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「で、でも、よ……。まあよく考えたら、友香にもチャンスあるってことじゃねえか?姫川も女いける口なんだって、これで判明したわけだろ?んで、真冬さんに今後振られるかもしんねーわけだし。仮に付き合っても、別れるかもしんねーわけだし。そうなりゃもう、『あわよくば』ってやつじゃん。や、やったじゃねーかよ。な?」
英子が、無理に明るい声を出して励ましてくれた。
「……ほんとだね。」
私は顔の筋肉を強引に動かし、どうにか笑顔を作った。それから、食べたくもないポテトをつまみ、かじった。
作り笑いは簡単にばれたらしく、英子は気まずそうな表情になった。
というより彼女も、自分でも言ってて気付いたのかもしれない。例え心春が真冬さんにあえなく振られたとしても、私の出番はないということに。
心春は、女性が(あるいは女性も)恋愛対象だった。
でもこれまで、私の好意には一切気付かなかった。
私に好きな人がいるかなんてどうでもよくて、見つめられても触られても平然としていて、休日に会うときはいつだってジャージだった。
それらの事実が指し示す結論は明白だ。
私は心春にとって、なんの性的魅力もない女なのだ。
それはどう好意的に解釈しようが、動かしがたい真実だった。
例えこの先、心春が真冬さん相手に失恋したって、その目がこちらに向けられることはないだろう。それに、あんなかわいい娘に好かれたら、あの真冬さんだってきっと……。
でも、だからこそ私は、心春の親友でいられたのかもしれない。私が魅力に欠ける平凡な女だから、心春は深い友情を抱いてくれたのかもしれない。
だって普通の人は、親友とキスしたいなんて思わないから。
「……このポテト、しなしなでおいしくないわね。」
最後の一本を食べ終え、ぼそぼそと言った。英子は曖昧に頷いた。
また無言の間ができた。
ポテトの塩のついたひとさし指を、軽く唇に押し当てる。
そんな無気力な仕草をする私を、英子はただ見守っている。
何も言わないのは、こちらに気を使っているのだろう。ハンバーガーショップなんかで、不意打ちの失恋をくらった私を。
でも、意外なほど私は悲しくはなかった。
悲しいというよりしんどかった。
無力感と、喪失感。
昔小説を公募に出したことがあって、それが一次選考であっさり落ちたときの気持ちに似ていた。
きっと無理だろうと思っていて、だけど本当の本当は「ひょっとして」と期待していて、結局やっぱり無理だったとわかったときのしんどさ。
現実がしんどい。私の夢想を一切受け付けない現実がしんどかった。
涙は出なかった。ただただ、しんどかった。
私は好きな人の恋愛対象外だった。それだけのことで、自分がとてつもなくみじめな存在に感じられた。
「ねえ、英子。」
唇にあてた指が、リップのピンク色にうっすら汚れていた。それをぼんやり眺めつつ、私は言った。
「……もう帰ろっか。」




