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月曜日の朝。
私はいつものように、心春の家の前で彼女を待った。
いつもの時間になって、いつもと違う髪の心春がやってきた。
「はよーっす。」
「おはよう、心春。」
「いやーそんなでもないって、照れちゃうなー!」
「早い早い早い。謙遜がはえーわよ。まだ何も言ってないわよ。」
「おっといけねー。ほんじゃー友香、よろしくどーぞ。」
「……まあ、いいけど。ねえ心春、その新しい髪型最高じゃない。とても素敵よ。」
「いやーそんなでもないって、照れちゃうなー!」
「おんなじテンションで二回やれるって、あんたすごくない?」
いつも通りの無邪気な会話。
いつも通りののどかな朝。
私と心春は、きっとずっとこうなのだろう。
二人の関係は、いつまでも変わらない。気のおけない一番の仲良し。これまでも、これからも。ずっと。
それでいいんだと、私は思った。それでいいんだと思えるようになった。
「あ、そういや今日さー、へその穴からうどんがニュルニュル出てくるエロい夢見たんよ。それも讃岐うどん。なんなんだよなー。あたしゃ根っからのそば派だってーの。」
「私ちょっと今、心の中でいいこと言ってるんだから静かにしてくれない?」
「知らんがな。」
やっぱり心春は私に一ミリも恋心を抱いていない。
そのことを、朝一番からつくづく思い知らされた。好きな相手に、こんなバカなこと話せる女子高生はいないだろう。……まあ、心春ならひょっとして、って部分はあるけど。
英子のおかげで、さすがにもうショックじゃない。
だけどこんな感じの子でも、こんな心春でも、誰かに恋したりするんだな。そう考えると、ちょっと不思議な気持ちになった。
土曜に見た窓ガラス越しの光景、顔を赤らめたりする心春の姿が、勘違いか何かのような気がしてきた。
だから、確かめたくなった。
「心春。」
「あーでも、うどんの話してたら、なんかうどん食いたくなってきたなー。」
「心春ってば。」
「んー?」
「ちょっと聞きたいんだけど、あんた最近、好きな男の子できた?」
「はぁん?ねーですけど?急に何さ。」
「あ、そう。」
「そらそーよ。ん、あくび出るわ。ふあーあーあ……。」
「でも、好きな女の子はできたでしょ。」
「ぁぶっ!」
あくび途中の心春が、図星を突かれてむせた。
「な、なぜそれを……。さては心を読んだ?マジシャン?」
「エスパーよ、エスパー。心を読むのはエスパー。マジシャンはタネも仕掛けもあるから。」
「そっか、友香はエスパーだったんか……。こりゃまったく、意外な展開だね。」
「いや、私はエスパーじゃなくて、そういうことじゃなくて……ああもう、話が進まない!」
恋バナを始めようとしているのに、なぜエスパーの話になるのか。どうにも解せなかった。
あと、うっかりスルーしちゃったけど、あれは決してうどんの話じゃない。アホな夢の話だ。うどんに失礼だよ。




