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「ちょっと、い、痛いって……」
「ま、待って、待ってくれよ、さっきの、さっきのプレッシャーっての、『いらない』って意味か?ど、どうなんだよ、返事だけちゃんと聞かせて、受け取ってくれるかどうか、そ、それだけ……。」
「え、英子……?」
彼女の異変に気付き、私は身体を固くした。
「だ、だめなのかよ?あたしの大切なもの、も、もらいたくないのか?いらないのか?なあっ?!」
英子の血相が変わっていた。どうやら私の不用意な言葉のせいで、ちょっとしたパニック状態みたいになっているらしかった。
その様子はまるで、恋人に振られかけている少女みたいだった。
「周野さん?」
「戸成くん、周野くん、どうした?」
真冬さんや先輩達も、私達が妙なことになっていることを察し、怪訝な顔でこちらを見た。
「英子、いったん放して、落ち着いて、みんな見てる……。」
「お、お願い、きっと喜ぶから、絶対喜ばせるから、どんなふうにしてもいいから……!だからプレゼント受け取ってくれよ、お願いだからっ!」
部室が、シン、と静まり返った。
場にそぐわないくらい、英子の声が悲痛に満ちていたからだ。
このプレゼントを拒絶されたら、何もかも終わりになってしまう。そんなせっぱつまった声だった。
静寂が、数秒続いた。
それから、英子がようやく、掴んでいる手を放した。諦めたみたいに。うつむいて、電池の切れたロボットのように、だらんと力なく腕を下ろした。私は手首を押さえながら、彼女を見た。
「わ、私が絶対喜ぶって、それ……」
「松坂牛?」
「心春は黙ってらっしゃい!」
びっくりするくらい大きな声で、真冬さんがピシャリと叱った。
ほかのみんなが、いっせいに心春をにらんだ。
「ね、戸成さん、私達いったん外に出ましょうか?」
深刻な顔をした上原部長が、なんの事情も聞かずに気を回してくれた。副部長や双子も、心配そうに私と英子を見ていた。
せっかく部長が気遣ってくれたけど、でも、私は首を横に振った。そんな暇はなかった。一秒でも早く、私は英子の誤解を解きたかった。
それに、席を外してもらう必要なんてなかった。
他人がいてもいなくても関係ない。どうせ私と英子が目を合わせれば、お互い以外は何も見えなくなってしまう。友達も周りの人も誰もいないような、二人っきりの世界になってしまうのだ。
だから、大丈夫。




