72
放課後。
競技ジグソー部は、いつもの通りにぎやかだった。
部室での話題は、いったん心春の髪について盛り上がった後、私の誕生日の話になった。
「あらまあ、素敵ー。じゃーあー、当日は部活お休みにして、この部室で戸成さんの誕生パーティしなくっちゃねー?」
「わーい!ママ、ナイスアイディア!」
「よかったね、友香ちゃん!じゃープレゼントなんにしよっかなー!考えなくっちゃ!」
「ちょ、ちょっと……、そんな、いいですよ?申し訳ないですって。」
意外な話の方向に、私はとまどった。
部活動の時間がそのままパーティになるなら、告白プランに支障はでない。でも、私は人にお祝いされるのが少し苦手だった。気おくれしてしまうのだ。
「いいのいいのー。沙織先生には、ちゃーんと私から許可取っておくしー。」
「うん、『指導の鬼』なんて呼ばれてる鬼山先生だけど、千秋さんにはやたらと甘いからね。なんだってオッケーが出るよ。」
部長と副部長が、話をどんどん進めていこうとする。
「あの本当に、私……。」
「観念なさいな、戸成さん。この人達ったら、そういう楽しいイベントが大好きなんですもの。あなたの誕生日と聞いて、黙っていられるはずがないわ。ま、浮かれ騒ぎの口実にされて、面白くないのはわかるけどね?」
真冬さんが頬杖をついて、こちらを見ながら上機嫌にくすくす笑った。
「えー、でも……。」
少し照れて、視線をそらしてしまった。美しい真冬さんにまともに顔を見られると、私でさえもドキッとしてしまうのだ。
私の好きな人はみんな彼女が好きだけど、それも仕方ないな、という気持ちにさせられた。悪感情はまるで湧いてこなかった。
「もー、まーちゃんったら意地悪ね?騒ぎたいから言ってるんじゃなくってー、私達みんな、ちゃーんとお祝いしたいって思ってるわよー?ね、なっちゃん?」
「ん?そう……その通りさ!ああ子猫ちゃん、君が世界に産声を上げた素晴らしき日を、どうかボクに祝福させておくれ!この燃え盛る愛と同じくらいに真っ赤なバラを、部屋いっぱいに敷き詰めてあげるよ!」
「あ、お気持ちだけで大丈夫です。」
なっちゃん先輩の迷惑な申し出を、ひょいと片手を挙げて断った。
まあ部長が「完コピすごーい」と拍手しているので、実際は私に向けて言ったんじゃないだろうけど。ふと「セシルちゃんのモノマネチャンスだ」と気付いてぶっこんだんだろうけど。
でも正直なところ、副部長のこういう布教活動のせいで、いつのまにか「セシルちゃんウザかわいいかも」とも思うようになっていた。すぱぷりとやらは一度も見たことないけど。
「まっ、それはさておき。」
モノマネをやめたなっちゃん先輩が、ぱちんと指を鳴らして私を指さした。
「話を戻すけれど。みんなが戸成くんをお祝いしたい、というのは本当さ。少なくともボクはね。なんせ君は未来のジグソー部を支える、有望な一年部員だからさ?」
「あら?去年はずっと幽霊部員だった人が、なんだかしれっと副部長ヅラしているわね。おかしい。」
「シャラップ!」
せっかくのいいセリフを混ぜっ返す妹に、なっちゃん先輩が怒った。
「でも私、競技ジグソー全然弱いのに……。」
「いーじゃん友香。つまりみんなさー、友香のこと好きってことじゃんか。日ぃあらためてがっつりパーティするほどじゃないけど、放課後ちょっと騒いでお祝いする程度にはさー。好感持ってるーくらいな感じ?」
「あー、まあ、気が楽になる言い方だけれど。」
嘘のない心春の物言いに、でも本当に、気が楽になった。だったらまあ、お祝いしてほしいかも、という気持ちになった。
それに……。
気おくれはするけど、私は本当は嬉しかった。こんな素敵な人達が、平凡な自分を祝ってくれるということが。中学時代の私からしたら、きっと想像もできないことだ。競技ジグソー部に入ってよかった。
「あ、友香ちゃん今、まんざらじゃないナーって顔してたー!」
「まんざら友香ちゃんだー!」
ちょっとニヤけている私を、二来と双葉が目ざとく見つけた。そういうの、本当に恥ずかしいのでやめてほしい。カーッと顔が熱くなる。
「う、うるさいわね……。もうこの話いいでしょ?それより、ほら、あの……。あ、そうだ、先輩方知ってますか。今日心春、男子から告白されたんですよ。それも二人も。髪切ったとたんにこれなんだもの、すごいですよね。」
照れた私は、超強引に話を変えた。
すると心春が、小さな声で「その話題に触れんのー?参ったなー」とぼやいた。ごめん。
でも私は、とにかく話の流れを変えたかったのだ。私の誕生日という話題から、離れてほしかったのだ。
照れくさいというのもあるけれど、ちょっとそろそろ、一対一でじっくり話し合いたい相手がいたのだ。そのためには、会話の輪からこっそり抜け出す必要があった。みんなに誕生日以外の話題で盛り上がってもらう必要があった。




