表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/78

おしまい

 英子は……みんなの声が一切聞こえていないみたいに、ひとり不安げに佇んでいた。

 私はそんな彼女の手を、両手でそっと包んだ。いつか英子が、桜の花びらをそうしたように。宝物みたいに、優しく。

「……手、震えている。ばかね、不安に思うことなんてないのに。」

「ともか……。」

 英子が、ゆっくりと頭を上げて私を見た。

 私も彼女の顔をみつめた。潤んだ瞳。何度も目にした、泣く寸前の顔。何度も目にした、最高にかわいい顔。

 大好きだよ。そう思った。

「ねえ、泣かないで……?大丈夫よ、早とちりしないで。英子の贈り物を、私が断るわけないじゃない。」

「え、じゃあ……。」

 か細い声で、英子が言った。

 私は大きく頷いた。

「誕生日プレゼント、もちろん受け取るわ。もらったら絶対、ずっとずっと大事にするし、誰にも渡さないからね。あ、『やっぱやめた』なんて言ってもだめよ?私もう、すっかりその気になっちゃったんだから……。ふふっ。」

 それから、彼女の右耳のそばに唇を寄せた。今から話す言葉の全部が、ひとつも漏れなく伝わるように。

「すぐに言わなくてごめんね。とっても嬉しいわ、英子……。あなたの大切なものをもらえるなんて、幸せすぎてどうにかなりそう……。」

「ぁ……。」

 英子が吐息を漏らし、ぞくっと体を震わせた。耳の穴にかかる吐息が、こそばゆかったのかもしれない。構わずに私は続けた。安心させるため、彼女の手の甲を優しくさすりながら。

「ああ、早くほしいな、英子のプレゼント。来週が待ちきれないわ……。私、今からもうドキドキしてる……。」

「ほ、ほんとに……?」

「もちろん。だって本当は私、英子の全部何もかも、ひとりじめにしたいって思っていたんだから……。誕生日、すごく楽しみにしてる……。」

 想いを込めて、ささやいた。

 言いながら、自分の顔が照れて熱くなっていくのがわかった。

 英子といると、私は恥ずかしいことばっかり言ってしまう。前は二人っきりの時だけだと思っていたけど、違った。たとえどんなに他人がいたって、英子の前だといつだって、私は恥ずかしいことを口走ってしまう。

 恥ずかしいこととはつまり、本当に思っていることだ。

 私は耳元から口を離して、英子をみつめた。

 目元に溜まっている涙はそのままで、瞳はうるうるしている。

 でもさっきまで不安げだった彼女の顔は、ぽぅっとした表情に変わっていた。きっと私の本当の気持ちを聞いて、安心して、気が抜けたんだろう。

 けれどなんだかその顔は、うっとりしているみたいにも見えた。まるで愛をささやかれた、恋する乙女のようだった。美しいと、私は思った。

「……。」

 陶然とした表情のまま、英子の目から、涙がぽろりとこぼれた。でもたぶんこれは、安堵の涙だ。張り詰めた気持ちが緩んだんだろう。

 結局英子を泣かせてしまった。なんだか会うたびに、好きな子を泣かせちゃっている気がする。そう思い、私は少し苦笑した。

「もう、泣き虫なんだから。」

「と、友香が泣かすからだろぉ……。」

「そう……、そうね。不安にさせちゃってごめんね……。」

 握っていた手を放して、謝りながらハンカチで涙を拭いてあげる。すると彼女は、小さく首を横に振った。

「じゃ、なくってさ……。いっつもさ、不安にさせたあとめちゃくちゃ優しくすっからさ、だ、だから、泣いちまうんだろ……。ずりいって、ばか、友香のばか……。」

 英子の口元に、微笑が浮かんだ。

 泣きながらだけれど、やっと笑顔が戻った。かわいらしい笑顔が。

 すると後ろから、ぱちぱちぱち、と乾いた音がした。

 振り返ると、真冬さん達が私達に向けて拍手をしていた。まるで、クライマックスを終えた主人公とヒロインを喝采するように。心春でさえも、「なんかよくわかんないけど」って顔で手を叩いていた。

「ぅあ……。」

 パニックが収まり、「周りの目なんてどうでもいい」状態から戻った英子は、自分の置かれた状況に気付いてうめいた。

「ば、ば、ばっかやろー、なんだよもう、見せもんじゃねーってのっ。あーもう恥ずかしい、お前らプライバシーって概念知んねーのかよっ。」

「いや英子、こんな人前で大立ち回り二人でやって、それはもう逆ギレだから……」

「あら、誤解をしないでいただける?見世物気分で手を叩いていたわけではないわ。大事な友達二人の、素敵な未来を祝福して、私達みんな拍手を送っていたの。」

 英子をたしなめていると、真冬さんが穏やかな声で言った。言い訳でも冗談でもなく、本当のことを言っている目だった。

「そっか……。サンキュ、真冬さん。」

 納得した英子が、素直にお礼を言った。

「す、素敵な未来って……。そんなスケールの大きな話?」

 でも一方私は、真冬さんの言葉にちょっととまどっていた。

 十六才の誕生日に、好きな女の子から、大切な何かをプレゼントされる。確かに最高に楽しみな予定だけど、それを指して「素敵な未来を祝福」とまで言われると、さすがに大げさという気がした。

 あたかも私と英子が、幸せに添い遂げるかのような言い草じゃないか。

 私はその日、愛の告白をして、正式に英子に振られるというのに。この片想いは、余命あと一週間だというのに。

 そんな私の顔を見て、真冬さんがくすりと笑った。

「何言ってるかわからないって顔してる。意外と鈍感なのね、戸成さん。」

「え、あ、はあ。」

「まあいいわ。来週は頑張ってね、戸成さんも、周野さんも。きっと素敵な誕生日になるわ。」

 そう言って、彼女はかわいらしくウインクした。

 意味はよくわからないけど、悪い気はしなかった。

「おー、そーだそーだ、頑張れ頑張れー。応援してるよー。」

「心春は黙ってらっしゃい。何もわかってないんだから。」

 真冬さんが、さっきよりは柔らかい口調で叱った。二度叱られて、さすがに心春がシュンとなった。

「また言われた。つーかひでー言い草。あたしそーんなアホな子かねー?」

「愚問ね。実際あなた、怒られた理由を一つも理解していないでしょう?だからだめなのよ。」

「そーよー?ていうか姫川さん、さっきのは本っ当にだめよー?」

「まったくだよ。何が松坂牛だ、嘆かわしい。どうして君はああなんだ?反省するんだ!」

「心春ちゃんのバカー!」

「心春ちゃん謝ってー!」

「うえー?あ、じゃあ、ごめんなさい……?でも、絶対喜ぶプレゼントっていったら牛肉じゃんかよー?違うのー?え、じゃあ、カニ?」

 ジグソー部のみんなが、またわいわい騒ぎだした。部室が元のように、なごやかな空気に包まれていった。

 私と英子は、顔を見合わせてほほ笑んだ。

 それから、そっと手をつないだ。お互いの指と指をからめあった。どちらともなく、自然に。そうするのが当たり前みたいに。

 競技ジグソー部に入ってよかった。本当によかった。もう一度、そう思った。大切な友達と出会えたから。大好きな人と出会えたから。

 親友と、出会えたから。




 15才の頃、私は親友に片想いをしていた。

野暮で無粋なのはわかった上で、自分で解説してしまいますが

<15才の頃、私は親友に片想いをしていた。>

というのは、つまり


16才になったら、親友と両想いになりましたよー


という意味です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ