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「……あのさ。」
少し経ってから、おずおずという感じで、英子が口を開いた。ためらいがちに、緊張した声で。
「あ、あたしさ。友香の誕生日に、プレゼント贈りたいんだ。」
「え、ほんと?嬉しいわ、ありがとう。」
緊張した声のわりには、普通のことを言った。
ちょっと拍子抜けだった。
こんなこと言ったらあれだけど、とっくに「英子はプレゼントくれるだろうな」という気分でいたのだ。勝手に。
まあ、大した話じゃなくてよかった……と思ったけど、彼女の表情は硬いままだった。
まだ話は、本題に入っていなかったようだ。
「……そのプレゼントは、さ。あたしがずっと、大切にしてきたものなんだ……。」
「えっ?」
「ずっと大切にしてきて、いつか、す……大事な人ができたら捧げようって決めてて、そういう……。も、もらって、くれるか?失恋した気持ちを慰めるには、うってつけのやつだからさ、きっと……。」
「英子の、大切なもの?」
「てか、ここまで言ったら大体わかんじゃん……。だから、その、今お前が想像した通りのものっつーかさ……。ちょうどその日、うちに誰もいねーし……。」
「?」
意外な話の展開に、私もにわかに緊張してきた。
なんだろう、家族の形見か何かだろうか。でも失恋にうってつけってことは、子供の頃から持っているぬいぐるみ、とか?あるいは意表をついて、へその緒とか、抜いた親知らずとか?
なんにしても、そんなに気持ちのこもったものを、私にくれるつもりだなんて。嬉しい。どんな物だとしてもすごく嬉しい。たとえそれが親知らずだったとしても。
嬉しい、けれど……。
私は喜びと同時に、いくらか申し訳なさも感じた。
英子の大切なもの。憧れの真冬さんじゃなく、友達になったばかりの私なんかがもらっちゃうなんて、いいのかなという気もした。
失恋した親友を慰めたい。そんな優しさから、こんなことを言い出したのだろう。私はとっくに立ち直っているのに。
とはいえ、遠慮する気は微塵もない。気持ちのこもった英子からのプレゼント、そんなの絶対欲しいに決まってる。申し訳なさ一割、嬉しさ九割と言う感じだ。自分の強欲さにあきれるばかりだけど、それが本音だ。
「う、受け取ってくれるよな、友香。前公園であんなこと言ってたんだしさ……?もしいらないって言われたら、あたし……。」
「ふふっ。すごい意気込みのプレゼントね。親友として光栄だわ。」
「そ、そっか……!」
「だけど英子がそんなに大切にしてるもの、私なんかにはもったいないって気もしちゃうな(何かはわからないけど)。ちょっとプレッシャーっていうか。」
「え……?」
「でも」
でも、すごくすごく嬉しい。ありがとう。
……と、お礼を言おうとした瞬間。
「はーいみんなー。じゃーそろそろ、ちゃんと練習始めるわよー?」
向こうの方から、パチンと大きな音がした。部長が手を叩いた音だ。心春達のトークが、一区切りついたらしかった。
それで間を外され、ありがとうを言うタイミングを逃してしまった。
「ほらほらー、そっちのお二人さんも準備してー?」
部長が大きめの声で言った。
「あ、はーい。しょうがないな。じゃあ英子、話の続きはまたこん……どっ?!」
痛みを感じて、私はうめいた。
パズル用具を取りに行こうとした私の手首を、英子がぎゅうっと握りしめたのだ。乱暴に、とても強い力で。




