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「つーか、かわいいのは友香の方……。」
「え?」
「な、なんでもねーよ。で、は、話ってなんだよ。早く言えっての……。」
後ろを向いたまま、英子が聞いてきた。
「あ、うん。来週ここで誕生日会やることになったの。聞こえてた?」
「まあ、な……。」
「そのパーティが、終わったら、その……。二人っきりの時間、作れない?大事なお話があるんだけど……。」
「大事な、話?」
英子の肩が、ピクリと動いた。
「そう、とても大事なお話。いい?」
「もっ、もしかしてお前、まさか……。」
英子が振り返った。その顔からは、さっきまでの血の気が失せ、逆に青ざめていた。
「て、転校するのか?大事な話って、そういうことなのか?」
「は?……全然違うけど。」
「そ、そうかよ。ならいいけどよ……。」
早合点をした英子が、ホッとため息をついた。
「あーびびった。なんか急に、意味ありげな言い方するからよ。よかった……。」
胸をなでおろす英子を見て、「やっぱり転校するって嘘ついて泣かせたい」といういたずら心が、ふと湧き上がった。
でもそんなことをしたら、嫌われてしまうだろう。泣き顔は見たいけど、嫌われるのは困る。
「ごめんごめん、脅かせちゃって。ほんとはね、私にとっては大事だけど、英子にとってはなんでもないの。ただこっちが、言いたいこと言って自己満足したいだけ。いい?」
「ふーん?よくわかんねーけど、了解。」
穏当な言い方に直すと、英子はあっさり了承してくれた。
言いたいこと言って自己満足したいだけ。
思わずそう言ってしまったけど、まあ、事実その通りだ。私にとっては一世一代の告白だけど、きっと彼女にとっては、ただの迷惑な時間だろう。それでも……。
「つーかよ。」
「ん?」
「ちょうどあたしも、友香に話したいことあんだよな。せっかくなんで、こっちもそんときに言うわ。」
「そうなんだ?なんだろう、気になるわね。」
首を傾げると、英子は急にそわそわと自分の前髪をいじった。
「……ほんとはさ。お前が失恋から立ち直った頃に、言おうと思ってたんだけどよ。」
「ああ、うん……。」
実はもう、私は失恋の痛手からは回復していた。
でも「中一日で失恋から完全に立ち直りました」と事実を告げたら、きっと血も涙もない鋼鉄女みたいに思われるだろう。なのでそれは、黙っていることにした。
「けど正直、もう待ってらんねーっていうか……。想いがあふれちまって、秘密にしてらんねえっつーか……。」
「いやなんか、ちょっと怖いんだけど。ひょっとして私、怒られたりする?」
鬱憤が溜まって、それをぶちまけたいという感じだろうか。身に覚えは、まあ、わりとあった。でも告白した後に説教くらうのは、かなり嫌すぎる。それだけは勘弁してほしかった。
「は?あたしが友香に怒る?んなわけねーじゃん。」
「そっか。よかった。」
「そんなたいしたアレじゃねーよ。こっちも、あたしがスッキリしたいってだけ。あたしの話も自己満足だよ。」
「えー?なに言われるんだろう。なんだか、いろんな意味でドキドキの誕生日になりそうね。ふふっ。」
と言うと、英子はなぜか、ハッとしたような顔になった。それから、急にうつむいてブツブツつぶやきだした。
「誕生日……。そうか、誕生日、なんだよな、友香の……。」
「英子?」
何か考え込みだした親友の、肩を軽く叩いた。彼女はそれを無視して、自分の靴の先をしばらく眺めていた。




