとされる


あのDr.ナイジェルが、患者を見捨ててまで、


火星へ行くはずはないと信じていた。


「とにかく、ROBO太郎Ⅳが


発見した人物とコンタクトを取りましょう。


何だかの事情を知っているかもしれません」

 

 磯屋が言った。


 磯屋は、入社当初は、


学生気分が抜けておらず頼りなかったが、


副社長に就任してから、しっかりしてきた。


今川の不在時は、磯屋が、


代理を務めることが増えたからかもしれない。


 その後、ROBO太郎Ⅳは火星中を歩き回り探索した後、


宇宙船にたどり着いた。


「ドアをノックしてみろ」

 

 今川は、ドキドキが止まらなかった。


もしかしたら、大発見になるかもしれない。


これで、JAXAへの面目は保てる。


「了解」

 

 ROBO太郎Ⅳは、


宇宙船のタラップを登るとドアを数回ノックした。


数分待ったが、中から返答はなかった。


「ドアを開けて、中に入るんだ」

 

 今川は思わず、声が裏返った。


 その直後、真浦の咳払いが聞こえた。


近くで作業していたスタッフが、


今川の背後に集まり、にぎやかになった。


「了解」

 

 ROBO太郎Ⅳがドアのノブに手をかけると、




鍵がかかっていなかったらしくドアが開いた。


ROBO太郎Ⅳの目を通して、


宇宙船の中の様子が、画面に映し出された。


「どこかに、隠れているかもしれない。用心して進むんだ」

 

 気がつくと、磯屋が隣でさけんでいた。


「了解」

 

 ROBO太郎Ⅳは、何者かが、


さっきまでいたとする痕跡を次々と発見した。


椅子の背もたれに無造作にかけられた


よれよれの白衣を見るなり、


今川は思わず、「あ」と小声を発した。


それは間違いなく、Dr.ナイジェルが着ていた白衣だった。


「いったい、どこに行ったのでしょうか? 」

 

 磯屋が、今川に訊ねた。


「ROBO太郎Ⅳの存在を確認して、逃げ回っているのかもしれない」

 

 今川は、落胆の色を隠せなかった。


「社長。そろそろ、ROBO太郎Ⅳの充電時間です」

 

 真浦が冷静に告げた。


「わかった。いったん、回線を切るぞ」

 

 今川は、真浦に向かって命じた。


「ROBO太郎Ⅳ。宇宙船の外に出て待機だ」


「了解。充電に入ります」

 

 回線が切れると同時に、画面が暗くなった。


「JAXAに連絡しますか? 」

 

 真浦が、今川に訊ねた。


「まだ、早い。確信が持ててからでもおそくはない」

 

 今川が答えた。


「一般人が、火星に行くことは禁止されています。


ハッカーのいたずら映像の可能性もあります」

 

 真浦が言った。


「とんでもないことになりましたね」

 

 磯屋が、頭をかきながら言った。


「それにしても、誰かの協力がなければ、


火星へ行くことは不可能だ。


Dr.ナイジェルに、協力した人間がいるはずだ」

 

 今川は、以前、Dr.ナイジェルを捜す際に、


探偵事務所からあがってきた


資料を会社に連絡して送らせた。


「この弥勒ボートとは、どんな研究所なのでしょうか? 」

 

 真浦が、今川から資料の一部を取り上げると訊ねた。


 Dr.ナイジェルの所属する研究所という項目は、


出来れば、他人には見せたくなくて、ページを飛ばそうとしたが、


真浦が、それを目ざとく見つけたのだ。


「真浦さん。社長が、知るはずがないじゃないですか」

 

 磯屋が苦笑いしながら言った。


「2011年。謎の飛行物体が、


経済的排他水域にある無人島に墜落した。


FBIは、宇宙船内から、ヒト胚が入ったカプセルを発見した。


弥勒ボートは、Dr.ナイジェルが、


そのヒト胚を使って、人間の女性の子宮を借り腹とした


体外受精を試みて誕生させた生命体を


スターチャイルドと名づけたらしい」

 

 今川は、これ以上、隠しておけないとして


知っていることすべて、2人に話した。


長年、一緒にいる2人ならば、理解してくれると思った。


「SF映画みたいな話が、現実にあるのですね」

 

 磯屋がぽつりと言った。


バカにしているわけではなく、正直な感想だろう。


「当時は、宇宙人だと思われたのが、


実は、未来から来た人間だったというわけさ」

 

 今川が言った。


それ以上、2人は何も聞いてこなかったため話はとぎれた。

 

 その日の夜、再度、火星にいるROBO太郎Ⅳの交信を試みたが、


砂嵐が発生して、何も見えなかった。


 それから、3日後の正午のことだ。


ROBO太郎Ⅳから通信が届いたことを知らせるランプがついた。


「社長。ROBO太郎Ⅳから記録映像が届いています。


確認されますか? 」

 

 真浦が冷静に訊ねた。


あの話をしてから、気のせいか、


口調が若干、優しくなった気がする。


「ああ。頼むよ」

 

 今川は、大きく伸びをすると言った。


 宇宙ステーションに来てから、色々とやることが山積みで、


ROBO太郎Ⅳの回収期限も迫っていたこともあり、


毎日、朝早くから、深夜まで作業が続いていた。


「社長。仮眠を取ってから、チェックしてはいかがですか? 」

 

 磯屋が告げた。


「いいや。今、見たい。何か映っていると思うと、


休んでもいられないよ」

 

 今川は、お茶を一口飲むと言った。


 ROBO太郎Ⅳの記録映像が流れた。


今川は食い入るように、映像を眺めていたが、


ある場面で、停止するよう真浦に命じた。


「3日前。ここに、宇宙船が砂に半分埋まっていたはずだが、


跡形もなくなっている」


 今川は、3日前の録画映像を出させて2つの映像を見比べた。


やはり、3日前にあったはずの宇宙船が跡形もなく消えていた。


他の場所を探したが、物体すら見当たらない。


今川は頭を抱え込んだ。


(いったい、どうなっている?  


Dr.ナイジェルは、


砂嵐の中、火星を出立したということか? )


「社長。顔色が悪いですけど、大丈夫ですか? 」

 

 磯屋が訊ねた。


「外の風にあたって、頭をクールダウンして来る」

 

 今川は、宇宙ステーションの外に飛び出すと


全速力で、草むらを走り抜けた。


 何気なく、すぐ下の草むらを見下ろすと、


ミステリーサークルのように、周囲の草がなぎ倒された場所に、


宇宙船が停まっているのが見えた。


(あれは、いったい、何だ? )


 今川は急いで下に降りると、宇宙船におそるおそる近づいた。


宇宙船の周りを歩いていた時、突然、小さい竜巻が起った。


次の瞬間、タラップが降りて来て、


開け放たれたドアの向こう側から、


人影が現れた。今川は強い光りに驚いて、


その場にしゃがみ込んだ。


「今川君じゃないか? 」

 

 聞き覚えのあるハスキーボイスが聞こえたため、


おそるおそる、声の聞こえた方を見ると、


宇宙服を着た白髪男性が、今川の目の前に立っていた。


「Dr.ナイジェル。あなたですか? 」

 

 今川は、立ち上がると訊ねた。


確認しようにも、強い光りに視界がさえぎられて


Dr.ナイジェルの姿がよく見えない。


「ひさしぶりじゃのう。元気だったか? 」

 

 Dr.ナイジェルが、今川に歩み寄ると気さくにあいさつした。


「火星にいらっしゃいましたよね? 


いったい、何をしていたんですか? 」

 

 今川が訊ねた。


「下見じゃよ。安全だとわからなければ移住出来ない。


水と酸素は何とかなりそうじゃ。


あとは、電力をどうするのかなんじゃが‥‥ 」

 

 Dr.ナイジェルがぶつぶつ言っているところに、


まばゆい白い光りを身にまとった


宇宙服姿の白髪男性が姿を現した。


「Dr.コーウェル! てっきり、火星におられると思っていましたが、


あなたではなく、Dr.ナイジェルがおられたので、


どうしているのか気になっていたんです」

 

 今川は、2人が一緒にいることに驚きを隠せなかった。


「中を見せてあげるよ」

 

 キアンは、今川を宇宙船の中に招き入れた。


今川は、好奇心に勝てずに招きに応じた。


意外にも、乗り物の中は広く、


操縦室の他にキッチン、ダイニングルーム、


バスルーム。そして、個室が3部屋あった。


「あなたたち以外にも、他に誰かいるのですか? 」

 

 今川は、個室の1つから話し声が


聞こえたため気になって訊ねた。


「君に会わせたい人がいる」

 

 キアンは、その部屋のドアを開けると今川の背中を押した。


今川は、前につんのめるようにして部屋の中に入った。


「インティ、ナンナ。君たちの息子を連れて来たよ」

 

 キアンが、部屋の奥にいるエメラルドグリーンのオーラを


全身から発した2人に向かって声をかけた。


 2人が同時にふり返った瞬間、


今川は、初めて会った人たちなのに


なつかしい感じがして気がつくと、涙が頬をつたっていた。


2人のうち、女性の方は、フインとうりふたつだった。


「どうして泣いているの? 」

 

 若い女性が、今川の顔をのぞき込むと訊ねた。


「彼は、あなたたちに会うことが出来て、


うれし涙を流しているのですよ」

 

 キアンが説明した。


「りっぱになったな」

 

 若い男性が言った。


「あの、これは、


いったい、どういうことなのですか? 」

 

 今川が、キアンの方をふり向くと訊ねた。


「君がここにいると知り、火星へ向かう途中に立ち寄った。


君に、彼らを会わせたくてね」

 

 キアンが穏やかに答えた。


「彼らが、私の遺伝子上の両親なのですね? 」

 

 今川は、感動で胸がいっぱいになった。


「そうさ。全員、無事に、脱出することが出来たよ」

 

 キアンが言った。


「なぜ、宇宙平和連邦政府は、


優れたDNAを残そうとしたのですか? 」

 

 今川は、ずっと気になっていたことを訊ねた。


「アイデンティティーを絶やさないためだ」

 

 キアンが答えた。


「あの。もうひとり、あなたがたの遺伝子上の息子がいます。


ぜひとも、彼とも会ってください」

 

 今川は、東元のことを思い出して言った。


「悪いが、長居は出来ないんだ」

 

 キアンが言った。


「2 、3日待ってもらえませんか? 


連絡すれば、すぐに駆けつけると思います」

 

 今川はあわてて、東元に連絡を入れた。


 自分だけ、遺伝子上の両親に会うわけにはいかない。


同じ運命を持つ者同士、


良き友人以上の関係を続けて来たのだ。


特に、妹のマヤの死後は、かけがえのない存在となった。


翌朝、今川は、連絡を受けて駆けつけた


東元を連れて両親のいる宇宙船へ向かった。


宇宙船の近くまで来た時、


何か様子がおかしいことに気がつき、


2人はとっさに、木の影に身を隠した。


「わしは、何も悪いことはしていない! 」

 

 Dr.ナイジェルが、黒いサングラスをかけて


黒いスーツに身を包んだ男たちに囲まれるようにして、


宇宙船から出て来るのが見えた。


「両親が危ない!」

 

 東元が飛び出そうとしたところ、


今川はあわてて、東元のジャケットをひっぱって引き留めた。


「今はまずい」

 

 今川は小声で言った。


 Dr.ナイジェルが無理矢理乗せられた


ヘリコプターが飛び立ったのを見届けた後、


2人は急いで、宇宙船の中に駆け込んだ。


しかし、宇宙船の中は、もぬけの殻だった。


「Dr.ナイジェルの姿は、確認出来ましたが、


肝心の両親の姿が、どこにもありません。


いったい、どういうことですか? 」

 

 東元がやりきれなさそうに言った。


「長居出来ないと言っていたから、もう、発ったのかもしれない」

 

 今川が言った。


「両親は、どんな人たちでしたか? 」

 

 東元が訊ねた。


「優しそうな人たちだった」

 

 今川が答えた。


「あの男たちは、いったい、何者でしょうか? 」

 

 東元が冷静に訊ねた。


「見た感じ、FBIの捜査官みたいだった。


誰かが、ここに宇宙船が降り立つところを


見かけて通報したのかもしれない」

 

 今川は答えた。2人は、どちらからともなく、


宇宙船の外に出ると同時に、空を見上げた。


「いつもと変わらないはずの空が、


今日はなぜか、違うものに見えます」

 

 東元が小さく息をつくと言った。


「Dr.ナイジェルは、悪事をたくさん働いているが、


どこか憎めないのだよなあ」

 

 今川が言った。


「他人はどうあれ、我々にとっては、


良いことばかりしてくださっているからではないですか? 」

 

 東元が言った。宇宙ステーションに戻ると、


磯屋と真浦が我先にと、駆け寄って来た。


「大丈夫ですか? 」

 

 真浦が訊ねた。


「何がだい? 」

 

 今川はとぼけてみせた。


「不審者が、戸隠山にいるというので警察に通報したのですよ。


刑事に会いませんでしたか? 」

 

 真浦が大真面目な顔で言った。


「どうやら、刑事とは、すれ違いになったらしい」

 

 今川が答えた。


「とにかく、お2人が、ご無事で良かったです」

 

 磯屋が言った。


「ところで、東元さんは、何の用でいらしたのですか? 」

 

 真浦が、東元をちらりと見ると言った。


「言わなかったか? 」

 

 今川が苦笑いしながら言った。


「ひさしぶりだね。元気かい? 」

 

 東元が、真浦に微笑んだ。


すると、真浦は目をそらした。


「元旦那とひさしぶりに会って、気まずいか? 」

 

 今川が苦笑いしながら言った。


「そんなことはありません」

 

 真浦が否定した。


 結局、黒いサングラスをかけて


黒いスーツに身を包んだ男たちは、


真浦が通報して駆けつけた刑事ということで納得したが、


騒動の中、遺伝子上の両親やキアンの消息は途絶えてしまった。


まるで、夢でも見ていたかのような気分になった。


「きっとまた、会えますよ」

 

 今川は、気を持たせるようなセリフを


東元に言ったものの、自分は、1度会えたからいいが、


東元は会えなかったことを考えずに、


軽はずみな発言だったとあとになって後悔するのであった。     



 THE END



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