第1話 ■果の■■者 ■やか■■常が■わる――■た■■た器■■で
※第1話の演出を少し変えさせて頂きました。
ヴァルカニア帝国が世界に向けて宣戦布告を行ってから、空気に濃い血の臭いが混じり始めた。
それから数年。悲鳴と腐肉の色に塗り潰された国境付近の救護キャンプで、ただひたすらにその手を赤く染め続ける男がいた。
「先生、これ以上は……ここに留まっていても、救える数には限りがあります」
包帯を巻く手を止め、弟子の一人が懇願するように訴える。その瞳には、日々運び込まれる惨たらしい遺体と、理不尽な暴力への義憤が焼き付いていた。
彼らは若く、そして真っ直ぐすぎる。だからこそ彼らは最前線に立ち、より多くの人間を救いたいと願ってしまったのかもしれない。
先生と呼ばれた男は反対した。戦況は泥沼化している。前線に行けば、命の保証などない。 だが、弟子たちの決意は固かった。
「私たちが学んだ技術は、安全な場所で震えているためにあるのではありません」
長い口論の末、折れたのは男の方だった。彼らの成長を眩しく思うと同時に、胸を刺すような予感を拭えなかったからだ。
「……分かった。だが、必ず生きて戻ってくれ」
弟子たちは、被害が甚大とされる連合軍の志願兵となり、地獄の最前線で救護活動をするために旅立つ。
男は動けなかった。これまでの活動で救った、守るべき人々がこのキャンプには溢れていたからだ。彼らを捨てて弟子を追うことは、師としての矜持が許さなかった。
そして、その報せはあまりに呆気なく届いた。
簡素な紙切れ一枚の戦死通達。文字の羅列が、彼らの人生の全てだったというのか。
「あいつらは、師として誇れる理想の弟子に育った。……理想的すぎたから、死んだのか」
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乾いた声が漏れた。




