おはようございます、天使様
嵐が止み、何事もなかったようにいつも通りの朝がやってきた。
キャソックに身を包み、鏡で身だしなみを確認する。教会の唯一の牧師としていつもきちんとしておきたい。
確認を終えると、朝ごはんの準備に取り掛かった。
客人の分も作っていると二階から物音がした、と同時に走り出す音が聞えた。そして、そのまま階段を駆け下りドカンと鈍い大きな音が家にこだました。
「だ、大丈夫ですか!?」
居ても立っても居られず、音の主に近づく。
「だ、大丈夫です!少し転んでしまっただけで」
鳥のさえずりのような可愛らしい声。
床に転がっている少女にセシルは手を差し伸べた。
「すみません。ありがとうございます……」
温かい。少女の手から生物の温もりを感じ、ほっとする。
「無事ならなによりです」
微笑むと、少女は顔を赤くする。
「朝ごはんもできていますので、椅子に座って待っていてください」
「何から何まで、ありがとうございます…」
とことこと歩いていく様子はまるでしゅんとしてる子犬のようだ。
完成した朝ごはんをテーブルに並べると、少女は瞳を輝かせた。
「これが地上のごはん!」
「地上のごはんって、面白いことを言いますね」
いただきます、と手を合わせると少女も真似して手を合わせいただきますと呟いた。
少女は最初にパンに手を伸ばした。一気に口の中に頬張ると満開の笑顔を咲かせる。
「ふふ、美味しかったようで嬉しいです」
「とっても美味しいです!もしかしてあなたもなにか聖なる力をお持ちなのですか!」
「違いますよ、ただの料理です」
その後も少女は黙々と食べ続け、しまいにはセシルの分の朝ごはんもぺろりと食べてしまった。
気に入ってくれたみたいでなによりだ。
「たくさん食べてしまいました。想像よりも美味しい……」
「そう言っていただけて嬉しいです」
そして、少女はセシルに向き直り、真剣な面持ちになる。
「改めて、見ず知らずの私を拾っていただき、そして温かいごはんまでありがとうございます」
少女はペコリと礼をすると、にっこりと笑った。
「私の名前はノエルです。見ての通り天使です」
「ノエル様ですね、綺麗なお名前ですね。私の名前はセシルと言います。この街の教会の牧師です」
「綺麗な名前なんて初めて言われました」
ノエルは顔を隠してもじもじしている。照れている姿もかわいい。
「ところで、なぜ昨日教会で倒れていたんですか?」
「えっと、それが」
ノエルが目を泳がせる。
「それが?」
「な、何も覚えていなくて……。唯一覚えてるのは雷に打たれて、痛くて、飛べなくて。だから地上に降りたんです。でもなぜ天界から降りたのかも忘れてしまって」
「そうなんですね」
ノエルはバツが悪そうに顔を下にした。
つまりは、何も覚えておらずこれからどうしたらいいのかさえもわからない状況なのだろう。ノエルの今の心境にはセシルも覚えがあって他人事とは思えない。
できることなら助けてあげたい。
「それならノエル様が良ければですが、記憶を取り戻し何をするべきかわかるまではこの教会で休んでいかれてはどうですか?」
「え、いいんですか?私、何もできませんよ」
「いいんですよ。困った人がいたならば助けるのは普通のことですから」
ノエルは瞳をキラキラさせている。
「で、では、これからお世話になります!セシル!」
教会の鐘の音がなる。それは、新しい日々の始まりを感じさせた。




